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TOZです。
3の続きです。
そろそろ折り返し地点のはず。
ザビーダ×ミクリオを最終目標にしてますが、
メインはみんなでミクリオをでっろでろに甘やかすんだ!です。
今回はエドナさんのターン!


もう捏造しかない状態です。
ロゼがオリキャラと結婚します。
でもって、アリーシャも誰かしらと結婚してます。







 ミクリオとザビーダが二人暮らしを始めてからしばらくして、ロゼも風の骨をやめることを決意した。戦争で疲れ切った世界が平和な時代へと歩もうとしている中、セキレイの羽の仕事がうなぎのぼりに増えたこともあるが、彼女自身、潮時だと思っていたようだった。かつてルナールによってエギーユたちが捕まったことも理由の一つだった。

 その日は風の骨としての仕事納めでもあった。再び戦争を起こそうと画策しているハイランドの貴族の暗殺を滞りなく終え撤収する際に、その男と遭遇した。殺すことは簡単だったが、暗殺集団だからといって関係のない人間まで手にかけているわけではない。少し脅せば逃げ出すだろうと、とびきり凄んだ声に殺気も乗せて忠告したロゼの耳に飛び込んできたのは、誰一人として予想のできない答えだった。

「もう勘弁してよ!どこの世界に、殺人現場で!今まさに人ひとり殺した女に!一目惚れする馬鹿男がいるわけ!」

 と言うわけなのだ。場にそぐわない愛の告白をしてのけたその男から逃げるように現場を後にしたロゼであったが、その後、恐ろしい執念でロゼの身元を割り出したその男は、毎日毎日、ロゼを口説きに来るんだとか。耐えきれなくなったロゼは、仕事と偽り、ザビーダとミクリオの住むこの屋敷に逃げ込んで来たのだ。ちなみに相手は、貴族は貴族でも中流貴族の三男坊だ。長く続いた不遇の時代から貴族たちの懐事情も厳しく、商人の方が資産を持っている者も多い。長男であれば引き継ぐ資産もあったろうが、三男ともなれば適当な家に婿に出されること必至。それを幼少期から理解していたようで、セキレイの羽で働くのも厭わないと、なんとも貴族らしくない性格をしている男らしく、エギーユたちの評判もそこそこらしい。金勘定はあやしいものの、流石貴族と言うべきか、特に美術品に関しての目利きは本物だ。見目も悪くはない。少し頼りなさそうではあるものの、ロゼの姉御肌に尻に敷かれている様子が目に浮かぶ辺り、お似合いではあるのだ。ライラとエドナも、降って湧いたロゼの恋愛話をさも楽し気に眺めているばかりだ。味方なんてどこにもいない!と、藁にも縋る思いで、ザビーダの屋敷にまで愚痴を零しにきたのだ。

