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駆け足ですが、ようやく終わる、はず、です。
最近、無性にダテサナが書きたくなります。
書きたくなるだけで、中々書きませんが(おま、)


創作の方のダテサナは、ダテサナ?みたいな感じで、悪友みたいになってしまうんですが、無双だとまあそれなりにらぶらぶさせられる(はず)ので、まだまだ無双にべったりしてしまいます。無双の伊達さんのカッコ良さは、半端ねぇ。








あれから、数日が経過した。三成の体調も回復し、左近ともこちらから一方的にだが、連絡は済ませている。携帯電話の便利さを今更ながら痛感した三成だったが、仕方がない。生憎源二郎の部屋には電話も引いていないので、このご時勢に手紙を書く羽目になってしまった。○月◎日、××時に落ち合おう、直後に会見を開くぞ、と、メモ書き程度の文面だったが、左近ならば理解してくれるだろう。外出するわけにもいかない三成は、その手紙を源二郎に渡した。源二郎は、ここ数日の間にも何度か外出している。主に食事の買い物だ。本当に休暇中らしく、家に居ても手持ち無沙汰に掃除や読書をしていることが多い。

「源二郎。」
「はい、」
何でしょう、と源二郎は本から顔を上げた。三成は、まだ一度もこの穏やかな顔が崩れたところを見たことがない。三成のどんな我儘も、仕方がありませんね、とでも言いたげな表情で受け入れてしまう。三成の周りには居なかった人種だ。
「明日、ここを出る。」
「はい。そう聞いています。」
「今まで世話になった。事が落ち着いたら、ちゃんとした礼を持ってもう一度訪ねたいと思っている。」
源二郎は、からからと笑った。
「そんなこと、気にならさずともいいですよ。わたしはお節介焼きですから、随分とあなたに不愉快な思いをさせたことでしょう。三成さんの矜持が高いのは、メディアで報じるままでしたから。」
数日を共にしただけの二人だが、三成は、今さらこうして、互いは真っ赤な他人である、と彼が突きつける事実の空しさに、少しだけかなしくなった。俺はもう、お前を他人などとは思っていないぞ。俺の周りの人間ですら、こうまで親身にしてくれた人はそうそう居ない。出来ることならば、己の近くに置きたい。秘書とまではいかずとも、己を支えてくれる仕事の一つでも与えてやりたい。給料だって、今の職の二倍出すぞ。三成は源二郎の職を知らないが、質素な生活を好む彼が、多大な給料を頂戴しているとは考えられなかった。生活に必要な分しか働いていないような印象があるのだ。
「源二郎、実は、」
「あ、そろそろ夕飯の支度をしなければいけませんね。三成さんとの最後の夕食ですから、少し奮発しましょう。」
そう言い、三成の言葉からするりと逃げて行ってしまった。三成は追うことも出来ず、彼の背を見つめるのだった。


夕飯は、彼が言った通り、いつもよりも豪勢だった。源二郎は常と同じ笑みを始終浮かべて、三成が食事をするのを眺めていた。誰かとの食事が純粋に嬉しいのだと聞いた。少ない会話の中、彼の情報を何個か入手していた。家族は父・母・姉に兄に、二人の弟。趣味は読書と、旅行だそうだ。あまりテレビは好きではなく、ニュースぐらいしか見ない、とのこと。そのほかにも、他愛ない、本当に取るに足らない、けれども三成の心を嬉しくさせる情報を、彼は言葉少なに語ってくれた。

「ご馳走様。」

思考に沈んでいた三成の耳に、源二郎の優しい声が飛び込んできた。彼に倣って、慌てて三成も手を合わせ、復唱した。途端に、これが彼との最後の晩餐なのだ、という思いが、じわじわと心の中に重りを作った。さみしいかなしい、彼と離れなければならないなんて。三成は、空気のように隣りに寄り添う源二郎の存在が、今ではいとしく感じるようになっていた。決して三成に干渉せず、けれども必要な時に困らないように、ただただ静かに、時には空気と同化して、そこに在った。己には、確かに左近や兼続たちの力も必要だろう。求心力が必要だろう。だが、彼のように、静かに佇むだけの安らぎもまた、必要だろうと三成は思う。彼を連れ去ってしまいたい。出来ることなら、自分の隣りで支えて欲しいものだ。
己の欲深さに、流石の三成も嫌気がさした。とても源二郎を直視できず目を伏せると、じわりと目頭が熱くなった。泣くなど、そんな不様を晒すわけにはいかない。三成は唇を噛み締めて、胸に広がる切なさを耐えなければならなかった。



