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アッシュ死後なのでアッシュは出てきませんが、始終アッシュの話をする、ルークとナタリアの話。
正直、時間軸的に好きじゃないところなんですが、ここしかないと思ってねじ込んでみました(…)
六神将の関係だとか、捏造しかない話です。
あんだけ演算機やら、小難しい機械が出てきてるので、写真機もあると信じたい。
ゲーム中では絵画ばっかだったけど。

タイトルは澳門様からお借りしています。



エルドラント突入後、ヴァン戦直前で引き返しました(…)
恋愛感情かどうかは置いといて、アッシュのことが好きなルークとナタリア








ヴァン師匠のもとへ乗り込み、決着をつけよう。
そう強く言い放ったルークを止めたのは、ジェイドだった。広いエルドラント内を歩き回ったせいで、アイテムは尽きかけていた。万全の状態は言いがたく、彼に勝てるかどうかもわからなかった。そのような状態で強敵に当たるのはどうか、と指摘するのは当然だった。納得はしたが、皆どこかすっきりとしない表情をしている。それでも賛成で満場一致した意見に、「いやー聞き分けの良い子ばかりで助かりますよー」と明るすぎるほど明るい声を発して、躊躇いもなくウイングボトルを使用した。こうしてルークたちは、エルドラントから脱出した。


一晩の宿にダアトを選んだのは、アニスの案だった。彼女としては、フローリアンに会いたかったのだろう。宿を取るなり姿を消したが、誰も咎めはしなかった。未だにエルドラントでの緊張感が残っているようだった。いつもは真っ先に場を和まそうとするガイですら、笑顔が強張っていた。
身体は疲れていたが、じっとしていることが出来ずに、ルークもこっそりと宿を抜け出した。こっそり、といってみたものの、きっと皆に気付かれているだろう。

アッシュが死んで、その後に流れ込んできた温かなものは、きっとアッシュの音素なのだろう。疲労で身体が重く感じるものの、音素乖離のせいで常にあった身体の倦怠感はなくなっていた。本当に、死んでしまったのだ、自分の被験者が。ルークの胸の内にわだかまる感情が、ぐるぐると渦を巻いている。どうすればいいのか、分からないのだ。きっと自分たちは、分かり合うきっかけをようやく掴み掛けたはずなのに。あんなにも嫌悪していた、憎んですらいたのかもしれない。けれど、苦しいのだ。彼という存在を失って、この胸は苦しくて苦しくて―――寂しい。叫び出したいような、大声で泣き喚きたいような、そんな衝動を必死になって押し殺している。そうしたいのは、きっと自分だけではないから。気丈にも自分の足で立っていた、ナタリアの横顔を思い出す。顔を青くして、唇を傷付けてしまいそうな程強く噛み締めて、耐えていた彼女。一体彼女は今、何を思っているのだろうか。

ふらふらと街を歩いていると、背後から名を呼ばれた。呼ばれた、というよりは、名前を叫ばれた、といった方が正しいかもしれない。ナタリアの髪は走ってきたせいで乱れていたが、彼女は気にせずに、足を止めたルークに駆け寄る。ナタリアのことを考えていただけに、少しだけ距離を縮めることに躊躇ってしまったルークに気付く様子もなく、手を引いて、
「早くいらしてくださいませ!」
と、慌てた様子で急かす。彼女の瞳には薄っすらと涙の膜が出来ていて、自分は一緒に行っていいものか、と考えてしまった。きっと自分は、彼女を励ます言葉すら持っていないのだ。けれどもナタリアは、動こうとはしないルークに焦れたようで、早くなさいませ!と更に強く腕を握り締める。食い込む指の強さが、そのまま彼女の我慢の深さに感じられて、ルークは促されるままに彼女に従った。

ナタリアに引っぱられて押し込まれたのは、教会の一室だった。誰も使用していないようで、何も入っていない本棚と、西日が差し込むカーテンのない窓、部屋の中央には丸いテーブルが置かれていたが、そこには小さな紙切れがあるだけで、それ以外のものは何もなかった。

