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古代勇者御一行です。

ちょっと重い話が続いたので、ちょっと箸休め的な気軽な話が書きたくなりました。

唐突にクラトスが女体化してますので、苦手な方は回避してください。

ユニコーンのイベントを捏造してます。







 ユニコーンが生息しているというユウマシ湖に寄ったのは、たまたま通りかかったからだ。ユニコーンの角が癒しの術の効果を高めることは分かっていたが、大戦を経て乱獲が進んでおり、絶対数が減少していた。ほとんど絶滅寸前であり、その存在は非常に稀有だった。立ち寄ったからと言って会えるとは誰も思ってはいなかったが、もしかしたら会えるかもしれない、という小さな可能性を期待したことも確かだ。マナの枯渇しつつある世界には珍しく、ユウマシ湖周辺のマナは澄んでおり、空気も清浄だった。ユニコーンに会えなくても、来てよかったわね、とはマーテルの言だ。ユニコーンは目撃されなくて久しいようで、他に観光客やハンターの姿もなく、静かな湖が眼前に広がっていた。

「気持ちの良いところだね。ユニコーンがいるって言われても納得するよ」

「ええ。空気も澄んでいて、マナも豊富だわ」

 時々の気休めは必要だと分かってはいるものの、ピクニック気分の姉弟に、ユアンとクラトスは顔を見合わせる。食事を終えたらここを経つぞ、とユアンが促せば、それぞれに頷いたものの、ずるずると滞在が延びてしまうだろうことは想像に難くない。ユアンはこれ見よがしに深くため息を吐いたが、クラトスは肩を竦めるだけでどちらの援護もしなかった。


 食事を終え、それぞれにくつろいでいる時だった。最初に気付いたのはミトスだ。湖の真ん中辺りに、先程まではなかった影を見つけたのだ。

「あれ、何かな?」

 目を凝らせば、馬のシルエットに良く似た生き物が湖面に立っていた。

「ねえ、もしかしてユニコーンじゃない?」

「言われてみれば、そうかもしれないわ。こちらに近付いて来てくれないかしら」

「それならば、私とミトスは姿を隠した方がいいな。言い伝えでは、ユニコーンは女性の前にしか現れないと云う」

「いや、私も隠れた方がいい。ユニコーンとの対話が可能なのは、穢れなき乙女だけだ」

 クラトスは真っ先に立ち上がり、木の陰へと身を寄せる。ミトスもそれに続きながら、

「どうしてクラトスにはその資格がないの?」

 と、無垢な視線を向ける。それに焦ったのはユアンだ。助けを求めてマーテルを見たが、マーテルはマーテルで、どうしてかしら?と穢れなき目で見返す。どうして当の本人がそこにいるのに、自分だけが気まずい思いをするのだろうか、と怒りながら、クラトス!と声をかければ、クラトスもきょとんとした目を向けるばかりだ。何を怒っているのだ、とユアンとの温度差を指摘することは今までもよくあった。というよりも、クラトスという存在に出会って、こちらの怒りが全く通じていないことの方が多い。学生時代から、自分たちの関係は何の変化もないようだ。クラトスの、こちらの怒りを脱力させる目に負けないように、お前のことだろう、お前の、と目で訴えていると、ユアンでは答えが得られないと早々に諦めたミトスが、クラトスに同様の疑問をぶつけた。

「ねえ、どうしてクラトスはユニコーンに会えないの?」

 あ、馬鹿聞くな!と、ユアンは心の中で制止をかけた。が、クラトスの言葉は実にあっさりしたものだった。

「私は戦場で多くの命を奪ってきた。そのような血に塗れた者を穢れなき、と言うにはあまりにおこがましい」

「ああ、そっちか」

 ユアンがぽつりとこぼす。ただ、ユアンは元々の地声が大きいく、よく通る声質をしていので、さり気ない独り言が皆には筒抜けだった。

「そっちってどういう意味かしら?ユアンはどういう理由だと思っていたの?」

 マーテルの無自覚に容赦ない言葉に、ユアンも言葉を詰まらせる。無駄だと分かっていながら、クラトスに目を向ければ、こちらはこちらで分かっていないようで、小首を傾げている。姉弟のように世間から隔絶されて育ったわけではないのに、クラトスはこの手の話題が本当に鈍い。ミトスは元より、マーテルを気遣って、どうにか直接的な表現を避けなければ、とユアンはしどろもどろに言葉を続ける。

