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TOZです。
んでもって、ED後~EP1の間ぐらいです。
いつものことですが、捏造しかありません。
毎度のことながら、マイナーです。
最終的にザビーダ×ミクリオになります。
スレイが超長いお休み期間に入ってしまったところの妄想です。
なので、スレイは最初から最後まで出て来ません。
ザビミク言いながら、最年少であろうミクリオをみんなで甘やかそう企画でもあるので、
誰かとミクリオの話になってます。
今回はロゼのターン!


追々、ロゼがオリキャラと結婚して歳取った表現が出てきます。
アリーシャも誰かしらと結婚してます。
アリーシャはセルゲイとくっ付けばいいじゃない、と思ってた時期もありましたが、
お互い跡取りっぽいから、そういう話が持ち上がったものの、お互い嫁/婿取ったと思います。
いい仕事仲間で、スレイファン仲間であってほしい。

公式を色眼鏡で眺めて、色々都合良く解釈しました。
まあ、例によって例のごとく、通常運転です。

タイトルは、こっこ さんの『ジュゴンの/見える丘』のワンフレーズからです。
割合、みんなこういう想いでミクリオのこと見てたらいいなーという願望。




 スレイがマオテラスの浄化の為に永の眠りにつき、カムランへと続く唯一の道に封印を施したその日の夜、まるで今まさに気付いたというようにミクリオは我に返った。返ってしまった。ああスレイはもう横にいないのだということ、ジイジにはもう永遠に会えないのだということ、己はそんな世界で生きていなければいけないということを。ミクリオはただただ途方に暮れた。あんなにも強い意志をもってヘルダルフに対峙していた自分は、どこにもいなかった。きっとスレイが隣りに居たからだ、彼はミクリオの哀しみをも浄化してくれていたのだ。哀しかった、苦しかった、寂しかった。憎い、という感情も確かにあったかもしれない。ただ、そこまでの熱情が、既に心に残っていなかった。空っぽだった、本当に、何を考えることもできなくて、動くこともできなくて、ただただ呆けることしかできなかった。

 ロゼが気を利かせて男性陣にと取ってくれた宿のベッドの上で、ミクリオは背を丸めて寝転がり、泣くでもなく眠るでもなく、そのままの姿勢で夜を過ごし、朝を無為に見送った。疲れているだろうから、と放っておかれていたようだが、昼を過ぎても起きてこないミクリオが心配になった面々が部屋を訪ねたことで、ようやくミクリオの異変は発見された。

「何してるのよ、ミボ。さっさと行くわよ」
 あえていつもの調子で傘の先をミクリオに向けたエドナに対して、ミクリオの反応は薄かった。ゆっくりと瞼を開け、エドナを確かに見たはずのその眸を、再び閉ざす。ミボのくせに、無視するなんていい度胸ね、とエドナが嫌味を投げかけても、ミクリオの閉ざされた瞼が開くことはなかった。ころころと表情を変えるミクリオを知っているだけに、エドナも流石に次の言葉が出てこなかった。スレイがマオテラスの器として眠りについて、既に三ヶ月が過ぎていた。慣れたと言いたくはないが、彼は受け入れて乗り越えたものだと思っていたのだ。そう思っていたのは、エドナだけではない。時折寂しそうに空を見上げてはいるものの、目に見えて落ち込んでいる様子はなかった。けれど、そうではなかったのか。彼は忙しさにかまけて、忘れていただけなのかもしれない。考えないようにしていただけなのかもしれない。封印を施したことで、一つの区切りがついたことは確かだ。そこでミクリオはようやく、現状を把握したのではないだろうか。