「誰かに愛されるなんて、素晴らしいことですわ」
「そうよそうよ。女子力低いあんたに惚れるなんて、奇特な男も居るというのだから、世の中面白いわね」
 ライラとエドナは完全に今の状態を楽しんでいる。実は言うとザビーダも、試しに付き合えばいいじゃん?と思ってしまっている時点で、彼女たちと同類だ。そこへ、エドナの駄々に応えて、チョコレートジェラートを作りに行ったミクリオが、人数分の皿を手に戻ってきた。
「君たち、他人事だと思って」
「あたしの味方はミクリオだけだよ」
 そう言いながら真っ先にジェラートにかぶりつく辺り、愚痴を言い訳にザビーダたちの元を訪ねたかっただけかもしれない。正確には、ミクリオを、だろうけれど。快く送り出したとは言え、心配にならないはずがない。おそらく、生きた年月を思えばミクリオもロゼもそう大差はないだろうに、ロゼの強かさはミクリオにはないものだ。
「それにしても、ロゼは今までそういうことはなかったのかい?」
「そういうことって?」
「行商先で告白されたり、とか」
「はあ?あるわけないじゃん。あたしはライラみたいに美人じゃないし、エドナみたいに可愛くないし、アリーシャみたいにお上品じゃなし。ガサツだし、男勝りだし」
「そうかな。僕はロゼはとても魅力ある女性に見えるよ。ロゼだって十分美人じゃないか」
 全員に配り終えてザビーダの隣りに腰掛けたミクリオは、さも当然のことのように言ってのけた。もちろん、ザビーダも同感だ。何より彼女には、誰にも負けない芯の強さがある。いい女だ、とザビーダも思うが、女らしさで言えば、残念ながら、ロゼの言葉に賛成だ。そもそも、そういった手放しの賛辞は彼の役目ではない。恥ずかしい言葉を素面で言ってのける幼馴染が横に居たせいで、彼も感覚が麻痺しているのだろうか。ミクリオは照れた様子もなく、紅茶に口をつけている。微笑ましそうな視線を送るライラに、どこかつまらなさそうにジェラートをすくうエドナの姿など目に入ってすらいないだろう。
「まさかミクリオからそんな言葉聞けるなんて、思ってもみなかった」
 あー恥ずかし!と、机に突っ伏したロゼに、なにが?と追い打ちをかけるミクリオに、流石にロゼが可哀想になって、助け舟を出す。
「そういうことは言葉にしないもんだぜ、ミク坊」
「どうして?僕はロゼ以上に格好良い女性を知らないよ」
「だから、そういうのはお前の心に秘めとくもんなの」
 ぐしゃぐしゃとザビーダ自ら整えたミクリオの髪を掻き回す。ちらりとロゼたちを見やれば、やはり微笑ましそうにこちらを眺めているライラと、彼女とは正反対に顔を顰めたエドナと目が合った。ロゼはまだ机に顔をつけたままだ。それでもミクリオ特性のジェラートは忘れておらず、顔を僅かに横にして器用にスプーンですくい取って口に運んでいる。
「  ・・・―――」
 エドナの表情に思うところがあったザビーダは、咄嗟に彼女の名を呼びかけたが、それよりも先にエドナの眼が、まるで「黙りなさい」と言っているかのように鋭くザビーダを見据えた。結果、ザビーダの口から彼女の名が紡がれることはなく、全く違う言葉を紡いだ。
「なあロゼ、来たついでで悪いんだけどよ、ちょっと入れ替え考えてる家具があるんだわ。ちょい見てくんねぇ?」
「いいよー。ザビーダはセキレイの羽のお得意様だしね」
「私もご一緒してもよろしいでしょうか?このお屋敷の調度品はどれも素晴らしいですから」
「お、ライラも来てくれんの?こりゃ、両手に華だな」
「見積りにサービス料も入れとくからねー」
 そう軽口を言い合いながらも、ミクリオにご馳走様と各々告げて、ザビーダが案内する部屋へと消えて行った。

*

 会話の消えた部屋に静寂が流れた。ジェラートと完食したエドナは、ご馳走様、とスプーンを置いて、少し冷めてしまった紅茶で喉を潤している。ミクリオは自分の分のジェラートは用意しなかったから、僕の分も食べる?と強引に会話を繋ぐことも難しい。ミクリオがなんとなく居心地の悪い沈黙に耐えていると、エドナはまるでこの沈黙に気付いていません、とでも言いたげに、いつもの調子で口を開いた。相変わらず、表情はどこか険しい。
「執筆は進んでるの?あんな男と、こんな辺鄙なところに引きこもって」
「まあまあ、かな。いつまでに完成させる、なんて考えてないからね」
 そう、とエドナは目を細めて、じっとミクリオを見据える。エドナの視線は容赦がない。それは六人で旅をしていた頃から、ミクリオにとってはそうだった。嘘をつくのは許さないと、まるで嘘を見透かす術を知っているかのように、ミクリオの心にその視線を突き立てる。だからミクリオは彼女の視線が少しだけ苦手で、けれども、自分に厳しくあるその視線の裏側に、どんな言葉を言おうとも嘘ではない限り、彼女が許してくれるのでは、という甘えがあった。彼女は厳しいが、その厳格さがミクリオにとっては心地良かった。
「ネガティブミクリオになってたら、あたしの山に引っ張って行くつもりだったのに」
「え?」
「急いで前に進む必要はないってことよ。十年間、山に引きこもってた大先輩が言うんだもの、間違いはないわ。あんたにはたくさんの時間があるんだから。あんたのそういうせっかちなところ、人間みたいよ。いい加減、天族らしくなりなさい」
 天族の村で育ちはしたが、スレイがいたおかげで人間のリズムの方が身体に染み付いている。天族らしく、と言われても、ミクリオはよく分からない。だって自分は天族で、それ以外の何者にもなれやしない。ロゼやアリーシャと同じ時間を刻むことすらできない。それにどうして?と嘆くことはしない。そういう意味では、まだ天族としては幼いミクリオであっても、そういうものだと理解している。
 きょとんとしているミクリオに、まあいいわ、と考え込みそうになったミクリオの思考をばっさりと切り捨てる。
「この生活は楽しい?楽しいんでしょうね。だって、笑顔が自然になっているもの」

