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TOZです。
4です。
あともうちょっと。
ザビーダ×ミクリオを目指してはいるものの、毎回、誰かとミクリオの話がメインなので、
CP表現は薄いです。
ようやくアリーシャの番です。


もう捏造しかない状態です。
ロゼがオリキャラと結婚します。
でもって、アリーシャも誰かしらと結婚してます。
が、全然設定は活かされていません。







 朝食の準備も整い、さてそろそろミクリオを起こしに行こうか、とザビーダが腰を上げたところだった。できたー!!とミクリオの部屋から大声が聞こえて、なんだなんだとザビーダも彼の部屋に顔を覗かせる。机の上にはクリップでまとめられた紙束と、その周りにメモ書きされた紙切れと万年筆、インク、ぐしゃぐしゃに丸められた紙くずなどが散乱していた。が、当の本人はあまりきれいとは言えない状況の中、できたできた!と椅子から立ち上がりのびをしている。問わずとも、執筆していた旅の記録がようやくまとまったのだろう。この屋敷で暮らし始めて、五年が経とうとしていた。

「ようやく終わったか、そりゃめでたい。さっさと朝食にするぞ」
「もう少し感動に浸らせてくれよ。すぐに行くけどさ」
「聞き分けのいい子どもは好きだぜ。ほら、冷める前に食っちまおうぜ」

 あれからゆっくりと伸び続けたミクリオの髪は、背中に届く程の長さになっていた。ザビーダは、くしゃ、と彼の頭を掻き回す。いい加減子ども扱いはやめてくれ、と言葉で抗議するものの、ザビーダの手を振り払ったことはなかった。慣れってのはおっそろしいもんだなあ、とザビーダ自身思いながらも、まだ子ども扱いさせてくれるミクリオにほっと胸を撫で下ろす。いつまでこの距離が許容されるだろうか。まだまだ幼い天族でいてほしい、と思う反面、せめて色恋の多少は知ってほしいと思わなくもない。彼はいまだに、ザビーダがどういう意図を持って、どういう下心を抱いて、この髪を独占しているのか知らないのだ。

「早速ロゼに売り込みにでも行くか?」
 軽く温めたベーグルに野菜を適当にはさんだ簡易サンドイッチにかぶりつきながら、ザビーダは問い掛ける。完璧に半熟に仕上げた目玉焼きの黄身を壊さないように、ミクリオはことさら丁寧にナイフを入れている。黄身と白身とを一緒に食べるのが醍醐味だろうに、ミクリオは徹底して二つを切り分けている。あまりに真剣過ぎて、ザビーダへの返答はおざなりだった。
 そもそも、ロゼ自身が当初から言っていたことだ。内容の出来にもよるけど、どうせ出版するならセキレイの羽でさせてよ、と。それに苦笑で返していたのはミクリオだ。執筆作業と言っても、自己満足だったのだ。それなのに、いつの間にか周りだけは盛り上がっており、ライラなどは会う度に、ミクリオさん原稿の調子はどうですか?と訊ねてくる始末だった。
「それ本気?素人が書いたんだよ?」
「そこんとこはロゼが見極めるだろ。うまいこと編集してくれるって」
「本当に自己満足だから、正直、人の目に触れさせたくはないんだ」
 目玉焼きの切り分け作業は満足のいく出来だったようで、ようやくミクリオも顔を上げた。
「まあまあいいじゃねぇの。俺様がちょちょいと力注いでやるから。これで人間にも見えるようになるぞ」
「君は僕の話を聞いていたかい?ああそれと、一応自分の中で書き終わったんだけど、なんか、最後がしっくり来ないんだよね。締めの言葉がいまいちっていうか、ちょっと寂しい気がするんだ」
「それなら、この本を誰々に捧ぐーとか書いてとけば?なんかそれっぽくなんねぇ?」
「あ、それ、いいかも。あとでちょっと付け足しとこう」
 その後、久々にロゼたちに会いに行くのもいいな、と話し合いながら、朝食を終えた。ライラとエドナは相変わらず、ロゼの主神・陪神として共にいる。ロゼも、この数年の間に結婚していた。相手は、あのとんでもない場面でロゼに一目惚れした貴族だ。今ではセキレイの羽の一員として働いているらしい。ロゼは結婚しても何度かこの屋敷を訪れているが、旦那を連れてきたことはなかった。アリーシャには既に子どもも生まれているらしい。残念ながら、二人で暮らすようになって一度もこの屋敷から出たことがないせいで、アリーシャの近況は手紙かロゼたちの世間話でしか知る方法はない。別段、この屋敷から出られないわけでも、出てはいけないと決めたわけではない。なんとなく、そうなんとなく、ミクリオが執筆を終えるまでは、という気持ちだったのだ。ああそれなら、彼を引き止める理由はなくなってしまった。二人で生活する意味もなくなってしまった。ミクリオはどうするだろうか。ザビーダは直接訊ねることができなかった。君には世話になったね、さようなら。そう言ってイズチに帰るかもしれない。スレイがいないことを誤魔化すように、世界中の遺跡巡りに旅立つかもしれない。最初から強引にこじつけた共に居る理由も、もうなくなってしまったのだ。

