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今度はガイとアッシュの話。
詳細は↓の記事に書いたので、省略。
タイトルは、澳門様からお借りしています。


二回目の鏡窟後
アッシュへの感情を持て余してるガイと、疲労で色々考えることを放棄してるアッシュ








分からない、というのが正直な思いだった。長年持ち続けた殺意や憎悪は、条件反射のようにガイの心を急かすが、その手段が自分にとっての最良ではないことに、もう自覚してしまった。もう、彼を殺すことはできない。殺すことを望むことができない。だというのに、最早染み付いてしまった復讐の重さだけが、ガイの手足にしがみ付いて、声を封じようと喉を潰す。だから、アッシュを目の前にしたガイは、途方に暮れるしかないのだ。殺したいと思うことはない、できない。それなのに、アッシュの眸を見た途端、ガイは自分の中に蓄積されている復讐の念の厚みに押し潰されそうになる。
俺は、こいつを殺す、殺す為だけに生きている。
そう信じて生きていたことが、確かにあった。それしかない、と、そうするしかない、と。間違いだろうとも良かったのだ。自分の中の神様は、それを赦していたのだから。


急に降り出した雨に、屋根を求めて飛び込んだ軒下には、偶然にも先客が居た。アッシュだった。前髪が下りているのは、ガイほどではないにしろ、突然の強い雨に打たれたせいだろう。濡れてしまっているせいで、いつも以上に紅が鮮やかだった。血のようなワインのような、彼の髪は深い赤を湛えている。

どういった言葉を繕えばいいのか分からず、ガイは引き攣りながらいつもの笑みで沈黙を流した。アッシュは無関心そうにガイを一瞥しただけで、すぐに雨を睨みつける作業に戻ってしまった。

会話が生まれることはなかった。アッシュはガイを居ないものとして扱っていたし、ガイはアッシュを過剰に意識しながら、居心地悪くするしかなかった。
嫌いではないのだと思う。けれども、それが本当なのかも分からなかった。憎んではいけない、殺してはいけない。そう結論付けたのは、結局は心ではなく頭なのだろう。憎む理由がない、だから殺してはいけない。己の親族郎党を殺した奴の子どもというだけで、その恨みつらみを被るのは理屈に合っていない。それは、確かにそうなのだ。そうなのだけれど、その歪んだ理屈を信じて、この子どもをどう殺してやろう、そうやって日々を生き繋いでいた過去があるのもまた確かで、積もりに積もった憎悪、勝手に決着をつけてしまった頭に対して、無念だ無念だと恨み言を言う。ガイはまだ、この心に決着をつける術を知らない。どう始末をつければ、この心は自分の頭に従ってくれるのだろうか。


沈黙の中、雨の音だけが響いている空間では、空気の振動がより鮮明に感じられた。アッシュは舌打ちをしたかと思うと、次の瞬間には駆け出していた。咄嗟にその腕を掴む。つんのめる格好になったアッシュが、振り返ってガイを見た。翠の眼は、ガイを認識するなり、大きく見開かれた。声にせずとも、彼の言いたい事は分かる。何故、と。何故自分を引き止めるのだ、と。そんなこと、自分の方が教えてほしい。何故この手は、彼の腕を強く強く握り締めているのだろうか。

まだまだ、雨は止みそうにない。
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