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お題は、as far as I know さんからお借りしました。

ようやくゲーム本編の時間軸の話です。

最後のミトス戦後、ED前辺りの隙間。

クラトスルート以外だと、親子対話があまりに少なすぎるのが悲しいです。

なので、色々ねじ込みました。

ロイドとクラトスの話です。親子色は薄いですが、ロイクラでもない感じです。

結局、通常運転。







 クラトスはあまり自分のことを話さない。それはフランヴェルジュをロイドに託してからも変わらず、世界を統合しても変わらなかった。代わりに、母のことを訊ねれば、無口な彼にしては饒舌だった。かつての仲間のこともそうだ。ロイドとしては、もちろん母のことは知りたいと思うし、ミトスたちのことも知らなければならないと思う。けれども、何より一番に知りたいことは、クラトスのことだ。昔、どんなことを体験して、そしてクラトスが何を思ったのか。ロイドが知りたいのは、そこなのだ。まるで見えない文章を読むように、事実だけをつらつらと教えてもらいたいわけではない。そこで確かに息をして葛藤していたクラトスの想いが知りたいのだ。

 ロイドは頬杖をつきながら、クラトスの作業を眺めている。コレットから大量に貰ったサヤエンドウを、せっせと下処理しているクラトスの姿を、ロイドは手伝うでもなくただただ眺めている。似合わないなあ、と思う。料理が得意なことは知っているし、旅に必要な豆知識も豊富に有していることも知っている。それでも、こうした所帯染みた、生活のにおいのする光景が、苦笑してしまう程に似合わない。手慣れていることは分かっているし、こういうちまちまとした料理の下ごしらえが結構好きなことも知っている。けれど、まるでちぐはぐな絵画を見ているようで、なんとも妙な心地になる。

「なあ、」

 クラトスは手を休めることなく、ロイドへ視線を向けた。真っ直ぐに見つめられ、ロイドも頬杖をやめて、思わず背筋を伸ばしていた。

「サイバックで俺たちと鉢合わせした時、なに考えてたんだ?」

「エターナルリングの材料をどのように揃えるか、そればかりだったな」

「悪い、言葉間違えた。なに思ってたんだ?俺の為を思ってやってるのに邪魔するなよ、とか思わなかったのか?あんた、そういう不満全然言わなかったよな。もっとさ、自分の気持ちさらけ出しとけばよかったんじゃないかって、俺は思うんだけど」

 クラトスは考えるように僅かに顔を伏せる。睫毛が作る陰影が、自分と血が繋がっているのかと不思議に思える程繊細で、ずっと眺めていたいような、その作り物めいた姿が不安になるような、矛盾した想いが湧き上がる。

「忘れてしまったな」

「あ、ずるいぞ、その答え!」

 クラトスはそう言って、少しだけ、ほんの少しだけ笑った。そこにはあの心細くなる美しさも、人形のような静謐さもなかったが、こちらの方がやっぱりいいな、とロイドは思った。ただ、まだクラトスの満面の笑み、というものを見たことがないのだ。ユアンだったら、見たことがあるのかな。四千年前だったら、クラトスもにかっと笑っていたのかな。ロイドは、そんな些細なことすら知らないのだ。悔しいと思った。もどかしいと思った。結局、父と子の関係以上に深く横たわる、長い長い時間の溝に、ロイドは抗う術を持っていないのだ。

「お前とまたこうして話しが出来るのだ。そんな些細な不安など、どこかに行ってしまった」

 まるで、それ以外に真実はないと言いたげな口振りに、ロイドはそれ以上追求することが出来なかった。なあ、それ、本当にほんとう?もし、そう訊ねていたら、クラトスはなんて答えただろう。

 サヤエンドウの筋も剥き終わり、クラトスはくずの入ったカゴと、綺麗に下処理が完了したサヤエンドウが山と積まれたザルを持って、部屋の奥へと移動した。小さな家だ。台所は数歩の距離にあり、クラトスの後ろ姿が、座ったままのロイドにも見えた。
 クラトスの答えに満足していないことは、誰よりもクラトスが分かっているようだった。ロイドもロイドで隠そうとしなかった。甘えているのか、そうやって分かりやすく主張していれば、もしかしたらクラトスが本音の一欠片でも零してくれるかもしれない、と期待してのことかもしれない。ロイド自身、クラトスとの距離間に戸惑っていることは確かだ。父さん、と呼ぶだけで、クラトスは本当に嬉しそうにロイドの存在を全力で受け止めてくれる。なあ、そんなもんじゃないだろ。もっといっぱいいっぱい、色んなこと望んでいいと思うぞ。幸せって、小さなものの積み重ねだけど、こんなあまりにちっぽけなものを積み重ねても、俺は満足しないし、出来ない。

「ロイド、」

「うん?なに?」

 クラトスは背中を向けている。珍しいことだった。話す時は人の目を見て、を地で実践する人なので、ロイドは何度もたじろぐ羽目になっていたのだ。

「もうお前に偽りは言わぬと誓おう」

「べつに、嘘ついてたわけじゃないだろ。言葉が足りてなかっただけで」

 そういう言葉が欲しいわけじゃない、とロイドは顔を顰める。流石にロイドが表情を歪めたその気配までは天使の五感でも感じ取れないらしい。

「そうか」

「ああ」

 安堵するかのように、少しだけ柔らかい相槌を打ったクラトスに、どうして伝わらないもんかなあ、とロイドも密かに頭を抱えた。時間はもうあと少ししかないのに、この人をいっぱいいっぱい幸せにするには、言葉も時間も何もかもが足りない。




***
お題見た時は、よしロイドくんの出番だぞ!と意気込んだんですが、なんか、お題に沿ってないし。もう少しクラトスは余裕綽々にロイドくんとの問答を回避するはずだったんですけど、うちのロイドくん、あんまり粘着質じゃない、ね。
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