× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 お題は、as far as I know さんからお借りしました。 古代勇者御一行で、ミトスとクラトスです。 『愛おしく思う気持ちのままに、あなたを愛せますように』の続きと言えばそうですが、これだけでも独立してます。 ミトスは己のすぐ近くで止まった足音に、少しの逡巡の後に、ゆっくりと顔を上げた。膝を抱えてその間に顔を押し付けるように座っていたミトスは、自分の顔が今にも泣きそうに歪んでいたことを自覚していたが、それを指摘してくる相手ではないことは十分に分かっていたから、取り繕うことをしなかった。 「どうしたの?」 と、あまりに白々しいセリフを吐き出せば、足音の主――クラトスは、ミトスの反応を意外に思ったようで、少しだけ驚いた表情でミトスを見下ろしていた。 「隣りに座っても?」 「いいよ、どうぞ」 クラトスはミトスの隣りに腰を下ろした。野営の時のように楽な姿勢をとるかと思えば、ミトスと同じように膝を立てたので、少しだけ面白いな、と思ってしまった。大の大人の更に上を行くような男が、少年のミトスと同じように身体を縮こめて座っている。もしこの場にユアンがやってきたら、面白いくらいに顔を顰めるだろうな、とその様子を想像して、少しだけ心が軽くなった気がした。いつの間にか、彼らの存在に救われている。マーテルと二人きりの世界しか知らないミトスの中に、極々自然に居座ってしまった大人二人の存在は、ミトスの心を温かくさせた。 「姉さま、怒ってた?」 「いや」 「クラトスは、僕が泣いてると思ってたんでしょ?姉さまの分からず屋、姉さまなんて嫌いだ、なんて思ってるんじゃないかなーって思ってたんでしょ?」 「いや」 クラトスの否定があまりに早くて、ミトスは思わずクラトスを振り返った。相変わらずの無表情だが、この無表情の中にたくさんの感情があることを知っているミトスは、もう彼の無言をこわいと思うようなことはなかった。彼が巧みに隠してしまう前に、なんとかそこにある感情を読み取ってやろうと、彼の顔をまじまじと眺める。エルフの血を引いているわけでもないのに、クラトスはハーフエルフの自分たちに紛れても遜色はない容姿をしている。己の容姿を自慢するわけではないが、外の世界に出て姉の横顔が誰よりも美しいことを知ったミトスとしては、外見を含めてクラトスという存在に興味津々なのだ。 「お前は賢い。マーテルの言わんとしていることをちゃんと理解している。それに、お前がマーテルを嫌うなど、それこそ在り得ない話だ」 「それでも、僕は姉さまの理想通りの人にはなれないよ」 「そうだな。マーテルの理想は絵空事だ。そして、それは誰よりもマーテル自身が分かっていることだ」 「クラトスってさ、優しいのに言葉の選択は厳しいよね」 「そうか、すまない」 「いいよ、子どもの僕にはそうやって諭してくれる大人が必要なんだと思うから」 大人っていうのは難しい生き物だな、とミトスは再び膝に額をくっ付けながら思った。マーテルも、クラトスも、理想は理想だと語りながら、知りながら、それでもその理想を口にするのだ、ミトスに押し付けるのだ。ミトスがその理想を理想だと知りながら感じながら、それでもいつかは叶うかもしれない、と信じながらその言葉を聞いているのに、彼らは既に諦めている。矛盾した生き物だな、と思う。身勝手な生き物だな、と思う。それを自覚して尚、開き直ってその理想を口にする。不可解だなぁ、と思う。それでも怒る気になれないのは、彼らのことをただ単純に好いているからか、結局は手の内をミトスに全てさらしているせいか。 目を閉じると、姉が膝から崩れていく姿が蘇ってくる。血が大量に噴き出して、みるみるマーテルの顔は色を失くして、本当にあのまま死んでしまうのかと思ったのだ。