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前回のあらすじ(残念ながらそんなものはありませんが、言葉の雰囲気だけ)

オリジンから突然の召集をかけられたロイドたち。無数に広がる過去と未来の枝葉の一つが、魔族に冒されようとされているらしい。ロイドたちはオリジンの頼みに答え、過去へと飛ぶ。それはロイドたちの世界ではない、けれども確かに存在している四千年前の古代大戦真っ只中の世界だった。ロイドたちは図らずも古代英雄・ミトスたちの軌跡を知ることとなる。まだ英雄と呼ばれる前に、ミトスたちの――――。


オリジンの力及ばず、数組に離れ離れになってしまったロイドたち。ロイドはリフィル・リーガルと共に、テセアラの首都に飛ばされた。そこは強いハーフエルフ差別と、身分階級に縛られた街だった。そこで張り出されていた手配書で一行は衝撃の事実を知る。

「確かに、オリジンは、私たちの世界ではない、とても似通った別の世界、と言ってはいたけれど」


このシリーズはクラトスだけ、女体化しています!

(古代英雄全員性別逆転も考えたけど、流石に捌ききれないな、と思って)
(時間軸的に、ED後だけどクラトスさんはまだデリスに行ってないってことで。クラ×クラには食指が動かなかったので、クラトスさんはダイクさん家で療養中です。)





 情報収集の為に酒場を訪れたロイドたちは、そこで騎士の一団と遭遇した。あいにくとクラトスが団長を務める一団ではなかったものの、面識があったらしく、クラトス個人の情報を多く得ることが出来た。残念ながら、主にロイドの精神力をガンガン削る類のものだったが。曰く、出来れば妻に、それが無理なら恋人に、それすらも叶わないならせめて一夜の共をして欲しいぐらいの絶世の美女だが、剣を持たずとも最強、得物があれば鬼神の如し強さを持つという。女性になっても、クラトスはやたらと強いらしい。貴族の中にはクラトスをあの手この手で手に入れようとしている輩もいる、という、非常に余計な情報まで教えられてしまった。残念ながら名前を聞いても分からなかったので、ロイドどころかリフィルの頭にも残らなかったが、自分の父をそういう対象で見られていることを知ったロイドの動揺はいかほどだろうか。
 騎士といっても、長く続く戦乱で質を落としつつあるようで、ゼロスですら閉口するだろう物言いをする者もいた程だ。ほとんど下品な話だったが、情報を得た三人は、魔導研究所のハーフエルフとクラトスが懇意にしていたという手がかりを頼りに、研究所へとやってきた。もちろん入り口で引き止められたものの、リフィルがハーフエルフであることが効いたようだ。不審な目は変わらなかったが、クラトスと交友のあったハーフエルフとの面会が許された。

 さて、ここで少し、魔導研究所について触れておく。魔導研究所、略して魔導研は、テセアラ王国最大の研究所であり、ハーフエルフたちの監獄でもある。ハーフエルフ迫害が特に厳しいここ首都では、ハーフエルフは厳しく管理されている。この研究所で働く限り衣食住は保障されるが、一生をこの研究所に縛られることとなる。中には脱走を試みる者も確かに居るが、ほとんどが連れ戻されるか、追っ手を差し向けられ殺されている。
 研究内容はマナの関わるもの全般に及び、中でも魔科学及び魔科学が応用された兵器がその大多数を占める。大戦が激化する前は、マナの有効活用の為の様々な実験が為されていたが、今となってはマナを消費してでも多くの戦禍を上げる為の兵器の開発が花形となっている。ここではエクスフィアの研究もされているが、発見されて日が浅いこともありまだまだ実用化は難しく、研究室も小規模のものでしかない。魔科学研究のチームに押されている状態だ。

