× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 ティアとアッシュの話です。 いっぱい、捏造、しました。 あと、うちの子たちは、基本的にヴァン師匠が大好きです。 お題は、澳門様からお借りしています。 二回目のワイヨン鏡窟辺り。 ぶっちゃけ、イベントが朧なので、自分勝手に捏造しちゃいました。 ルークやヴァンが間にいなければ、ただの距離が近い他人でしかないティアとアッシュ 仲間に黙って出てきてしまったティアがワイヨン鏡窟まで辿り着くことが出来たのは、偶然アッシュの姿を見つけたからだった。アッシュも丁度鏡窟に行くところで、漆黒の翼が手配した小さな船に、ティアは半ば強引に乗り込んだ。当然アッシュは怒っていたが、共に乗船していたノワールの言葉に宥められて、ティアと顔を合わせないという結論で何とか心に折り合いをつけたようだった。 ベルケンドからの短い旅路を経てやってきた鏡窟は、神託の盾の人間が慌しく歩き回っていた。アッシュは舌打ちを一つこぼして船から降り、ノワール達はそれを見送っている。ティアも、もちろんアッシュに続いたが、アッシュは眉を寄せてティアを睨み付けた。付いてくるな、と言いたげだったが、目的地が同じなのだから仕方がない。ティアはアッシュの悪態を見なかったことにして、彼の背を追いかけた。 奥に進めば進むほど、すれ違う神託の盾兵の数も増えて行ったが、彼らはティアたちの姿をじろじろと眺めるだけで、誰一人と声をかけてくることはなかった。もしかしたら、ヴァンが何か指示をしているのかもしれない。奇異の視線にさらされることに慣れているのか、アッシュはその視線そのものを気にしていないようだった。時々襲い掛かってくるモンスターを切り捨てているが、成り行きで後衛になっているティアまで回ってくることはなかった。ただ、複数から同時に攻撃されれば回避することは困難で、致命傷ではないものの、細かな傷が増えていることをティアは気付いていた。 「アッシュ、少し待って。傷の手当てをするわ」 「必要ねぇ。休憩したけりゃあ勝手にしろ。俺は先に行く」 「モンスターが弱いとは言っても、一人で行動するより、二人の方が安全よ。それに、あなたは第七音譜術士ではないもの。放ってはおけないわ」 アッシュが振り返る。その眉間には深い皺が刻まれていて、とてもルークとは似ても似つかなかった。浮かべる表情一つで、人はまったくの別人に変わってしまうのだ。 「俺はお前の敵かもしれねぇんだぞ」 「でも、今は違うわ。旅の同行者よ。その相手を気遣うのは、自然なことでしょう」 そう言えば、眼に宿っていた険が更に強くなった。立ち止まったことを良しとして、ティアは詠唱を開始した。口に慣れている術なら、形を成すのに数秒とかからない。けれども、術が体現するよりも早く、アッシュが剣を抜いた。そのままティアの頭へ向かって、迷うことなく剣を振り下ろした。 ―――衝撃は、なかった。ティアの頭部に触れる寸前で、彼はその腕の動きを止めたからだ。剣戟が生んだ風が、ティアの前髪を揺らす。集中が切れてしまい、詠唱どころではなくなっていた。 「……なんのつもり?」 「勝手な真似はするんじゃねぇ」 「あなた、怪我してるじゃない」 「いちいち回復譜術使うほどでもねぇんだよ」 「でも…!」 詰め寄るティアに、アッシュは睨みをきかせて、距離を作る。一瞬たじろいだティアを尻目に、アッシュはさっさと踵を返していて、最後の台詞をティアは彼の背中越しに聞いた。 「次、そんな真似してみろ。指突っ込んででも阻止してやるからな」 *** 鏡窟内に二人の足音だけが響き渡る。既に用を終えたのか、神託の盾兵とすれ違うこともなくなっていた。鏡窟の内部はむき出しの鉱石が鏡のように光を反射させて、きらきらと輝いていた。その光を受けて、前を行くアッシュの髪も歩調のテンポに合わせて、艶かかに揺れている。