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お題は、as far as I know さんからお借りしました。

古代勇者御一行で、マーテルとクラトスです。

ユアマーですが、マークラでもあります。

とりあえず、四人でラブラブが目標なので(…)






「ユアンは人間の世界で、必死に自分らしさを保ちながら生きてきたのでしょうね。その精神力は本当にすごいものよ。だからユアンは、いつも自分に自信があるんだわ。常に胸を張って生きられるように、そうやって自分で選んで生きてきたのでしょうね」

 クラトスは独白に近いマーテルの言葉を静かに聞いている。ミトスとユアンは久しぶりの宿でぐっすりと眠っている。クラトスが出掛けたのはたまたまで、おそらくマーテルも同様だろう。疲れていないわけではないのだが、時々無性に、誰にも告げることなく星空を見上げたくなるのだ。

「ユアンは、もしかしたらクラトス、あなたより人間の世界が染みついているのかもしれないわね。人間の中でもハーフエルフも生きることが出来る。でもそれは、ユアンだからでしょうね。ユアンの強さがそれを可能にしているのだわ」

 別に、ユアンを責めているわけでも、それが淋しいことだと言っているわけではないのよ。

 そうマーテルは言うが、クラトスの目には、淋しい哀しいとマーテルが笑っているように思えた。彼女は悲しくても痛くても、辛くても苦しくても、笑ってしまうひとだった。あまりに痛々しく切ないその作り笑顔は、クラトスの顔に影を落とさせた。彼女を本当の笑顔にするには、自分ではどうにも役不足だ。それはミトスの役割であり、ユアンのものでもあった。

「哀しい顔をしないで。淋しい顔をしないで。笑いましょう。わたしはあなたの笑顔が好きよ。わたしだけじゃない、ミトスもユアンも、やっぱりあなたには笑っていて欲しいもの」

 けれども、そう簡単に作り笑顔が出来ないクラトスの不器用さを知っているマーテルは、ふふ、と軽やかな呼気に笑みを乗せて、瞬く星を見上げた。クラトスが幼少期を過ごしたヘイムダールから見える星空は、両手を伸ばせばその手の平に星の欠片をつかめそうな程だったが、都会の空は澱んでいた。気の遠くなる程の長く長く続く戦争が、大地を疲弊させ大気を汚し、マナを枯渇させようとしていた。

「ユアンにね、好きだって言われたの」

 思わずクラトスは空から視線を外し、マーテルを振り返った。けれどもマーテルは、変わらず空を見上げている。ハーフエルフの仲間たちは、戯れによく好きだ愛していると囁き合うが、ユアンのその言葉は、その意味合いではないだろう。でなければ、彼女がそれをクラトスに告げるはずがない。

「わたしもユアンのことが好きよ。愛しているわ。ミトスを愛するようにとは異なるけれど、あなたを愛するようにとも異なるけれど」

 マーテルはくるりと振り返って、あなたのこと共犯者だって思っているのはわたしだけかしら?と、まるで少女のような無邪気さでクラトスの瞳を覗き込む。マーテルが永続天使性無機結晶症の症状を最初に打ち明けたのはクラトスだった。このままでは共倒れだと、ミトスの前から去ろうとするクラトスがその供に選んだのはマーテルだった。似ていると思ったことはなかった。それはミトスたちも同じだろう。マーテルとクラトスは似ても似つかない。それでも、私の葛藤を、わたしの矛盾を、一番深く理解してくれるのはきっとかの人だろうと。それを信頼と呼ぶのかもしれない。マーテルは面白がって共犯者という言葉を使ったが、あの時のミトスとユアンにしてみれば、まさに共犯者という言葉がぴったりだろう。

「いや、光栄だな」

「嬉しいわ」

 マーテルはくるくるとよく変わる表情でにこりと笑う。マーテルとミトスはあまり似ていない姉弟だが、笑うと途端、そっくりになる。目の色も髪の色も違うけれど、血の繋がりを感じさせるその笑顔の温かさが、クラトスは好きだ。

「わたしは二番目がいい。そう言ったら、ユアンは微妙な顔をしていたわ」

「欲のないことだな」

「あら、あなたにそんなことを言われるなんて、心外だわ。欲がないなんて、そんなのはまやかしよ。わたしはあなたが思っているより、とってもとっても欲張りさんだわ」

 マーテルはふわふわと笑いながら、クラトスの腕に己のそれを絡め、もたれかかるようにクラトスに頭を預ける。かつて、宿が取れずに寒さに震えながら身を寄せ合った時は、触れていない場所の方が少ないのではないかと全員が思う程にくっ付きながら眠ったものだ。今更、の程度の接触は慣れっこで、むしろ相手の体温に安心する。ひとの体温を心地良いと知ったのは、彼女たちに出会ってからだ。騎士として異色だったクラトスだが、一応は騎士としての礼節を叩き込まれた身だ。こうした無遠慮の接触は不躾だと分かっているが、彼女との触れ合いはあまりに心地良いもので、ついつい離れがたくなっていた。群れからはぐれた動物が身を寄せ合っているようなものなのだと、クラトス自身思っている。

「ミトスの一番はあなた。二番目はわたし。
 ユアンの一番はあなた。二番目はわたし。
 あなたの一番は、そうね、ノイシュかしら。二番目は、誰かしらね?あなたのことだから、皆が皆同じように大切だ、なんて言うでしょうね。そしたら、あなたの二番はわたしであり、ミトスであり、ユアンだわ。
 たった一つの一番はいらない。たくさんの愛が欲しいわ。ユアンもミトスもクラトスも、ノイシュも。
 わたしの小さな世界で生きている全てのひとを愛したいし、愛されたいわ」

 ね、欲張りさんでしょ?

 マーテルはその細い指でクラトスの頬を撫でる。長い間外に居たせいで指先は冷え切っていたが、同様にクラトスの頬も温度を忘れてしまったようだ。どちらの肌が冷たいだろうか。境界線は曖昧で、まさに自分たちの関係のように思えた。一番だとか二番だとか、ミトスもユアンも付けられないに決まっている。


 わたしだけを愛して欲しい。

 そう欲張ることの出来ないマーテルのいじらしさはあまりに彼女らしいと思ったが、愛すらも強欲に求めることを彼女に教えなかったこの世界の仕組みの理不尽さが、無性に悔しいと思うのだった。





***
、うん、ユアン様、なんか、ごめん。
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