 朝食の後片付けをし、さて今日はどうしようか、と思いながら、ミクリオの部屋を覘き込む。ノックはしたり、しなかったりだ。礼儀作法に厳しい育て親だったようだが、彼から文句が飛んできたことはない。気まぐれにノックをして、返事も聞かずに入室した。ミクリオは机に向かっていたが、今まさに最後の一筆を終えたようで、万年筆を置くところだった。
 誰の為、だなんて、確認するまでもない。スレイだろう。親愛する友へ、とでも綴られているのだろうな、とまるで見ていたかのように見当につけたザビーダだが、小柄なミクリオの肩から紙面を覘き込んで、思わず、なんで?と呟いていた。
「そんなに驚くことかな?」
 随分近い距離にあるザビーダの顔を振り返りながら、ミクリオは首を傾げる。丁寧に記された古代語は、ザビーダの想定外の言葉が書かれていたのだった。


 二人とも、旅に出るのは久しぶりだった。ザビーダの生きてきた時間を思えば、たった数年など瞬きと同じだろうに、思わず太陽の光を浴びてのびをしていた。それから数日をかけて、レディレイクへと辿り着いた。見慣れた街並みだが、穢れの量が減ったおかげだろう、人々の顔に多くの笑顔があった。
 ロゼにもアリーシャにも連絡を入れていなかった。セキレイの羽として世界中と飛び回っているロゼだが、大都市であるレディレイクは仕事柄、拠点を置いている土地でもあるし、僻地であるゴドジンやローグリンよりも立ち入る頻度が高い。しばらく待っていればそのうち再会するだろう、というなんとものんびりしたものだった。アリーシャにしてもそうで、結婚を機に騎士としての仕事を控えるようにしているが、外交官としてペンドラゴを訪問する回数は年々増えているようで、レディレイクに居る方が稀らしいのだ。彼女たちは忙しなく働いているというのに、なんという体たらくだ、と嘆いているミクリオをまあまあと宥めながら、聖堂のウーノを訪ねた。しばらく宿代わりに身を寄せる必要があったからだ。人間に見えないとは言え、野宿よりも屋根のあるところで夜を明かしたい。
 ウーノに声をかければ、アリーシャだけは昨日ペンドラゴから戻ってきていると教えてくれた。久しぶりに彼女に会いたい気持ちも確かにあったが、君も来るのかい?と、いかにもそわそわするミクリオの無言の主張に負けて、聖堂で待っている、と彼に伝えた。甘やかし癖がついてしまったようで、本当に?君も会いたいだろう?と、ザビーダを気遣う言葉にも、俺様はいいんだよ、と彼の髪をくしゃりと掻き回して、彼の分かりやすい誤魔化しに知らん顔を通すことを覚えてしまった。以前の自分であったのなら、ミクリオがどんなに嫌そうな顔をしようとも、無理を言ってアリーシャに会いに行っただろうに。そんなに大事か、ミクリオのご機嫌取りはそんなに楽しいか、と自問自答する羽目になった。そんなの、当然だろうに。

