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もやもやしてるので、誰かとアッシュのお話を書きます。
コンビ寄りの、もどかしい感じの距離間程度。
全体的に暗いのは仕様です。
主要メンバーは全員書けたらいいなあ、という願望だけはあります。
まあ自己満足ですので。
今更ですが、ネタバレ上等主義ですので(…)
ここに関しては、お題を澳門様から拝借しています。



レムの塔イベント後
何も言わないアッシュに無意識にイライラしてるギンジと、それ以上にイライラしてるアッシュ。







運転席の隣り。
いつもの定位置にどかりと腰を下ろして、アッシュは深々と息を吐き出した。

「いいんですか、仮眠室に行かなくて。顔色、すぐれないですよ」

ギンジは隣りのシートを覗き込みながら、後ろのドアの先を示す。シャワールームはないものの、仮眠室やトイレ、簡易キッチンは備え付けられている。けれどもアッシュは、滅多に仮眠室を使用しようとはせず、シートベルトで固定したら、数時間を腕組をしたままの体勢で過ごす。時にはそのまま眠っているようだから、仮眠室を使った方が良いと思うのは当然のことだろうに、それを指摘する度に、アッシュは鬱陶しそうな顔で一睨みするだけだ。今も、青白い顔をしているくせに、頑なに席から移動しようとはしない。シートベルトをすることすら億劫になっているくせに、だ。

「…無理強いはしませんけど。次は、どちらへ飛びましょうか?」

若い雇い主がいかに行動派であるかを知っているギンジは、いつでも飛び立っても構わないように、アッシュにシートベルトをつける。覆いかぶさるようにしなければ、うまく固定できない。アッシュはギンジの身体がすぐ側にあることに少しだけ眉を顰めただけで、文句は飛んでこなかった。距離を縮めれば、アッシュから僅かに錆びた鉄のようなにおいを感じた。この嗅ぎなれないにおいが血のにおいだと教えてくれたのは、目の前の彼だ。おそらく、それはギンジばかりでなく、アッシュも望んでのことではなかっただろうが。

ギンジの問いに、いつもなら素早く指示を出すアッシュが言いよどんでいた。迷うように何もない天井を見上げ、一度は口を開いたが、答えが見つからなかったのか、すぐにきつく結ばれてしまった。ギンジはアッシュが何をしているのか、そもそも彼が何者なのか、何も知らなかった。根掘り葉掘り訊ねたところで教えてくれるとは思わないが、こうして関わっている以上、すべてに黙秘するような筋の通ったことはしない性格の持ち主だということは分かっていた。それでも、ギンジはそうしなかった。だから、ギンジの知っていることは、おそらく当事者の誰よりも少ない。
何故アッシュは世界を回っているのか。
何故ここ数ヶ月のうちに、見る見る衰弱していっているのか。
ギンジは、何も知らない。

「空、きれいになりましたね。不謹慎だーって言われるかもしれないですけど、おいらにとっては、青空が見えるようになったことが一番嬉しいです。これも、アッシュさん達のお陰でしょう?」

ギンジの言葉に、アッシュは身じろぎをして、ギンジへと身体の向きを僅かに移動させた。そこに浮かべられているのは、やはりいつも通りの顰めっ面だったが、その険の深さはいつも以上だった。おそらく、アッシュの琴線に触れてしまったのだろう。けれどもギンジは、取り繕うことはせず、にこにこと笑ってみせた。

「俺は何もしちゃいねぇよ。結局やったのはあの屑と、一万人のレプリカだ。もう、何も残っちゃいないがな。確か、お前の祖父のレプリカも居た筈だ。俺が知らねぇだけで、きっとお前の知り合いのレプリカも居ただろうな。ハッ、俺は一万ものレプリカを殺した大罪人だ」

自嘲気味に、それでも力なくアッシュが笑った。まるで強がりを言う子どものような顔だ。ひどい、顔だ。お前もさっさと俺を見限れ、と投げやりになっていて、そうなることが当然だと諦めているような。
ギンジは挑発の意図をもって吐かれた言葉に、咄嗟に怒ることが出来なかった。ギンジは、アッシュが望む言葉を紡ぐことができない。死んでしまった人と生きている人を天秤にかけると、どうしても後者に傾いてしまうのだ。

「それなら、ルークさんには今度会った時にお礼を言っておきますから。ありがとうございました、アッシュさん」

アッシュの台詞の大半を無視した言葉に、アッシュの空気がぴりりと冷えた。ああ怒ってるんだな、とギンジも分かったが、言葉を撤回しなかった。

「能天気な野郎だな、お前も」
「じゃないと、アッシュさんの運転手なんて出来ませんよ。あなたの挑発に一々乗ってちゃあ、お互い、疲れちゃいますよ」
「知った口をきくな!」
「知った口なんてきいてませんよ。だって、アッシュさんは何も言わないですから」

それで、どこ行きましょうか?
そう訊ねれば、面倒になったらしいアッシュから、小さく地名が告げられた。分かりました、離陸の際はどうしても揺れるので気をつけてくださいね、といつもの文句を言おうとしたら、半分も言わないところで、わかってるから早く出せ、といつもの調子に戻っていた。


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