 困ったのは、ロゼとアリーシャだ。できればミクリオをそっとしておいてやりたい。彼の心が再び動き出すのを待ってやりたい。けれども、アリーシャにはアリーシャの仕事があり、ロゼにものんびりバカンスをしている暇はなかった。さっさと宿を引き払って、アリーシャだけでもハイランドに送り届けなければいけないのだ。
「ねぇ、どうしよっか」
 ロゼは、こちらに背を向けて丸くなっているミクリオをちらりと見、仲間たちを見回した。中でもアリーシャは深刻そうな表情で、ああミクリオ様御労しい、と暗い声を落としている。今にも彼の隣りに寝転がり、同じように世界を閉ざしてしまいそうだ。ロゼはそれを敏感に感じ取り、あんたまで暗くなんなって!と、とアリーシャの額を人差し指で弾く。ロゼの無神経!とアリーシャも声を荒げるが、ロゼのおかげで調子が上がったのか、ごほんと咳払いをして、
「どうしますか?」
 と、ロゼの言葉を再び繰り返した。
「とりあえず、あんたはさっさと帰りなさい。ミボに付き合う必要はないわ」
「そうですわね。長いこと国許を離れてしまいましたから、一度帰って報告なさった方がよろしいですわ」
「ですが、」
「あんたは自由が利く身分じゃないんだから、さっさと帰った帰った。ミクリオの陰気が移って、あんたまでいじいじし始めたら厄介だしね」
 ロゼの、アリーシャにだけは手厳しい言葉に、彼女も噛み付く。こうやって彼女を励ましていることは天族たちだけでなくアリーシャも気付いているのだが、いかんせん、叱咤激励の言葉が少々過激だ。
「そんな言い方しなくてもいいじゃない!ミクリオ様が心配じゃないの?!」
「心配に決まってるじゃん。でも、あんたがいたところで、ミクリオは回復しない」
「ロゼの言葉には思いやりがない!」
「まーまーお二人さん、仲が良いのは結構だが、もうちょい声のボリューム落とそうぜ。店主に追い出されたくはねぇだろ」
 珍しく正論を吐くザビーダに、アリーシャだけでなくロゼも、ごめんと声を落とす。
「とりあえず、アリーシャちゃんをハイランドに送ろうぜ。ミクリオは、ロゼの中に入っててもらえば、とりあえず移動は問題ねぇだろ」
「……」
 自分だけ蚊帳の外にしてくれるな、とアリーシャが縋るような目でザビーダを見る。彼女の想いは誰もが分かっていたが、だからと言っていつ元気になるか分からないミクリオに付き合わせるわけにはいかない。つい数ヶ月前まで、最大の敵国だった相手との外交の最前線で架け橋をしている彼女は、既にハイランドにはなくてはならない人物なのだ。
「聞き分けない子どもみたいなこと言ってんなって。誰もあんたを仲間外れにしたくて言ってるわけじゃない。あんたにはあんたのやるべきことってのがあるからでしょ」
 ロゼにはあからさまに悔しそうな表情を見せて、アリーシャは顔を俯けた。可哀想なことをした、と慌てるのは今は反応の返さないミクリオぐらいで、ロゼは、拗ねるなって、と笑い飛ばしてしまう。
「アリーシャさん。あなたの気持ちもわかります。でも、ここはロゼさんの言う通りにしてくれませんか?」
「ミボの為に人生棒に振るなんて、馬鹿馬鹿しいわ」
 誰からも援護射撃のないアリーシャは、渋々と言った様子ではあったが、ようやく頷いた。この間、やはりと言おうか、ミクリオからの言葉はなく、ただただ物言わぬ背がこちらを睨みつけているだけだった。



 マーリンドでアリーシャと別れた一行も、これといった目的があるわけではなかった。各地の加護も復活し、災禍の顕主が倒された今、大陸を覆っていた穢れは徐々に減少しつつあった。まだまだ憑魔は存在しているが、災厄の時代が明けたと言って過言ではないだろう。変異憑魔の噂もない。ロゼもようやくセキレイの羽の仕事に専念できることだろう。セキレイの羽として各地を巡りながら、発生した憑魔退治する、というのが、当面の目的となった。

 各地に張り巡らされているセキレイの羽の情報網は、大いに役に立った。市井の声を直接聞くことのできる彼らは、特に異変に対して敏感に感じ取ることができたからだ。今回は、カンブリア地底洞に出現した、まだ憑魔となって間もない天族を浄化することに成功した。まだまだ雑魚憑魔は多いものの、総力戦になるような憑魔はほぼいなくなったし、穢れの量も随分と減少した。二大大国間の距離が急速に縮まったことも起因していることだろう。だが、人間と天族が共存する世界は、まだまだ遠い。天族が認識できる人間は、そう簡単には増えやしない。霊応力と呼ばれる力が大地に蓄積され、それを食物や空気から人が摂取し、ゆっくりとゆっくりと循環していくしかないのだ。