 クラトスはその中でも、エクスフィアを研究対象にしているチームと交流が深かったらしい。聞けば、学院時代からの付き合いで、休日ともなると貴族の邸宅が並ぶ自宅には戻らず、キッチンや寝室など、暮らすに困らない最低限の設備が整っているこの研究所で過ごしているとのことだ。貴族の令嬢として、自宅に帰る度に説教をされることを面倒臭がり、研究所に食材を買い込んできては、研究員たちに料理を振る舞っているのだという。どこか気品のある佇まいを持っていながら、好みが庶民風だったのは、既にこの頃からだったようだ。

 初めは警戒していた研究員たちだが、リフィルの巧みな話術にすっかりほだされたようで、クラトスとの何気ない日常をさも楽しそうに語っている。ロイドは彼らの口から、クラトスが女性だという雰囲気を言葉の端々に感じる度に、ぴくりぴくりと反応せずにはいられない。男でも女でも、クラトスはクラトスだ!と言えるだけの大らかさがあればよかったが、残念ながらクラトスはロイドの父親で、ロイドも彼を父親として認めているだけに、このダメージは中々に大きい。父さんが女、ってことは、父さんが母さんで、俺はこの世界には生まれないのか?いやこの場合、母さんが父さんになるのか?と的外れなことを悩みだす始末だ。リフィルやリーガルも最初は驚いていたものの、ロイドほどの動揺はない。やはり血の繋がった父親が、この世界では母親ですよ(※まだ親ではないけれど)と言われても、すぐに納得できるものではないのだ。

 ロイドの放心をよそに、話は佳境へと突入する。リフィルも、そろそろ彼らの思い出話を止めなければ、と思っていたからだ。ハーフエルフと知っていながら親しくするクラトスの話は、確かにリフィルの心を温かくしたが、今はそれよりもクラトスの情報が欲しかった。

「クラトスは、ハーフエルフの姉弟と共に、どこへ向かったのかしら?」

「ハーフエルフの姉弟は、シルヴァラントの魔科学兵器が国境へと迫っている、と訴えていたと聞く。おそらくは、シルヴァラントとの国境に向かったのだろう」

「でも、行き先が分かっていながら、おかしな話ね。手配されているぐらいですもの、当然、追っ手もかけられているのでしょう?それなのに、まだ彼が捕まっていないというのは、どういうことなのかしら?」

「それは、抹殺許可が出ていないからだ。クラトス様はこの国でも一、二を争う剣の使い手。その方を殺さずに捕縛しろというのは、至難の業だ」

 不可解だわ、とリフィルが渋面を作る。この国でのハーフエルフの扱いは底辺だ。当然、そのハーフエルフに手を貸したとなれば、重罪は免れないはず。それなのに、クラトスへの対応は、あまりに例外過ぎる気がするのだ。過去、神子であっても国を裏切ったと容疑をかけられたゼロスは、あっさりと抹殺許可が下りている。同じテセアラといっても管理体制が異なっている為、参考にはならないかもしれないが、それにしたってクラトスへの対応に疑問を抱かずにはいられない。

「納得出来かねるな。それほどの使い手ならば、生きて連れ戻すなど犠牲を増やすだけだ。騎士団の者も、それは承知していよう」

「……陛下が、許可なさらないだろう」

 一気に暗くなったハーフエルフたちの表情に、リフィルとリーガルも顔を見合わせる。場の雰囲気が変わったことに気付いたのか、ロイドがようやく口を挟んだ。

「どうしたんだ?クラトスが殺される心配しなくて済むんだから、喜べばいいじゃん」

「そういうことではないのよ、ロイド。おそらく、クラトスが犯した罪はこの国では重罪よ。それなのに、身柄を拘束して事情を聞くという処置は、あまりにも寛大よ」

「かんだい?」

「……後で説明します。話の腰を折らないでちょうだい」

 はーい、と肩を落としたロイドに、リーガルが無言で肩を叩く。リフィルに逆らうことの愚は、二人共、嫌と言う程知っている。

「騎士の方からも、似たようなことを聞いたわ。はぐらかされてしまったけれど。クラトスと国王陛下は、どのような関係だったのかしら?」

 ハーフエルフたちは小声で何か相談している。ここにコレットが居たら、その声も聞き取れたかもしれないが、リフィルには切れ切れに聞こえるだけだ。それはリーガルとロイドも同様だ。口をつぐんでも仕方がないと諦めたようで、一人のハーフエルフが代表して重い口を開いた。

