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『哀歌』のアナザー的な。

むしろ段々こっちのが白熱してきて、こっちのがメインっぽいような?

私的、米+日感を頑張って表現してみました。

アルが明らかに捏造です、やったね☆

あ、時代考証など、全くこれっぽっちも考える気など、ない。

それゆえの名前表記ですので、うむ。








『 哀 歌 』 ア ナ ザ ー



菊の生きてきた年月から数えると、彼と共有したのはほんの一握りの時間だろう。けれども菊は、あなたの友人は誰?と訊かれたのならば、真っ先に答えるのが彼の名前だ。一回り二回りでは到底表記しきれぬ程年の離れた二人だが、周囲が知らぬだけで、二人の仲は至って良好だった。彼の名をアルフレッドと言う。彼は確かに若く、まだまだ幼いところが目立つが、それを補って余りある程、頭の良い子でもあった。菊が何年何十年何百年とかけて培ってきたものを、彼は瞬時に理解することが出来た。けれども、やはり年輪だけは天才にもカバーできない問題であり、彼はどうやら人の感情論に疎いようであった。徹底した合理主義者は、にも関わらず自覚をしていない。悲しいだとか苦しいだとか非情だとか、時には何故怒られているのかすら分かっていないことがあった。特に人の怒と哀に対してはその傾向が顕著だった。極論を言ってしまえば、何故人を殺してはいけないのか、という問いがあったとしよう。これが子どもに聞かせる道徳であったのなら、筋道を立てて感情論を持ち出して事細かに説明すればおおよそ何故なのかの説明はできるだろう。アルフレッドの場合、肝心の感情論が通用しない。だからこそ、彼に説明するのは至極簡単だ。『いけないことだからですよ、だってほら、法律が定めているでしょう。』それだけだ。頭の良い彼は、それだけでいいのだ。


『きみ、アーサーのこと、好きだったろう』
温かな陽射しが差し込む、いつかの午後だったと菊は記憶している。天才は得てして特異な思考回路をしており、脈絡のない会話はいつものことだった。菊は両手に持っていた茶を一口含んで、
『ええ』
と、頷いた。
『初恋?』
『まさか』
声が少しだけ荒っぽくなったのは、そう枯れた人生を歩んできたつもりはなかったからだ。理不尽な片想いも、疲れるだけの恋も、甘ったるい幸せも、菊は知っている。恋をすることが菊は好きだった。だがアルフレッドは菊の反応にも大した興味を示さず、ああそう、と自分の作業に戻った。
『アーサーはさ、きっと今でも菊のことが好きなんだと思うよ。あいつは古臭いものが病的に好きだからね』
『老いらくの恋だったんです、きっと。あの人はとてもきれいでしたから』
『そうかなあ』
アルフレッドはおざなりに相槌を打った。菊は、ええ、身近なあなたは慣れてしまったかもしれませんが、とこちらも適当に言葉を続けた。あのきれいな人がこの男を育てたのだとしたら、それはなんて悲劇だろうか、と菊は一人思った。感情が豊かで、優しくて温かくて、きれいできれいできれいで。彼に貰った細かな彫刻が施されたオルゴールは、まるで彼のように繊細で果敢なくて、途端おそろしくなったことを覚えている。彼は己が恋に堕ちるには、あまりに真っ当過ぎたのだ。
その悲劇は、きっと菊にしか分からない感傷だろう。たくさんの愛情を注いでも、たくさんの言葉を巧みに捧げても、その想いの一欠片も理解しなかったアルフレッド。彼は未だにアルフレッドの性質を知らないだろうし、アルフレッドはアルフレッドであの言葉の態度の贈り物の中に、どれほどの愛が込められているのかを知らない。これを悲劇と言わずしてなんと言おうか。


