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ジェイドとアッシュの話です。
今更ですけど、いっぱい捏造があります。
お題は、澳門様からお借りしています。


条約締結辺り
ちょっと人らしくなってきたジェイドと、他人にはいっそう手厳しいアッシュ







グランコクマのいつもの酒場。
気晴らしにはそこを訪れることが多いジェイドは、パーティの未成年組が寝静まるのも待たずに、早々と宿屋を後にした。あとのフォローはガイの仕事だろうし、そもそもジェイドの夜の予定を気にするような面子ではない。
いつもの道を辿り、いつもの扉を開ける。マスターがまずジェイドの来店に気付いて、軽く会釈をする。ジェイドも合わせるようにして笑みを深めて、いつものカウンターへと近付く。指定席、というわけではないが、いつの間にかジェイドがいつも座る席というものが出来ていた。マスターもいつもはジェイド用に空けておいてくれているのだが、店が混んでいたのだろうか、ジェイドのいつもの場所には既に人が座っていた。別段、自分の席だと思っていたわけではない。この店も繁盛していて喜ばしいことだと、いつもとは違う席に腰掛ければ、丁度良いタイミングでグラスが目の前に置かれた。いつもの席から椅子三つ分右側の席は、照明が真下に来ることもあってか、随分と明るく感じられた。

「すいませんね大佐。さっきまで団体のお客さんが多くてね、あっちのお客さんに渋々こっちに座ってもらったんだよ」

あっち、と指し示す方向には、深々と被ったフードで顔を隠す客が一人、酒を飲むでもなく、黙々と食事をしていた。ここの酒場は、食事の質も良いことで評判なのだ。ただ、その客の格好は、ケセドニアや、グランコクマの治安の悪い地区ならいざ知らず、大通りに面しているこの店では、明らかに悪目立ちしていた。

「別に構いませんよ」
「あんななりだが、信用できるお人だよ。大佐常連の店ってだけで厄介な客は随分と減ったが、性質の悪い酔っ払いだけは中々…。前にそういう厄介なお客に絡まれてところを助けてもらってねぇ。いやぁ、若いのにこれがまた強いんだ」

へぇ、そうですか、と適当に相槌を打って、ようやくグラスに口を付けた。中の氷がカラリと音を立てる。
なんとなく椅子三つを挟んだおとなりさんに視線を向ければ、話し声がうるさかったのか、向こうもこちらを一瞥していた。深くかぶったフードのせいで、その顔は分からない。ただ、そのマントの隙間からこぼれた一房の深紅の糸を見逃すほど、まだまだジェイドは酒に酔ってはいなかった。目敏くそれを見つけて、にこりと貼り付けていた笑みを深くした。敏感に感じ取った相手は、きっと嫌そう眉を寄せているだろう。

「あなたは、アッシュですね」
「……」

無言が肯定であることは、既に知っている。逃げ出そうと、乱暴な仕草で立ち上がったアッシュの背中に、いつもの声の調子で言葉をかける。彼のような人間が思わず足を止めてしまうような挑発するのが、ジェイドは得意だった。

「いけませんねぇ、未成年がこんな時間にこんな場所で。しょっ引いて差し上げましょうか?」

おや、未成年だったのか、とマスターが声を発する。少々の驚きは含まれていたものの、そう大きなものではなかった。ある程度の予想はしていたのかもしれない。
アッシュは足を止めて、ばさりとフードを下ろした。薄暗い店の照明では、まだちらほらと残っている他の客には、その鮮やかさまでは分からなかっただろう。僅かな光を反射させてきらきらと輝くその髪の艶やかさだけは、損なわれないでいた。振り返ったアッシュの眉間には、いつものように皺が深く刻まれていて、思わずジェイドも笑みを深めた。アッシュのその顔が威嚇ならば、己のこの表情もまた、それと大差がないのだ。

「何の用だ。俺はお前に伝える情報なんざ、持ってねぇぞ」
「私もありません。いえ、ね、少しばかり話し相手になって頂けないかと思いまして。なんなら、奢りますよ?」
「ふざけたことをぬかすんじゃねぇ」
「あなたに足りないのはコミュニケーション能力です。幸運なことに、私もそうでして。まずは拙い者同士、じっくりと語り合って問題点を指摘し合おうじゃないですか」

くだらん、と一蹴したアッシュの腕を強引に掴んで、自分の席の隣りに無理矢理座らせる。すぐに立ち上がらないように、上から肩を押さえつければ、抵抗することが面倒になったのか、すぐに身体の力を抜いた。ただし油断は出来ない相手なので、彼が頭から引っ掛けていたマントを人質に奪っておいた。夜も更けたとはいえ、彼の姿はあまりにも目立つ。身を隠すものがなければ、彼も立ち去れないだろう。案の定、アッシュは舌打ちをして、ジェイドを睨みつけた。まったく、予想通りの反応だ。

「その顔はやめろ、鬱陶しい」
「嫌ですねぇ、これは人とのコミュニケーションを円滑に図るための、」
「嘘は嫌いだ、約束も。更に言うならな、お前のような胡散臭いヤツは大ッ嫌いだ。お前は軍人なんかじゃねぇよ。お前のその眼は、研究者のそれだ。人を実験動物の一つだと思ってやがる。違うか、バルフォア博士」

アッシュはすかさず立ち上がって、ジェイドの手からマントを奪う。抵抗してもよかったが、それをしようとは思わなかった。流石、人の悪意の中で生きてきた子どもだ。人の質をよく見抜いている。

「俺を観察して楽しいか?レプリカと比較したデータでも取りたいのか?流石はバルフォア博士、あんたは確かに科学者としては一流だ。俺をモルモット扱いできなかったディストは、やっぱり二流なんだろうよ。だがな、あんな駄目科学者でも、死神ディストの方が真っ当に見えるのは、俺だけじぇねぇはずだぜ?」

言い捨てるように告げて、アッシュは歩きながらマントを被り、店の外へと行ってしまった。追いかけることはしなかった。興味が尽きたとも言えるだろうか。

「まさか、あの洟垂れよりも下だと言われるとは。まさに青天の霹靂ですねぇ」

マスターが苦笑して声をかけようとしたようだったが、ジェイドはそれを酒を煽ることで見なかったことにした。
(まったく、あの子どもたちは、揃いも揃って面白い)



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