*

 犬の視線を避けながら、ミクリオはアリーシャの屋敷を訪ねていた。セキレイの羽の頭領と貴族という取り合わせは明らかに不釣り合いだったが、旅先で一緒になることが多いらしく、アリーシャの従士契約はそのままになっていた。ひょこりとミクリオがアリーシャの屋敷に庭に顔を出すと、丁度ティータイムだったようで、テラスでくつろいでいるアリーシャと目が合った。
「ミクリオ様!」
 と、人の親になっても少女のようにあどけない笑顔を浮かべるアリーシャに、ついついミクリオも表情を綻ばす。
「同席してもいいのかな?」
 そう訊ねたのは、アリーシャの腕の中で眠る存在に気付いたからだ。アリーシャ譲りのウェーブかかったブラウン色の髪は、まだ短すぎてふわふわと風に揺れている。ふくふくと丸い頬っぺたは、触れれば気持ち良い弾力を持っているだろうな、と想像させるに容易だった。
「はい、是非!」
 そんな大きな声を出して赤ちゃんが起きてしまうのでは、と思ったミクリオだったが、既に慣れっこになっているのか、すうすうと気持ち良さそうにお腹を上下させていた。これは大物に育つかな、と思うと、つい笑みが漏れてしまった。

*

「お久しぶりです」
「うん、きみは元気そうだ」
「はい。ミクリオ様も壮健そうでなによりです」
「前はみっともないとこ見せたね」
「そんなことありません!」
 と、ぶんぶんとアリーシャは首を振る。スレイがマオテラスと共に眠りについてしまって、ミクリオがどれだけ苦しい思いをしているのか、アリーシャだって分かっている。共に旅をしたのは僅かだったが、それでもスレイがいなくなってしまったことは寂しいと思うし、悲しいと思う。アリーシャですらそうなのだ。家族のように育ち、常に隣りにあったミクリオであったのなら、その苦悩はアリーシャの比ではないだろう。常に眩しい人だった。スレイはいつも笑っていた。笑った自分の姿が好きだと彼は言ったが、アリーシャにとってスレイの笑顔こそが尊いものであった。アリーシャが今も背筋を伸ばし、胸を張って立っていられるのは、スレイの存在があったからだ。マルトランを討った自分の背を撫でながら、アリーシャなら大丈夫だよ、と折れそうになっているアリーシャに向かって、何の根拠もない言葉をかけてくれたスレイ。マルトランは生きる指針だ。あのような形になってしまったとは言え、マルトランはアリーシャの中で人生の目標であり、今でもあの人のように在りたいと思う。スレイは、憧れだ。スレイはアリーシャにとって、誰よりも優しい人であり続けるだろう。

