× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 アニスとアッシュの話です。多分、これでラスト。 繋がってる話ではないですが、一通り書いちゃったので。 気が向いたら、帰還後の捏造話を書くかも、です。 教団内のもろもろは捏造してなんぼだと思ってます。 要は、そんな話しです。 お題は、澳門様から拝借しております。 レムの塔イベント後。 お互い、結構認め合ってるアニスとアッシュ 個人的に、この二人の相性は結構いいと思ってます。 ダアトは他の街よりも早くにレプリカ保護に乗り出したせいか、その数は他の街の比ではなかった。多くのレプリカがレムの塔で亡くなったが、それでも世界からレプリカが消えることはなかった。それほどまでに多くのレプリカを作ったヴァンに戦慄すら覚えたが、アニスはいつもの笑顔を貼り付けて表面を繕っていた。繕わなければ、感情の波に押し潰れそうだったからだ。多くの人を失った。多くの大切な人を失った。ルークのせいであったり、あるいはヴァンのせいであったり、――アニスのせいでもあった。 今も、アニスの横をレプリカが駆けて行く。アニスはその姿を横目で捉えながらも、歩を止めない。丁度トリトハイム詠師に頼まれて、彼の自室まで書類を運ぶところだ。今日の宿はダアトでとることになっていて、アニスはそれならばと教団に顔を出していた。おそらく、ティアも同様だろう。教会に居たトリトハイムと顔を合わせれば、多忙な彼に雑用を頼まれてしまった。アニスが二つ返事でそれを了承したことに、トリトハイムは若干驚いていたようだった。アニスはそれに気付いていながら、彼からそれ以上の言葉が飛び出す前に、差し出された書類の束と部屋の鍵を掴んで、「りょーかいしました!トリトハイム詠師の部屋に置いてこればいいんですね!」と殊更明るい調子で彼の台詞を遮った。身体を動かしていないと落ち着かなくなってしまったのは、いつからだろう。 預かった書類に表紙はなく、簡単にアニスに渡したということは、それほど重要性のあるものではないようだ。紙の束は二十枚程度のもので、クリップ止めしてあるだけだった。これも運び屋の特権、とぱらぱら中身を見れば、そこには人の名前がびっしりと書き込まれていた。最初は分からなかったが、二枚、三枚と読み進めていくうちに、それがレプリカのリストであることに気付かざるを得なかった。備考欄に、おそらく引き取り先であろう人名がちらほらと書かれていたからだ。行き場のない、あまりにも多すぎるレプリカの数に、アニスは途中で覗き見することをやめた。気分が悪くなってきたからだ。 トリトハイムの部屋には、当然鍵がかかっていた。アニスは書類と同時に受け取った鍵でドアを開けて、中をぐるりと一望した。やはり詠師職の人間ともなれば、部屋の大きさは自分とは比べ物にならない。ただ、調度品は教団支給のものを使っているようで、部屋の奥に設置されている執務机はアニスも見たことがあるものだった。 アニスは地位が低い為に未だに寮生活だが、詠師や師団長ともなれば、自室が用意される。執務室の奥には寝室も付いている。おそらく、本棚の影に隠れるようにして存在しているあの扉が、寝室へ繋がっているのだろう。ただ、別段中に興味がなかった為、アニスはさっさと書類を机に置いて、立ち去ろうとしていた。変に長居をして、トリトハイムの信用を落とすのものではない。そう思って、退室しようとしたその時だ。扉の向こうから、小さな物音がした。旅に出る前のアニスだったら気付かなかっただろう、小さな音だ、いや気配と呼んだ方が近いだろうか。一瞬躊躇ったものの、これが泥棒だったり、ヴァンの手下だったりしたら、それはそれで厄介だ。アニスは意を決して、静かに寝室へ続くドアノブを回した。 恐る恐る中を覗き込めば、見落としようもない鮮やかな紅が、アニス同様こちらを見つめていた。いや、睨みつけていた、と言った方が正しいのか。 「あ、んた、何してんの?!」 と、思わずアニスが大声を発してしまったのも、仕方がないだろう。部屋のほとんどを陣取っている一つの大きなベッドの上には、アッシュが座って傷の手当てをしていたのだから。 「うるせぇ!喚くな!誰かが来たら面倒だ、閉めるか入るか、どっちかにしろ」 アッシュはその顔色の悪さからは想像できぬ鋭い声を出した。咄嗟に寝室に入り込み、後ろ手でドアを閉めてしまった理由を、アニスすらも分からなかった。 入室を果たしたからといって、アニスはアッシュに駆け寄ることはなかった。ドアの前に立ち、アッシュの姿を見つめていた。教団から支給さている特務師団長の制服の上着はベッドの上に適当に放り投げられており、その上にインナーも無造作に重ねられている。上半身は何も纏っていなかったが、代わりに白い包帯が横腹にぐるぐると巻かれており、それが解けないように右肩まで包帯を回すことによって固定されている。上半身のほとんどが包帯で隠れていた。足元には決して少なくない量の使用済みのガーゼや包帯が転がっていて、どれもが血が凝固して既に変色していた。髪をかき上げることも忘れているのか、前髪は乱れていて、いつくもの束が額に垂れている。 「どうしてここに居るの?部屋間違えてない?ここはトリトハイム詠師の部屋だよ?」 「んなことは分かってる。何年ここに居ると思ってやがるんだ。自分の部屋に戻れるわけねぇだろ。