*

 エドナは、少しずつ明るさを取り戻しているミクリオの姿に、嬉しい反面、少しばかりの嫉妬があった。ザビーダへのだ。もっと、暗く沈んでいててもいいのに。もっともっと、落ち込んでいてていいのに。急いで立ち直る必要はない。急いで彼の不在に慣れる必要はない。エドナ自身、兄がドラゴンへと憑魔化してから十年、立ち止まっていた。止まった時間の中に居た。ドラゴンになった天族は元に戻らない。けれども、倒さない限り、倒されない限り、ドラゴンという憑魔ではあっても、兄はこの地で生きている。エドナはその結論で立ち止まってしまった。兄と共に暮らしているとは言えなかったが、風の天族と各地を旅してばかりいた兄が自分の近くに居るという事実は、エドナの心を慰めた。ドラゴンであってもあたしのお兄ちゃん。もうあたしのことが分からなくても、あたしですらただの餌でしかなくても。それは息苦しい生活ではあったものの、少しばかりの安らぎでもあった。人間のように命の限りがない己の生が、嬉しくもあり苦しくもあった。あたしはいつまで、兄の咆哮を聞き、兄が殺した人間の墓を作り続けるのだろう。永遠の呪縛はゆるゆるとエドナの心を蝕んで行った。
 それを救ったのはスレイだった。再び己の足で歩き出すことを教えてくれた人だ。人間は今でも嫌いだ。けれど、スレイたちは違う。ミクリオがああなってしまった時、ああ自分と同じだ、と思った。今は立ち止まってもいい。いつか、その暗闇から引っ張り上げてくれる存在が、必ずいるから。その誰かは、できれば自分でありたかった。スレイのように、かつて自分を右も左もない暗闇から引っ張り上げてくれたように、今度は自分が、スレイがやってくれたように、ミクリオに返してあげたかった。
 それなのに、それなのに。
 はあ、と大きくため息をつけば、ミクリオはどうしたんだい?と言いたげな視線をエドナに向ける。あなたのせいよ、半分は八つ当たりだけど。と言ってしまいたかった。

「ザビーダとの生活はどうなのよ?」
「どうなんだろ。一緒に暮らしているのに、あんまり一緒に居ないんだ。それなのに、いつの間にか隣りに居て、でもそれが不快とかじゃなくって、なんていうか、うーん、言葉にするのは難しいんだけど、」
「別にいいわ。お兄ちゃんもよくあの男の話をしてくれたけど、てんで的外れだったもの」
 あら、紅茶無くなっちゃったわ、とわざとらしくカップを揺らして、ソーサーごとテーブルの中央へと寄せる。お代わり淹れようか?と提案するミクリオの言葉に、お客様を一人にする気?と強引に彼を引き止める。
「聞いてもいいかい?」
「質問によるわ」
 少しだけ躊躇うように表情を曇らせたミクリオに、言ってみなさいよ、とエドナの言葉がかかる。
「…アイゼンさんってどんな人だったの?」
「躊躇うことかしら。別にいいわよ。家族のことを話すのに、嫌な思いをするわけないじゃない」
 本当は、あたたかい思い出として兄のことを語るには、随分と時間を要したものだ。だって、もう兄はいないのだと再確認させられているように感じるから。今だったら、楽しかったあの日の出来事を自慢するように喋ることができる。だって、兄は今でも大切な人であり続けるから。

「お兄ちゃんはいつも笑っていたわ。能天気で、ちょっと抜けてて。
 あたしのことが大事だ、大切だって言う割に、すぐに旅に出て。一ヶ月二ヶ月戻らないことだってあったわ。
 その度に、あたしのご機嫌取りに各地のお土産を持ってきて、許してくれエドナ、もうお前を置いて行ったりしない、ずっと一緒に居るから。そう言って抱き締めてくれたけど、一年もするとそんな話も忘れてて、また旅に出るのよ。あの男と一緒にね」
 ザビーダと?そうよ。あの男はあたしの大事なひとを取ることに関してだけは天才的だわ。
 嫌味ったらしく言ったところで、ミクリオには通じないだろう。それでも、彼を憎いと思ったことはなかった。兄の語るザビーダという男は、本当に格好良い男だったからだ。
「『面倒見がよくて、知識も豊富で、腕っぷしも強くて。いつも助けられてばかりなのに、そんな自分を相棒と呼んでくれるんだ。ああいうのを男前って言うんだろうなあ。彼はとにかく格好良くって、自分の憧れなんだ』」
「それって、もしかしてザビーダのこと?」
「そうよ。お兄ちゃんは本当にそう思ってたみたい。笑えるでしょ?全然違う人物だもの」
 全くね、とミクリオは声を立てて笑った。久々に見た彼の笑顔は、自分だけの力ではないけれど、それでもエドナの心をあたたかくした。
「帰ってくる度に、そう言って褒めるのよ。いつの間にか、気になる存在になってたわ」
「それって、好きってこと?」
「そうね、思えば初恋だったのかも。あ、今は全然そう思わないから。これっぽっちも好きじゃないから。あんな男が初恋だなんて、あたしの輝かしい人生最大の汚点だわ」
 そんなに言わなくても分かるよ、と苦笑するミクリオに、本当かしら、とエドナは思う。だって、彼はザビーダの好意にこれっぽっちも気付いていない。ミクリオに鈍い鈍いと言われていたのはスレイだが、ミクリオだってエドナに言わせれば似たり寄ったりだ。
「でも、」
「なに?ミボのくせに、あたしにいちゃもんつける気?」
「そうじゃないって。ただ、アイゼンさんが格好良いって言ったの、ちょっとだけ分かるかなって」
「あんた大丈夫?騙されてるわよ、絶対」
 ひどいなあ、と笑うミクリオの姿が、ここにはいない人物と重なる。それは兄であったり、スレイであったりした。彼はもっと、大胆に笑う子だったのに。口を大きく開けて、整ったその顔がくしゃくしゃになることも構わず、顔全体で感情を表現するような子だった。急速に大人びていくミクリオ。ねぇ、それは一体誰のため?