「いや、その、クラトス!お前、国に残してきた人はいないのか!」

 彼らの話を聞く限り、テセアラの首都を去る際、誰にも別れを告げることなく、慌しく出国したらしい。恋人やそれに近しい人物の影がないことは明白で、ユアンも今までそう信じていたが、思えばこの容姿であり、家柄も申し分ない。むしろ今でも独り身であることが意外と言えば意外だ。

「家族はもういないって聞いたよ。叔父さんがいるだけだって」

「そういう意味ではない。ああもう、何故私がここまで説明せねばならんのだ!クラトス、おい、お前に国に残してきた恋人はいないのかと訊いているんだ!」

「こいびと」

 と、何故かミトスが舌足らずに復唱した。ハーフエルフは本能に刻まれているのか、種の保存に執着しない種族だ。生殖能力が純血種であるエルフや人間に劣り、子どもが出来る確率が極端に低い。ただ、長く人間の世界で生きているユアンには、ある程度の人間の常識が染み付いている。ユアンにとって人間は、やたら恋人を作りたがる種族であり、寿命が短いという理由もあるだろうが、血を繋ごうと必死になっている種族だ。だからユアンにとって、ミトスが繰り返した言葉は単に関係性を示すものでしかないが、ミトスにとっては言葉の意味を知っているだけの、実感の湧かない言葉なのだろう。

 クラトスは少し戸惑う様子を見せた。ユアンを見、次にミトスを、マーテルを見て、そっと視線を落とした。クラトスが目を伏せるだけで、どうしてこうも物悲しく見えてしまうのだろう。世界の滅亡に何度も立ち会ったような(正直、冗談でも言えないことだが)、こちらの罪悪感をやたらと煽る表情なのだ。更には、これ以上追求してくれるな、とでも言いたげに「すまない」とクラトスが絞り出すように告げれば、真っ先にミトスがクラトスに飛びついて、別にいいよ!と彼なりに励まそうとしている。

「その、いつか言わねばならぬ日が来るだろうから」

 そう言ってクラトスが口を噤めば、押しても引いても口を開かないことを三人は知っている。彼女が言わないということは、今はまだ知る必要がないことか、もしくは告げることに彼女自身の覚悟が必要か。この場合は確実に後者だが、誰一人として言及しようとはしなかった。クラトスのことだ、言葉にした通り、いつかは腹を括って教えてくれるに違いない。

「あ、姉さま、話し込んでる場合じゃないよ。ユニコーンいなくなっちゃうよ!」

 ミトスが慌ててユニコーンを指さす。ミトスはミトスなりに、空気を読むことに長けている。子ども特有の無遠慮さを上手く発揮することもあれば、どうにも受け身がちになる大人たちを促すこともある。今もすっかりユニコーンの存在を忘れていたマーテルに向かって、姉さまだけでも会いに行ってきなよ!と背中を押している。ええそうするわ、とほのぼのする姉弟をよそに、ユアンはクラトスの側に寄り、言葉を発さない代わりにまじまじと彼女の顔を眺めた。その不躾な視線を受け止めていたクラトスだったが、突然に納得する何かを見つけたのか、ああ、と顔を上げた。その顔に、先程の影はない。こういう妙なひらめきをしたクラトスは大概ろくなことを言わないが、幸か不幸か、ミトスはまだマーテルと話し込んでいて、その言葉が届くことはなかった。

「お前が言いたかったのは、私が生娘かどうかという話か」

 そういうことは口にするんじゃない!と思わず怒鳴りつければ、何々どうしたの?とそっくりな二対の無垢な眼差しがユアンに向けられた。いや、なんでもない!と下手な誤魔化しをしている横で、クラトスが楽しそうに微笑んでいる。元凶が外野の振りをして和んでいるんじゃない!と怒ってやりたかったが、その理由を訊ねられても説明できるはずもなく、恨みがましい目をクラトスに向けながらも、純粋な姉弟の容赦ない問い掛けをはぐらかさなければならなかった。


 ちなみに。クラトスが覚悟を決めるより先に、テセアラから向けられた刺客に、あっさりとその事実を告げられるなんてことは、この場の誰も予想していなかったのだった。





***
公式がほぼ公開してないんで四人の経歴を妄想するしかないんですが、特にクラトスには色々盛ってます。とりあえず、うちのクラトスは当時のテセアラ王(容姿はまんまゼロス。でも年上)と不倫してます。不倫っていうか、子どももいて側室もいるのに、護衛についたクラトスといい仲になってしまったわけで。機会があれば、この辺りのちょっと薄暗い関係にも触れたいな、とは思うんですが、結局は古代勇者御一行が仲良くきゃっきゃうふふしてるのが好きなので、出来れば暗い話にしたくない。でも暗い話書くの好きやねん、という矛盾。
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