「うーん、久しぶりのお日様!」
 ロゼはじめじめとしたカンブリア地底洞から飛び出すなり、眩しい太陽の光の下で嬉しそうにのびをした。アリーシャ以外の誰とも従士契約を交わしていないロゼにかかる負担は相当のものだが、彼女はとびきり明るいいつもの笑顔を絶やすことはない。
「少し休憩しましょうか。良いお天気ですし、何か簡単なものでも作りますね」
「賛成!」
 既に凱旋草海は慣れた道だ。休憩をするのによい平地も熟知している。定位置の木陰に一番に腰を下ろしたロゼは、ライラのおやつができるのを今や遅しと待つ。ただ、ロゼ自身が思っているよりも疲労は蓄積されていたようで、ぽかぽかと温かい日差しと、時折吹く柔らかい風の心地良さに、次第に目蓋は降り、小さな寝息を零し始めた。そっとしておこう、と、危険にならない程度に距離を置いた天族たちだが、木にもたれ掛りながら眠りについているロゼに近寄る影が一つ。ミクリオだった。戦闘に参加せず、ただひたすらロゼの中に宿っていたミクリオは、彼女の中から姿を現し、いつかのスレイとロゼのように、ロゼの隣りにぴたりと寄り添った。ミクリオはロゼの隣りで膝を抱えて、ゆっくりと瞬きをした。再び目を開いた先は、己の祈る世界であればいいのに。そう彼が言ったわけではなかったが、多分にそんな願いが込められているような気配があった。