「それにしても、三人とも遅いなあ」
「ロゼの口車に乗せられて、色々買わされてるんでしょ。ほっとけばその内戻ってくるわよ」
 そうだね、と、ふっと後ろを振り返って、彼らが消えて行った扉へと目をやる。彼の後ろ姿が否応なくエドナの眼に入る。訪ねた時から気付いていたが、随分と髪が伸びていた。彼の動きに合わせて、肩の辺りで揃えられている毛先が揺れている。ライラやザビーダは、その年齢からほとんど外見に変化はない。彼らに比べてまだ年若いエドナは少しばかり毛先が伸びていたが、ミクリオのように目に見えての変化はない。幼いと言っても過言でもない程、この天族は生きていないのだ。
「髪、伸びたわね。で、一丁前にちゃんと手入れしているわけ?まあ見っともない伸ばし方してたら、あたし直々にばっさりやってあげるつもりだったのに」
 ミクリオは振り返りながら、ああこれ?と、髪を一束つまむ。水の天族を体現するかのように、彼の髪色は毛先に行くにつれて色素が色濃く染まっており、グラデーションが美しい。けれども、共に旅をしていた頃から全く己の容姿に頓着しない彼は、やはりその髪にもこれといった愛着はないようだった。
「本当は切るつもりだったんだ。長くても面倒だしね」
「は?願掛けとかじゃないわけ?」
「なんで?なんの為の願掛け?」
 スレイが無事戻ってきますように、とかが妥当なところだろうと勝手に見当をつけていたエドナは、うっかり呆けた顔を浮かべてしまった。見た目は儚げな美少年なくせに、彼は妙に所帯染みているというか、現実主義というか、とにかくロマンチシズムを欠片も理解しない子であった。
「ホント、あんたって、色々中身が残念ね」
「悪かったね、可愛げがなくて」
「で、面倒なのを我慢してまで、なんで伸ばしてるわけ?」
「ああ。僕は切ってもいいんだけれど、ザビーダが自分の為に伸ばしてくれって言うから。定期的に毛先も整えてくれるって言うから、別にいっかと思って」
 そう、ふぅん、と、妙に冷たい声が出た。あの男は、これだから信用ならないのだ。唯一、エドナの溜飲を下げたのは、ミクリオがザビーダの意図を全くと言っていい程、気付いていないことだ。明日の朝食はホットサンドがいいな、と約束をするのとはわけが違うというのに、きっと彼の中では大差ないのだろう。ホント、色気のない子だこと。まだまだミボから卒業出来そうにないわね、とエドナが思っていたことなど、全く気付く様子のないミクリオだった。


 その後、他愛のない話をしている間に三人は戻って来た。ロゼのほくほくといった様子が見て取れ、相当な商談になったようだ。
「そろそろ帰るわよ」
「なんだ、泊まってくんじゃねぇのか?」
「うん、最初からそのつもりだったから。ペンドラゴの宿屋、もう取ってあるしね」
 そう言われてしまえば、ザビーダとミクリオも引き止めるわけにはいかない。気を付けて帰れよ、と、彼女たちを送り出せば、誰に言ってんの、大丈夫だって!とロゼがどんと胸を叩いていた。それもそうか、と顔を見合わせて、三人を見送ったミクリオとザビーダは屋敷の中へと戻って行ったのだった。

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