「……非公式ではあるものの、そういう事実があったのは確かだ。公然の秘密のようなところもあったからな。王宮に少しでも関われば、自然知るだろう。出来れば、私の口から言いたくはないのだが、」

「教えて頂けないかしら」

 リフィルがずいと身を乗り出す。元が整っているだけに、少しすごめば、それだけで迫力があった。ロイドも何度、宿題を忘れてその恐怖を味わったことだろうか。特に免疫のない彼らは、リフィルの迫力に気圧されたようで、口許を引き攣らせている。ハーフエルフにも、リフィルの美貌は効果があるようだ。

「…クラトス様と陛下は、恋人関係にある」

 え、と真っ先に反応したのはロイドだ。父であった人が母になっていて、更にその母が恋人を作っているという。でもって、その相手は、この国の最高権力者だ。カオス過ぎて、処理が追いつかない。

「陛下というのは、お幾つぐらいなのかしら。奥方はいらっしゃらないの?」

「今年で四十ほどだったと思う。いや、外見でいえば、随分とお若い。せいぜいそちらの人間と同じくらいだろう」

 そう言ってリーガルを示す。外見年齢だけ言えば、三十代前半ということなのだろう。それにしても、急に納得出来る話ではないが。

「正室は、随分昔に亡くなられ、それきり空いたままだ。側室も確か十に近い人数がおられると聞いたが、最近はクラトス様以外との関係はないそうだ。側室との子どもも確か数人いらっしゃるが、あまり関心はないと聞いたことがある」

「ごめんなさい。なんだか一気に色んなことを教えていただいて、混乱しているみたいだわ」

 リフィルが額を押さえながら、仲間の二人を振り返る。このハーフエルフが直接言葉にすることを避けたが、クラトスは側室でもないのにこの国のトップと通じているのだ。不倫、とこの場合も言うのかしら?だとしても、クラトスが。あのクラトスが!四千年前はガードも緩かったのだろうか。真面目を地で行くような男が?あの全身鉄壁で出来ている男が、女になったぐらいで変わるだろうか。というか、どういう女性なのだろう。今更だぜ!とロイドのツッコミが遠いところで聞こえたような気がした。貴族の出というから、テセアラ城にいた令嬢たちに近いのだろうか。ならば、騎士団に所属しないだろう。クラトスはクラトスでしょう。おそらくは。
 リフィルの頭の中で、180cmを軽くオーバーした大男が、ひらひらふわふわのドレスを仏頂面のまま裾を持ち上げている姿が浮かんだ。いや、流石にこれはないだろう。

 ダメージを受けたのはロイドも同じだが、母さんの恋人の存在が気になる、デリケートな年頃だ。その陛下ってどういう人?と、荷物の中から自前のスケッチブックを取り出して、似顔絵が作れないかとペンを握っている。
 燃えるような真っ赤な髪は少しウェーブかかっていて、長さは腰ぐらいだろうか。眉はしゅっと整っていて、目はエメラルド色、男性にしては大きめで、と次々と上げられる特徴を元に筆を進めていたが、最初に聞いた特徴が悪かったのか、いつの間にかゼロスを描いていた。リーガルも手元を覗き込みながら、神子だな、と感想を零す。やっぱりそうだよなー、と失敗を苦笑していたが、その完成を見たハーフエルフたちは口々に、似ている、そっくりだ、と言うばかりだ。ロイドとしては、こんな今にもでひゃひゃと笑いそうな下品な男(失礼)が国王陛下でいいのかな、と思うのだが、彼らは、けれど、と最後に一つだけ否定の言葉を入れた。