「おい、ナタリア、落ち着けって!どうしたんだよ?この部屋、勝手に入っちまってよかったのか?」
「あ、ああ、申し訳ありませんルーク。わたくし、気が動転していて…。ええっと、この部屋はアニスにお借りしましたわ。是非とも、あなたに見ていただきたいものがありますの。わたくしも先程拝見したばかりなのですけれど、ディストの部屋から出てきたそうですわ」

ナタリアはそう言って、大きく深呼吸をして、テーブルに伏せられていた紙切れを丁寧な動作でめくった。指先が少し震えていた。ルークはナタリアの肩から身を乗り出すようにしてそれを見、思わず息を飲んだ。それは、六神将とヴァンの姿が、誰一人欠けることなく映っていた写真だったかだ。こちらに笑みを向けているヴァンの頭にはパーティ用のとんがり帽子が乗っていて、そのすぐ隣りには隊服の上から白いレースの付いたエプロンを身につけたリグレットが直立不動で佇んでいる。照れているのか、大きなぬいぐるみで顔の半分を隠したアリエッタの小さな指が握り締めているのは、仮面を外して不愉快そうな顔をさらしているシンクの服の裾だ。ディストはなんとか枠内に飛び込んだといった様子で、椅子から僅かに身体が浮いている。硬い表情をしながらもこちらに顔を向けているラルゴの手は、二人がよく知る人物の頭の上に置かれている。―――アッシュだ。ラルゴの手がまるで宥めるように、アッシュの頭を撫でている。アッシュは不機嫌そうに口を引き結んでいるものの、その眉間に皺はない。どこか浮かべる表情は柔らかく、仕方がないと許容しているように見えた。
初めて見る表情だった。
こんな顔が、

「アッシュもこのような顔をなさいますのね。わたくし、何も知らなかった、何も知らないままに、」

その語尾は、ぽろりと流れた彼女の涙に掻き消されてしまった。
こんな顔が出来たのだ、彼らの前では。
それなのに、アッシュは仲間たちとは別の道を選んだ。その道の険しさは辛さは苦しさは、一体どれほどのものだったのだろう。六神将を殺してしまった自分たちへの怒りは、どれほど深いものだったのだろう。ヴァンを殺すと言った彼の決意は、一体どれほどの重みだったのだろう。
ルークは、いつも眉間に皺を寄せて、常に険を纏って、誰も寄せ付けようとはしなかった強いアッシュしか知らない。
自分たちは、アッシュのことを何も知らない。

「ねぇルーク、この戦いが終わったら、アッシュのことをうんとお話ししましょう。今のわたくしには、とても、そんな勇気はないけれど。ちゃんと自分の心に向き合って、取り乱すことのないようになったら。アッシュの強さに胸を張って、これがナタリアです、ナタリア・LK・ランバルディアですと、誇ることができるようになったら。その時は、お付き合いしてくださるでしょう?」

ナタリアは指先で涙を拭って、ルークに向かって微笑んでみせた。その笑みは泣き顔で掠れてしまっていて、決して完璧ではなかったけれど、ルークには何倍も眩しくみえた。彼女は、強い。自分よりもずっとずっと、強い。
じくりと胸が痛んだ。彼女のそんな些細な願いさえ、自分は叶えられないのだ。ルークは、きっと近い内に消えてしまう。ぽろりぽろりと、崩れるようにこの身体から音素が漏れ出している。
アッシュは、約束が嫌いだった。彼は、誰に対しても誠実な人だったから。今なら、アッシュの気持ちが分かるような気がした。守られることのない約束ほど、悲しいものはない、苦しいものはない。期待をさせた分、その反動で心が軋むのだ。
それでも、ナタリアの言葉に、ルークはこう返すしか術を知らなかった。せめて、自分が生きている間だけは、この約束を果たしたいと思う。アッシュの強さにも、ナタリアの強さにも、全然敵わないけれど。

「ああいいよ。どうせならさ、どっちが早いか、勝負しないか」
「殿方は、すぐにそうやって勝負にしてしまいますのね」

涙を拭いながらも、ルークの言葉に心から笑って見せたナタリアに、ルークの胸はじくじくと痛むのだった。




***
タイトル選択は(珍しく)完璧だぁ!と思ったんですが、書き終えてみるとそうでもない…。
内容が思った以上に暗くなっちゃったんで、明るく、ね!
こんな話書いてますが、ED後は二人共帰還設定推奨してますから!



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