*

「ミクリオ」
 体勢はそのままで、ロゼが口を開く。ミクリオの反応は、相変わらず薄い。無理矢理に連れ回しているような状態だ。イズチで療養した方がいいのだろうかという話もあったが、きっと今の彼にあの地はあまりにも思い出に溢れ過ぎていて辛いばかりだろう、とこうして旅に同行させている。
「イズチに帰りたい?いいよ、本当のこと言って。あんたも全然我儘言わないんだもん」
 ミクリオは澄んだ空を見上げて、ゆっくりと首を横に振った。くっ付いているせいで、彼の髪が頬にあたってくすぐったい。
「…ロゼは、強いな」
「そっかな」
「僕は、駄目だな。どうすればいいのか分からない。自分がどうしたいのかも分からない」
「それってさ、悪いこと?いいじゃん、ゆっくりで。誰かのペースに合わせる必要なんてないよ」
 ロゼは言いながら、自分の肩にミクリオの頭をもたれかからせようと、彼の頭を強引に引き寄せた。彼はこんなにも繊細で脆かったのに、あの旅では一言も泣き言を漏らさなかった。それは、スレイがいたからだろう。彼と痛みを分かち合って支え合って、無意識のうちに依存し合って。己の半身がいなくなってしまったミクリオの姿は、あまりに寂しい。
「ミクリオは誰かさんを甘やかすばっかりだったから、甘え方を知らないんだよね。それって、すっごく損してるよ」
 唐突にミクリオを抱き締めてあげたくなって、ロゼは腕を引いてミクリオの背に手を回した。瞬間、ミクリオも驚いたようだったが、抵抗はなかった。こうして彼の体温に触れる存在が身近にあったせいだろう。
「実を言うとさ、ローグリンで再生の石碑だっけ?あそこで過去を見た時、ミクリオとの旅も終わりかなぁって思ったよ。でも、あんたは泣かなかった、くじけなかった、もうやめたいって泣き言一つ言わなかった。すごいって思ったね。ホント、言葉知らないのがもどかしいけど、すごいなこいつはって思った」
 まるで子どもをあやすように、ぽんぽんとミクリオの背をたたく。彼は何も言わずに、ロゼのされるがままになっている。まだこの温もりを受け入れる余裕はないのかもしれない。それでも、ただただ伝えたかった。きみはひとりではないよ、と。きみを慈しんでくれるひとは、世界はあるんだよ、と。
「スレイがいたからってミクリオは言うかもだけど、自分の足でちゃんと立ってたのはミクリオでしょ。褒めてあげなよ。しんどい過去を一つ乗り越えた自分を、もっと誇らしく思ってよ。それに、スレイが勝手に一人で決めちゃったことを、ミクリオは信じたんでしょ。理由も根拠もなく、信じることができたんでしょ。それってさ、ミクリオが思ってる以上に勇気が必要なことなんだよ」
「…スレイに打ち明けられた時、」
「うん?」
「…多分、そこまで考えていなかったんだと思う。ずっとそばにいたから、いなくなるということが分からなかったんだ」
 そっか、寂しいね。
 ロゼはそう言って、ぎゅうと強くミクリオを抱き締めた。寂しいという感情も、もしかしたら彼は初めて知ったのかもしれない。彼は寂しさを抱えながら、いつ戻るとも知れない半身を、ただひたすら待つしかないのだ。マオテラスの浄化にどれほどの時間がかかるのか分からない。少なくとも、ロゼが生きている間には無理だろうなということは、なんとなく察している。あたしはもう会うことができない。最後の最後で置いてけぼりにした男を、馬鹿野郎!って怒ることもできない。ロゼの中で、不思議な程簡単に折り合いがついていた。けれどもミクリオは、その永久にも似た命のせいで、スレイを待つことができる。できてしまう。帰ってくるのはいつだろう。明日明後日?一週間、一ヶ月後?一年、十年、それとも百年後?そうやってじりじりと焦がれながら、まるで真綿で徐々に羽交い絞めされるように彼を想って生きるのは、ロゼの性に合わない。けれどミクリオはそうやって生きるのだろうな、と。これも、不思議な程簡単に、すとんと理解できてしまった。
「待つんだ?待ってあげるんだ?あたしを、でもってあんたをとんでもなく置いてけぼりにした男を」
 こくり、と。ロゼに抱き締められている体勢で尚、はっきりと頷いたミクリオの強情さに、感心を通り越して呆れてしまった。まるで呪いのようだな、とロゼは己で思いながら、笑ってしまった。いつも人のことばかり考えていた導師様が、最後の最後で自分の一番大切な人に、一番ひどいことを押し付けて行った。馬鹿な男だと思うけれど、スレイもちゃんと人間だったんだ、と思うところもあった。ロゼにとっても、スレイはあまりにも綺麗に生き過ぎた。そんな存在であるスレイの、ロゼが見つけた唯一の瑕疵だ。あたしの仕事は殺すことだったのではなかったか。その為にと言えばスレイは否定するだろうけれど、スレイに人殺しをさせない為に、自分は彼の旅に同行していたのだ。スレイに手を汚させたくはなかった。今ですら尚、ヘルダルフにとどめを刺すのは自分の役目だったと思うのだ。悔しい。その意趣返しではないが、スレイがミクリオに呪いをかけてしまったのだとしたら、自分も同じようにしてやれ、と、ささやかな復讐を思いついた。こんな仕返しをしたところで、スレイは笑い飛ばしてしまうだろうけれど。
「それならさ、一個、頼まれてよ。あいつが帰ってきたらさ、あたしの代わりにバカヤローって言って一発でも十発でも百発でも殴っといて。手加減すんなよ!思いっきり殴るんだからね!」
 ま、どうせ無理だろうけど、と心の中で呟く。ミクリオの過保護は今に始まったことではないからだ。
「で、さ、きっとスレイが目、覚ますまで、すっごい時間があるんだから、今はぐずぐずの駄目駄目でもいいとあたしは思うわけ。ミクリオが一番意地張りたかったのって、結局スレイでしょ?なら、今はだらっとするチャンスなわけだし。ゆるゆる行こうよ。ね?」
 約束だから、と、ロゼはミクリオの額の髪をかき上げて、そっとサークレットに己の額をくっ付けた。このサークレットは幼い頃から彼が身に着けていたとても神聖なものだと聞いている。だったら、そのサークレットに乗せたあたしの想いだって、とっても神聖で大事な、彼を縛る甘い呪いになるはずだ。
 ロゼはぱっとミクリオを解放し、さ、そろそろライラのお菓子もできてるかな!と立ち上がった。砂糖を焦がした甘いにおいが漂っている。これはむしろ待たせてしまったかな、と場の空気を読み過ぎる仲間に苦笑しつつ、ほら、行こうミクリオ、と彼に手を伸ばすのだった。
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