どこにヴァンの息がかかったやつがうろついてるかもわかんねぇ。言っとくが、トリトハイムの許可なら貰っているからな」 「あっそう。……ねぇ、怪我してるんならさ、ティアかナタリア連れて来てあげよっか?ばれるのが嫌なら、教団の第七音譜術士にお金払って治してもらえば?手間料はもらうけど、それぐらいしてあげるよ?」 アニスの提案に、必要ない、と一蹴したアッシュは、立ち上がって服を羽織始めた。落ちているガーゼを見る限り、決して放っておいてはいい怪我ではないはずだ。血が足りていないようで、彼の顔色ははっきり言って最悪だ。 「別に、アニスちゃんが口出すことじゃないけどさ、アッシュがそうやって自分に無関心だから、ナタリアもルークも心配するんだと思うよ?」 アッシュはちらりとアニスを一瞥して、結局何も言わなかった。見慣れた格好になったアッシュは、最後の仕上げに、使用済みの包帯やらの残骸に譜術を放った。高濃度の第五音素の爆発は、灰すらも残さなかった。 先日、教団の資料を眺めていて、目を引いた一節があった。アニスはその内容を、関係者であるティアにも言わなかった。誰にも、言うつもりはなかった。ただ、真偽を確かめたいとは、密かに思っていたことでもあった。アッシュと二人きりになっている今がそのチャンスだとは思ったが、乗り気ではなかったことも確かだ。その名を口にするには、あまりにも生々しい記憶を呼び覚ましてしまうからだ。あまりにも口に馴染みすぎていて、アニスの心をぎゅうぎゅうと締め付ける。苦しいとは思わなかった。これがきっと、淋しさなのだ。 「……ねぇ、あんたって、導師守護役だったんでしょ」 「…そうだ」 「でも、アリエッタと同じ時期に特務師団長に就任してる。それって、被験者のイオン様の意図なの?」 「聞いてどうする」 「分かんない。けど、多分、これからずっとずっと、アリエッタっていう存在も、イオン様っていう存在も、忘れられる一方だと思うの。あたしは、忘れたくない。あんたが忘れても、あたしが覚えていられるように、」 「無理だな。記憶はいずれ風化する。お前のそれは、ただの子どもの我儘だ」 辛辣な物言いだが、彼の言葉は確かに正論だ。フローリアンと話していると、イオンの姿がどんどん分からなくなってしまう。あの人は、あの時なんと言っていただろうか。なんと言って、笑っていただろうか。些細な会話や、アニスしか知らない癖。それらがどんどん記憶から剥離して、終いには失くなってしまったことにすら気付かなくなってしまうのだろう。あたしは永遠にイオン様の笑顔を覚えていられるだろうか。 「アリエッタは死んだのか」 静かな声だった。感情のない、平坦な。アニスは開いた口を一旦閉じた。このまま声を発すれば、震えてしまうのは分かっていたからだ。心の中で息を吐き出して、ゆっくりと言葉を告げた。 「死んだよ。あたしが、殺した。イオン様もそう、あたしが、あたしが殺しちゃった」 アッシュは、やはり動揺一つせず、ぽつりと、「そうか」と呟いただけだった。アニスは顔を伏せる。自分に泣く資格がないことぐらい、分かっている。これから、たくさんの人にそれをなじられるだろう。アニスは、それを受け止める覚悟をしなければならないのだ。それが、今の道を選んだアニスの決意だ。 「アリエッタの命は長くはなかった。本人もそれを知っていた。預言を詠むまでもねぇ。幼少期にライガに育てられて、絶対的に栄養が足りていなかった。今まで生きていられたことすら奇跡だったろう」 「なによ、それ…。あんた、あたしを慰めようとしてんの?」 「事実を言ったまでだ。イオンは、ああレプリカじゃねぇ、被験者の方だ。あいつは、自分が成人できないことを知っていた。アリエッタも、俺も、その括りで言うと確かにそうだ。だから多分、あいつにとっては同族に見えたのかもしれねぇな」 流れた沈黙に会話の終了を感じ取ったのだろうか。アッシュはアニスの脇を抜けて、ドアノブに手を伸ばした。 「ねぇ、この戦いが終わったら、イオン様のこと教えてよ。アリエッタのことも。あんたしか知らないことが、たくさんあるんでしょ」 「俺は、」 ドアノブに手をかけた状態のまま、アッシュがアニスの目を射抜く。その静かな圧力に、アニスは僅かにたじろいで、「なにっ」と少しだけ目をそらした。 「俺にとって、イオンはあいつだけだ。アリエッタにとってもそうだ。お前のイオンが、レプリカのように。だから、アリエッタから、これ以上イオンを奪うのはやめろ」 「奪うって…。あたしはそんなつもりは、」 「『アニス・タトリン奏長』」 まるで命令されるように、アニスの正式な呼称が凛と響き渡った。アニスは自然と背筋を伸ばしていた。彼は、確かに王族だったのだろう。そして確かに、特務師団長なのだ。命令し慣れた人間のみが発することのできる声の重みに、アニスは言葉を失った。 その隙に、アッシュはさっさと立ち去ってしまった。自分の名を呼んだアッシュの声は、威厳ある統治者であっただろう。けれども、そうさせた彼の心は、まるで自分の大事な場所にこれ以上踏み込むな、と小さな箱庭を守ろうとしている子どもの癇癪のように、アニスには思えて仕方がなかった。 *** 書いたら書いたで、帰還後の話が書きたくなるから厄介だなあ。 PR |
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