 アリーシャの剣幕に少しばかり驚いたミクリオだったが、ごほんとわざとらしく咳払いをして、ごそごそと荷物の中から封筒を取り出した。
「これ、アリーシャにと思って」
「私に、ですか?」
「僕が書いたもので申し訳ないけど、スレイと旅した時の記録だよ。僕なりに、あの時スレイが何を思っていたのか、考えてみたんだ。って言っても、遺跡のことばっかりになってるけど」
 片手が塞がっているアリーシャに、読みやすいようにと封筒から紙束を出し、アリーシャの方へと向けてくれた。数十枚にも渡る原稿は左上で簡単にクリップで止められていた。丁寧な字で綴られた書面にアリーシャも目を落とす。
「あの、読んでも…?」
「もちろん。そのために書いたんだから」
 ロゼたちの話で、ミクリオが執筆作業に勤しんでいることは知っていた。それを、何故自分に?という思いもあり、ついそのまま言葉が出ていた。
「ですが、それはスレイとの思い出を留めておく為では?」
「違うよ。君の為に書いたんだ。君との旅が中途半端になってしまったことは、スレイだけじゃない、僕も心残りだったんだ。これで少しでも、一緒に旅をした気分になれば、と思ったんだけど…えっと、ごめん、そう言えばアリーシャに何も言ってなかったね。…迷惑、だった?」
 いいえ、いいえ!と首を振りながら繰り返すも、それ以上の言葉が見つからず、それでもなんとか彼に言葉を返したくて、紙面に目を落とす。数年を費やして記された旅の記録だ。ミクリオから見たスレイの姿が、鮮明に描かれていることだろう。自分が受け取っていいだろうか、と思う気持ちと、単純に喜びとがない交ぜになって、じわりと視界が滲む。仲間だと認められたのが嬉しくて、けれども、これは本当はスレイに見せたかったものではないだろうか、スレイと共に、ああでもないこうでもないと話し合いながら書きたかったものではないか、という思いとがぐちゃぐちゃになって、余計に言葉に詰まる。
「わ、ちょ、泣かないでくれアリーシャ!」
 と、慌てたミクリオが立ち上がる。その時、悪戯な風が吹き抜け、ばさばさと紙束をめくり上げる。飛んで行ってはいけない、とアリーシャが紙束を押さえつけたのは、最後のページになった瞬間だった。他のページはびっしりと文字が書き込まれていたが、最後だけはたった一言が添えられていただけだった。思わず目で追ったその一文は古代語だったものの、あの短い旅の間で既に見知ったものだった。
 その名を付けたのはスレイだ。けれども、その名の綴りを教えてくれたのは、ミクリオだった。アリーシャの中でその名は、だからとても尊いものなのだ。
「『マオクス=アメッカに―――』」
「『マオクス=アメッカに捧ぐ』ごめん、僕なんかが君の大事な真名を記してはいけなかったね」
「違います!嬉しい、嬉しいです、ミクリオ様!」
 耐えられなくて、ぽろぽろと涙が流れる。流石に子どもも目を覚まして、心配そうに小さな手の平をアリーシャに伸ばす。大丈夫だよ、大丈夫だよ、と頬を寄せながらも、涙は中々止まらなかった。小さな手が涙に濡れる。
「笑ってくれ、アリーシャ。僕も君の笑顔が好きだから。だからスレイが名付けた名は、僕にとっても大事なものなんだよ」
 はい、はい、と何度も頷くも、彼らが好きだと言ってくれた笑顔を見せられそうになかった。困ったな、とミクリオが眉尻を下げる。私だって、困った。だって、どうやって涙を引っ込めればいいのか分からない。その時、腕の中の存在がもぞもぞと動き、ミクリオへと手を伸ばしていた。子どもの、それもまだ赤ん坊の相手などしたことがないのだろう、ミクリオは更に困ったような、助けを求めるような目で、アリーシャを見返した。その表情の頼りなさと言ったら。どうしたらいいのか分からない、と表情が語っている。あんなにも辛い旅を経て、色々なものを得ては失って成長した筈の天族様が、アリーシャにどうすればいい?と視線で訴えている。可愛いな、とついつい思ってしまったアリーシャは、涙を流しながら笑みがこぼれていた。笑われたのだと思ったミクリオは、拗ねたように僅かに唇を尖らせる。その姿にますます笑顔になったアリーシャは、もう身を乗り出すようにしている我が子を抱え直し、
「握手がしたいだけなのです。握ってあげてください」
 と、ミクリオを促す。アリーシャの視線と、それ以上に強情な我が子の様子に負けたのか、恐る恐る小さな手の平に触れる。アリーシャと遜色ない細い指をぎゅうと握り締める子どもの様子に驚いたようで、再びアリーシャに助けを求める視線を送る。それにふふ、と声を立てれば、ミクリオも、ようやく笑った。
「この子、僕の姿が見えるんだね」
「子どもは霊応力が高いと言いますし。可能なら、大人になってもミクリオ様たちが見えるといいのですが」
「そうだね、そうだったらいいね」
 一瞬、遠い目をしたミクリオに、アリーシャはかける言葉が見つからず、ええ、本当に、と相槌を打つことしかできなかったのだった。
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