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お題は、as far as I know さんからお借りしました。

古代勇者御一行で、ユアンとマーテルです。

二人しか出てきませんが、要はクラトスの天使疾患妄想です。







 ユアンは隣りから身じろぎする気配を察して、さっと視線をマーテルへと向けた。薄い寝袋の中でもぞもぞと身体を揺らして、マーテルはゆっくりと目蓋を開けた。ハーフエルフは人間よりも視力が優れている。弓矢が得意とされるのはその視力ゆえだ。まだ辺りはぼんやりとした薄ら闇で覆われていたが、昼間のようとは言わずとも、相手の表情程度ならばよく見えた。漆黒でない限り、煌々とした灯りは実は必要ないのだ。

「おはようユアン」

「まだ寝ていろ。夜明けにはまだ早い」

「目が冴えちゃったから、もういいわ。なんなら、わたしが番をしていましょうか?」

 くすくすと笑いながらもユアンの忠告に従う気のないマーテルは、さっさと身体を起こして寝袋を畳んでしまった。ユアンは深くため息をつくが、マーテルはごめんなさいね、と笑うばかりだった。ユアンの過保護もマーテルの笑顔も、既に何度も繰り返されたやり取りだからだ。

「クラトスはどこへ?」

 輪になって眠っているその中に、クラトスの姿はない。ミトスは小さな身体を更に丸めて、すやすやと眠っている。反対に、クラトスが眠っていた場所には寝袋自体が既に仕舞われていた。

「泉のそばに丘になっている場所があっただろう。あそこへ行った」

 星が見たくなったのだと。
 ユアンはぼそりとそう告げたが、まだ夜の空気を纏った静寂の中だ、マーテルにも十分届いた。届いてしまった。

「危うい均衡ね」

 ユアンは、思わずマーテルを見る。ユアンの視線を感じて、マーテルはにこりと微笑んだ。彼女の目は決して、この世の美しいものだけを知っているわけではない。この世の不条理も、醜さも、彼女はちゃんと知っている、体験している。それなのに、彼女の目は常に澄んでいる。それでもこの世界が好きよ、だってこの世はこんなにも素晴らしい、美しい、と、そう星空の下で歌っている彼女の心こそ、一番美しいとユアンは思う。彼女にこんな過酷な旅は似合わない。けれどもそう告げたとしても、あらそうかしら?楽しいとわたしは思うのだから、きっとわたしの性に合っているのよ、と。まるで少女のように無邪気であどけない表情で言うのだ。敵わないな、とユアンは思う。

 ぼんやりとマーテルの横顔を眺めていると、聞いているのユアン?と笑われてしまった。クラトス程ではないにしろ、思考に意識を飛ばすことがままあるユアンの癖を揶揄したようだが、マーテルの無邪気な笑顔では怒る気にもなれなかった。もちろん聞いている、と少し早口で反論すれば、本当に?と囁き、くすくすと笑い声をもらす。軽やかな鳥のさえずりのようだと言えば、彼女も頬を染めて照れるだろうか。

「クラトス、いつから眠っていないのかしら」

「!気付いていたのか」

「ええ。ミトスも、少し勘付いているみたい。食事の量も減ったでしょう?クラトスの料理の味付けも、このところ安定しないし。薄かったり濃かったり。それでもおいしいところが、クラトスのすごいところだけれど」

 寝ずの番を交代で行うユアンは、早々にクラトスが眠れない身体になってしまったことに気付いていた。だが、それをマーテルやミトスまでも感じ取っていたとは予想外だった。旅慣れているユアンに比べて、彼女たちはまだ初心者の域で、一日一日の旅は彼女たちに負担を強いている。当然、体力に余力などなく、夜になれば深く寝入ってしまうのだが。

「…あいつが私たちに打ち明けてくれるのが先か、ミトスが我慢出来ずに問い詰めるのが先か」

「あら、わたしやあなたが、彼に迫ってもいいと思うのだけれど?」

「出来るか、お前に」

 確信を持って告げれば、マーテルも苦笑を浮かべる。随分と、自分たちはお互いのことが分かるようになったものだ。

「…出来ないでしょうね。クラトスが必死になって隠そうとしていることを知っているもの。出来れば、だまされていてあげたいわ。でも、それが本当にクラトスの為になるのかしら?わたしは、彼にこれ以上我慢させてはいけないと思うの」

「そうだな。あれはあまりに頑固だ。痛い時は痛いと言うものだ。苦しい時は苦しいと、我々を頼るべきだ」

「でも、出来ないのがクラトスなのでしょうね。わたしたち、そんなにも頼りないかしら」

「そんなことはない。あれは、最早性分だ。だから、私たちが気を付けていればいいだけの話ではないか?」

「それは名案ね」

 素晴らしいわ、とマーテルは笑う。反対にユアンは、そんなに喜ばれることを言っただろうか、と首を傾げる。その思いが表情によく表れていたようで、マーテルは、だって、と言葉を続けた。

「あなたはずっとクラトスの側で、クラトスを守るということでしょう。そこに、わたしもミトスもいるのよ。こんなに素晴らしくて、夢のように素敵な未来があるかしら」

 ずぅっと一緒よ。
 そう言って、少女のように頬を染めるマーテルを見つめる。子どものようなことを言う、と思っていながら、そうなればいい、とユアンもこの夢物語のような理想が長く長く続くことを祈るのだった。





***
やっぱり、こういう話にしよ!って思った話にはならない。四人は四人でいちゃいちゃしてるのが好きなので、CP色は薄いです。そう言えば、未だにノイシュが出てませんね。いや、忘れてたわけじゃないんだけど。ノイシュはクラトスが出奔した時、魔導研預かりになってたので、途中から一緒に行動するようになるんです。なんで、時系列があやふやなここの話には、中々登場させにくいというか。
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