長命なハーフエルフであるミトスにとって、死は遠い言葉だ。死というものはよく分からない。ただ、もう姉と会えなくなるのだと、ミトスと笑いかけてもらえなくなるのだと、そう思った瞬間の恐怖ときたら!その恐怖をもたらした存在を、けれどもマーテルは憎むなと言う、恨むなと言う。ミトスは、あの時の自分の感情を、自分のことながらよく分からなかった。ただただ恐ろしかったのだ。ユアンが刺客に深手を負わせて撤退させていなかったら、自分はどうしただろうか。クラトスのように姉に駆け寄ることも出来ず、ユアンのように敵に反応することも出来ず、ただ呆然と立ちすくんでいた自分は。 「姉さまは、どうしてひとを恨んではいけないって言うのかな」 「そこから何も生まれないからだ。マーテルを斬った男は、お前にとっては仇だが、その仇にも大事な人はいるだろう。お前は仇を討った瞬間に、誰かの仇になるのだ」 「それでも、ひとを憎く思ってしまうことはあるでしょう?クラトスはそういうことはないの?」 「私はそれを含めて薄情らしい。どうにも、感情が長続きした試しがない」 「あはは、クラトスらしいね」 ミトスは顔を上げた。そういうのって、薄情って言うのかな。本当の薄情者は、姉の言葉から逃げ出したミトスを追いかけてはこないと思うけど。けれど、困ったように否定するクラトスの様子が目に見えていたので、ミトスはその反論を閉ざした。彼が薄情ではないことを、ミトスが知っていればいいだけの話なのだ。そして、自分以外の誰かにそれを言う度に、自分が否定してあげればいいのだ。ずっと隣りに居てあげればいいのだ。もう随分と前から、クラトスは、マーテルのようにずっと一緒に居てほしい存在になっていた。それこそ不可能だと分かってはいるけれど、彼との永遠を夢見ることを、ミトスはやめることが出来ないでいる。 「僕、クラトスみたいになりたいよ」 「それはやめておけ。マーテルもユアンも悲しむ」 「そうかな?二人共クラトスのことが好きだから、喜ぶんじゃないの?」 「私を含め、彼らは、お前らしいところが好きだ。くるくるとよく動く、表情豊かなミトスの柔軟さを好ましく思う。眩しい程に」 クラトスはそう言って目を細め、ミトスの髪を柔らかく撫でる。陽が当たる度にきらきらと光るミトスの髪が綺麗だと真顔で告げられたことはまだ記憶に新しい。ミトスにしてみれば、クラトスの纏うマナが光に溶け合う様が綺麗だと思うが、残念ながらクラトスはマナが視えないので、その様子を説明するのは難しい。ただ、この場にいない二人に言わせれば、クラトスとミトスのマナが、こうした他愛無い触れ合いで交じり合うその様が一等綺麗だと言うだろう。全てのマナの要素を統括するオリジンのマナを持つミトスと、属性に染まる前の純粋なマナを持つクラトスは、二人が羨むほどに相性が良いのだ。 「クラトスは僕を励ますのが上手いよね」 「そうだろうか。私はあまり、その、言葉を紡ぐのは上手くはないが」 「別にいいよ。口下手じゃないクラトスなんて、僕の心臓が持たないもの」 僕だけじゃなくて、ユアンと姉さまも、かな。そう思いながら、こてんとクラトスの肩に頭を乗せる。クラトスは言われた言葉の意味が分からないようだったが、細かく告げる気にはなれず、ふふ、と笑い声で彼の疑問を吹き飛ばした。 「世界が優しいだけだったらいいのに。ねぇ、誰かを恨むことに理由があるのなら、クラトスを好きになるのにも理由があるのかな。それはそれで、なんだか寂しいな」 *** なんとなく、続き。微妙にお題に沿ってないんですが。こういう話!って思いながら書いても、全然ずれてっちゃう。 PR |
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