アルフレッドは、菊が出会った頃、既にヒーローという言葉を愛用していた。それは菊の好む悲劇の主人公などではなく、例えるならば桃太郎や一寸法師のような、絶対の正義、絶対の善を体現した存在であるらしかった。殺戮は武功に昇華された彼らは往々にして理不尽であり、傲慢であり、何をしても許される不平等の権化だったが、同時に誰からも無条件で愛される無上の存在でもあった。
『俺はヒーローだから、菊がピンチに陥ったらすっ飛んで来てやるぞ』
とは、彼の口癖のようなものだった。ええその時はお願いします、といつもならばそう軽く流してしまったろうに、その時に限って、菊はいつもとは違う答えを返してしまった。
『こう見えて、わたしは強いですよ?わたしがピンチに陥るより、あなたとわたしが敵対してしまうことの方が可能性としては有り得ると思います。身近な者の裏切りは、古来よりのセオリーなのです、様式美なのです』
菊は持っていた本の表紙を撫でた。シェイクスピアの名はあまりに有名だが、菊はあまり彼の戯曲が好きではなかった。登場人物が一々俗っぽいのだ。アルフレッドは菊の手元に視線を落としたが、情緒ありあまる文学が得意ではない彼は、そのタイトルは読めても中身までは知らないようだった。
『大丈夫だよ。そうなったら、俺が一番に止めをさしてあげるから』
裏切りは悪である。彼は悪を裁く為に存在するヒーローで、だからこそ、彼にしかそれは許されないのだ。菊は薄く笑って、触り心地の良い本の装丁をもう一撫でした。
『それは、ありがたいことです』


彼は菊にとって、唯一の友と言っても過言ではなかった。彼の前では菊は猫をかぶるようなこともしなかったし、無駄な虚勢も張らなかったし、無意味に視線に怯えることもなかった。そして、それはアルフレッドも同じだったのだろう。腹の探り合いも何もない、ただの言葉の掛け合いは、ただただ互いの鼓膜を振動させるだけで消えて行った。菊はその身軽さが楽だった。どうして人は、自分たちのように薄っぺらになれぬのか。分かってはいたものの、菊はその疑問をずっと抱き続けている。


だからこそ、彼の手によって付けられた傷も、実際なんとも思ってはいない。彼は彼の責務を全うし、己は己の義務を務めきっただけだ。そこには何の感情もない、想いもない。怪我をしたのだから痛いのは当然で、その痛みを彼のせいだと思うのは的外れなのだ。菊は、周囲の視線が憐れみに顰められることの方が理解できなかった。これは己が弱かったせいだ、拙かったせいだ。わたしが彼よりも強ければ、否や、ヒーローはいつだって最後に勝ってしまうのだから、きっと最初から、菊の思いは決まっていたのだろう。


二人の関係は、相も変わらず至って良好だった。菊が足を引き摺りながらせこせこと茶をセッティングしたり料理を用意したりしている様を、アルフレッドは不便そうだなあと頬杖を付きながら眺めている。彼らの関係は何も変わらなかった。だって自分たちはただの友人で、たったこれだけのことでこの関係にひびが入ることなどありえないのだ。

「菊、菊、そう言えば、きみの初恋って誰なんだい?」
「なんですかアルフレッドさん。じいの初恋なんぞ聞いても、参考になりませんよ」
「だってずるいじゃないか。俺はまだそれを知らないけれど、菊は知ってるんだろう」
「伊達に年食ってませんからねぇ」
「フランシスが言ってたぞ。俺ぐらいの年なら、初恋なんてとっくに済ませて、とっくに記憶の彼方だろうって」
「あの方らしいですね」
「菊、菊、」
アルフレッドは菊の名を繰り返す。こういった態度を見せる時のアルフレッドの気持ちを知っている菊は、薄く笑みを浮かべた。その答えで、彼がどんな表情を見せるのかも、菊には手に取るように分かったからだ。
「あなたは理解されないとは思いますが、わたしの初恋は兄ですよ、兄。あの口の悪い性悪商人です」
菊の返答に、アルフレッドは理解できない!と奇声と共に顔を顰めた。予想通りの反応に、菊は笑みを深める。菊は昔から、人の愛の行方を正しく解釈できない男だった。





***
うちの米+日感ー。
わたしは、アルを美化してます、うむ。

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