忍者ブログ
[43] [42] [41] [40] [39] [38] [37] [36] [35] [34] [33]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



妄想戦国です。
この呼び方も大概ひどい。
例によってひどい真田と又兵衛さんの話。
一体、"ひどい"はどこにかかっているのやら。

あっ、真田丸で揉めた辺りです。
割と色んな人のことを考えてる又兵衛さんと、基本自分を軸に考えてる真田。


タイトルは芥川さんから。






『どうか菽麦すら弁ぜぬ程、愚昧にして下さいますな。』

どうか又雲気さえ察する程、聡明にもして下さいますな。』




 いかにも怒気を露に陣所へ現れた後藤を、真田はただ一瞥しただけだった。素知らぬ顔で、

「そんなに怒って、どうなさいましたか?」

 と、今にも言い出しかねない素振りの真田に、後藤は内心で大きく舌打ちした。白々しい!全く全く!白々しいにも程がある!

「ここには俺が出丸を築くと決まっていたのだが!」

 真田は笑みを深くして、

「おや、それは失敬、失敬。それは全く、知りませなんだゆえ。」

 そう嘯いた。嘘だ、嘘なのだ。この男は、ここを既に後藤が縄張りしていたことも、出丸を築こうとしていたことも、それがこの大坂城の唯一の弱点を補う為なのだということも、全て知っている。知っている上で、後藤に何の断りもなく、さっさと建設を開始してしまった。既に土台は出来ており、さら地に直せ、お前はどっかに行っちまえ!と言うことが出来なくなってしまっていた。

「嘘を言うんじゃねえ。お前は全部、知ってやがるくせして。」

「ならば良いではありませんか。今更工事を中止しろなど、あなたは仰いますまい。」

 にこりと、真田は笑みを作った。厭な笑みだ。この男の笑みは、大よそそう呼べたものではない。眼が笑っていないのだ。黒黒とした眼は、その奥が濁って澱んで、様々なものが混ざり合い過ぎて最早輪郭すら持たない。この男の眼は、人の不安感を煽るのだ。毛利もまたそういった類の男だが、あの男が煽るのは生(或いは精か)への薄暗い感情だが、目の前の男はその真逆だ。死へのぼんやりとした不安、恐ろしさ。きっと我らが堕ちる地獄は、この男の眼の奥の澱んだ闇が広がっているのだろう。

「わたしはね、ただ、わたしの城が欲しかったんです。結局、上田のお城はわたしに渡ることはありませんでしたから。」

「お前がそんな俗物だとは思えんが。お前の言うそれは、ただの物欲だ、権力欲だ。お前が一番に否定したもんじゃなかったか。」

 ふふふ、と真田が声を立てて笑う。ざわざわと粟立った肌を、後藤は思わず撫でさすった。

「先の戦で、父は己の名を天下に知らしめました。城を頼りに、将軍様を手玉に取って、見事戦に遅参させた、とか言うアレです。わたしはね、その評価が大ッ嫌いなんですよ。ですから手っ取り早く、わたしはわたしの城を作って、父のその評価を埋れさせたいんです。」

「つまらない戦でした。ええ本当に、父は既にあの頃、随分と歳を召してましたから、すっかり丸くなってしまわれて。ああまで中途半端に暴れておきながら、兄の立場を気遣われたのでしょうね。今更のことではありますが。むしろ犇めく徳川軍を一人残らず討ち取った方がよかったのです。わたしだったらそうしますよ。だってそちらの方が、よっぽど慈悲深い。もっとも、兄はわたしからの慈悲など受け取らないでしょうけれど。ええ、ええ、本当に、つまらない戦でした。」



「それで、何の話でしたっけ?」

 すっ呆けた声とは裏腹に、顔には確信の笑みが浮かんでいた。





***
仮保存のつもりが、うっかり投稿しちゃたので、こっそり微妙に修正しました。

PR


忍者ブログ [PR]
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30