「陛下はこのように明るくお笑いにならない。いつもどこか影のある表情で、笑われたとしても微笑む程度だ」

 国王陛下はゼロスによく似ているけれど、ゼロスみたいに笑わない、と言われ、ロイドはふと、一度自分たちを裏切る振りをしたゼロスの表情を思い出した。元が整っているだけに、ぞっとする程冷酷な表情に感じたのだ。あの表情のゼロスとクラトスが並んでいる様子を思い浮かべる。――思い浮かべただけで、無性に悲しく感じるのはどうしてだろうか。

「陛下は、クラトス殿のことを大事に思われているのだな」

 ロイドの内心を知らないリーガルは、率直な感想を言う。クラトスを物のように言う騎士の言葉を聞いたからだろうか。陛下の寵愛の仕方はちゃんと心があるように感じられたのだ。

「それは間違いない。クラトス様が護衛になられてから、ご病気も安定されていると聞いた。だからこそ、貴族たちもクラトス様を早く連れ戻したいのだろう」

「陛下、病気なのか?でもクラトスは医者じゃないだろ?」

 話したものか、と再び相談を始めるハーフエルフたち。ロイドたちは、あまりにこの時代の出来事に無知だった。だが、ロイドたちの時代では既にクルシスによって歴史が改変されており、正確な出来事を知るには無理な話だったし、四千年という長い隔たりのある歴史を知るには、材料が少なすぎた。今更自分たちの世界に戻って、クラトスやユアンに歴史の講義を聞くわけにもいかず、自分たちは現地で情報を集めなければならなかった。そもそも、あの二人が個人的な事情までを明け透けに話すとも思えなかった。

「…陛下は、精神を病んでおられる」

「精神疾患というわけね。それで、クラトスは陛下の精神安定剤代わりということ?」

「……否定はしない」

 国王が心からクラトスを求めていることは、彼らの表情から想像するに容易かった。それならば、とリフィルは思うのだ。クラトスがその求めに応じていたのは何故だろうか、と。権力に屈するような器用な人ではない。ならば、クラトスはクラトスなりに、国王を慕っていたのだろうか。それとも、分かりにくい愛情を示すクラトスのこと、優しさや同情かもしれない。結局その辺りは、クラトスに聞かなければ分からないことだ。問い詰めたところで、素直に言うとは思えないが。そもそも、クラトスの個人的な事情はこの際関係はない、と切り捨てるべきだが、なまじ知っている存在なだけに、無関心にもなれなかった。

「…この国の事情は分かりました。私たちもクラトスを追いかけます。もちろん、危害を加えるつもりはありませんし、この国に連れ戻す為でもないわ」

「それなら、伝言を頼んでもいいか?落ち着かれたら、一度研究所に顔を出して頂きたい。直接お伝えしたいことがあるんだ」

「そう言って、騎士団の連中が待機してるんじゃないだろうな」

「確かにわたしたちはこの国に逆らえないが、だからといって忠誠を誓っているわけではない」

 その言葉の中に嘘はない、とロイドは思い、分かった、と頷いた。軽はずみなことを、とリフィルが嘆くのはいつものことなので、ロイドは苦笑しただけだった。

「でも、俺たちも会えるかどうか分かんないぜ?」

「それでもいい」

「なら、その直接伝えたいことってなに?伝えとくよ」

「いや、こちらに来て頂かなければどうにもならないことだ」

「ふーん、よく分かんねぇけど、分かった。会えたら伝えとくよ」

 頼むぞ、と言われて、おう!と返事をしたロイドに、そろそろお暇しましょうか、とリフィルが最初に立ち上がった。リーガルもそれに続く。収穫はあったが、なんだか想像もしないことの連続で、頭は混乱していた。とりあえずシルヴァラントに行くか、と先頭に立つロイドに、その前に地図をどこかで調達する必要があります、とリフィルが釘を刺す。確かに自分たちは、どこが国境なのかも分からないのだ。





***
なっげぇ。
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