彼の二つ名はこの髪からも由来を受けていると聞くが、ティアにとって『鮮血』とはこんなにも綺麗なものではなかった。もっとどろどろとしていて、生々しくて、あたたかくて、息苦しいまでにその価値の重さを思い知らされる、命の色だった。ティアは、アッシュの温度を知らない。彼の呼吸する音を、彼の命の叫びを、ルークが当然に持っている温もりを、ティアはアッシュから感じたことはなかった。 「あなたは、ヴァンに会ってどうするつもり?」 アッシュは僅かに振り返る素振りを見せたが、結局足を止めることもしなければ、その顔をこちらに向けることもしなかった。ルークだったら、振り返ってティアを見てにかりと笑って、歩調を合わせて隣りに立ってくれるのに。 「…聞いてどうする」 「どうもしないわ。どう考えても、あなたとわたしの目的は同じじゃないもの。ただ、そうね、ヴァンは、どれだけ離れた存在になっても、わたしのたった一人の兄だから、わたしにはそれを知る権利が、少しはあるんじゃないかと思っただけよ」 そうか、と相変わらず平坦な声を吐き出したアッシュは、ようやく振り返った。その表情から、感情を読み取ることは難しい。それが他人ならば尚のことだ。自分たちは、ルークやヴァンがいることによって何とか繋がっている、ただの他人と大差はない。一歩間違えば、街中ですれ違ったとしても、相手を知覚できない存在になっていたかもしれないのだ。 「俺は、ヴァンを殺す。俺の目的はそれだけだ」 いかにも、これで満足したか?と言いたげな、どこか人を嘲笑したような表情だった。ティアは眉を顰めたが、アッシュがティアに対して譲歩したことも感じ取っていた。この男は、一見自分勝手に見えるが、物事に対して真摯なのだ。正々堂々だとか、生真面目だとか、そういった類とはまた違う。彼の中にも譲れない一本の道があって、彼はその道から僅かでもずれることを良しとしないのだ。 「あなたは、どうして兄さんを裏切ったりしたの?他の六神将は兄さんの指示に従っているわ。あなただけ、」 「俺にはまだ、未練がましくしがみ付いてるもんがあったからだ。あいつらは、それを根こそぎ失ってる。だから俺は、多分あいつらよりも恵まれてるんだろうな」 「あなたは、兄さんを憎んではいないの?」 「お前はどうなんだ、ティア・グランツ」 「……」 アッシュは言いながら、襲い掛かってきたバットを斬り捨てた。与えたのは一閃だけだったが、確実に急所を切り裂いたようで、地に落ちたバットは痙攣し、やがて動かなくなった。アッシュはじっと、その様を見つめていた。ティアも、視線の行き場を失って、彼に倣うようにその死骸をぼんやりと眺めている。 「ヴァンは、俺にこの世界で生きていく上で必要な術を教えた。剣術、譜術だけじゃない。神託の盾で働くために必要なことは、全てヴァンから教わった。憎んじゃいない、と言えば嘘になる。だが、こんな環境に放り込んで勝手に人のレプリカなんぞ作ったからといって、その全てを否定するほど、俺の眼は曇っちゃいねぇつもりだ」 そして、お前はどうなんだ、ティア・グランツ、と。 先の台詞をもう一度繰り返した。訊ねているのではないと、何となく感じた。お前も既にお前自身の答えに気づいているだろう、と言っているかのようだった。 「そうね、わたしも、兄さんが好きよ。兄さんのしていることは、確かに許されないことだけれど、優しかった兄さんも、わたしはちゃんと知っているから」 「おい!俺はなにも好きだなんだと言ったわけじゃあ、」 「あら、そうだったかしら?」 小首を傾げたティアに、このブラコン!と怒鳴りつけて、無駄話はここまでだ、とでも言うように、アッシュは再び歩を進めた。今はまだ、彼の隣りに立つことはできないけれど、いつか、そんな日が来ればいいと、ティアは思うのだった。 PR |
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