夜は中々眠れず、ようやく一睡したものの、直ぐに目を覚ましてしまった。どうすることも出来ずに、誤魔化すようにベッドから抜け出し、リビングへと向かった。源二郎は起きていないだろう。あの男は規則正しい生活が身体に染み付いているらしかった。健全な身体には、健全な心が宿るものだ。ふと、そんなフレーズが頭を過ぎった。
案の定、薄明りの下の源二郎は、規則正しい格好で眠っていた。疲れるだろう、代わるぞ、とベッドを譲ろうとしたのだが、源二郎は、いいですよ、あなたは客人なのですから、とやんわりと、けれどもはっきりと三成の提案を却下した。椅子でも寝れる便利な身体ですから、と少しでも三成が申し訳ないと感じている気持ちを軽減しようとしていた。いじらしいと思ったのも束の間、それは成人男性に使う言葉ではない、と己に突っ込みをいれなければならなかった。
相変わらず源二郎の寝息は聞こえない。彼は静かに眠っていた。

「源二郎。」

そう二度、三度呼びかけても、源二郎は目を開けなかった。熟睡しているのだろうか。ふと、またしても、衝動が三成の中を駆け抜けた。この白磁の頬は、冷たいのか。結局確認が出来ていない。いいや、そんなことは、今となっては言い訳だ。三成は、源二郎に触れたいのだ。源二郎の熱を感じたいのだ。出来ることならば、源二郎にこの欲求を認めてもらいたくて、受け入れてもらいたくて、同等の欲求を己にも求めて欲しくて。ああ、ああ、人の欲は浅ましくていけない。
以前と同様、躊躇いがちに伸ばされた指は、けれども以前と同じ道は辿らなかった。源二郎は、三成がその頬に触れても目を覚まさなかったからだ。三成はその事実だけで酔ってしまいそうだった。彼の温度が高いのか低いのか、あの時の指先と同じように冷たいのか、それすら分からなかった。弾力ある頬をすべり、顎をなぞり、すす‥と指を持ち上げて、その唇に触れた。薄い唇は、僅かに開いていた。安定した吐息が、三成の指先を撫でて行く。

(口付けたい。)

そう心の中ではっきりと呟いてしまってから、三成はその言葉に動揺した。思わず源二郎から飛び退ってしまう程に。追い討ちをかけたのか、その直後にかけられた声だ。

「…三成さん?」

三成の肩が大袈裟にはねた。源二郎はそんな三成の様子に若干不審そうにしながらも、いつものにこやかな笑みで、どうかしましたか?と顔を覗き込んできた。一度前科があるだけに、三成も自己弁護をしなければならない。

「いや、別に何もない。足音を立ててしまったか?お前が突然起きたものだから、」
「驚かせてしまったようですいません。どうも、一人暮らしが長いものですから。」
明日に響きますよ、と源二郎が言えば、三成もそれ以上は弁明をしなかった。源二郎が三成の行動に何も触れなかったせいだろう。ああ、悪いことをしたな、と三成はみじめな思いを抱えて、部屋へと戻ったのだった。



次の朝、やはり源二郎は夜のことに気付いていないようで、いつもと変わらぬ様子で三成に声をかけた。ここを訪れた時に着ていたよれたスーツは、源二郎がクリーニングに出していたようで、新品同然の姿で再び見えることができた。
朝食を済ませ、さてお別れだ、と三成がひっそり意気消沈していると、家の鍵を片手に、さあ行きましょう、と三成を急かした。どうやら、左近との待ち合わせ場所まで送ってくれるらしい。三成は断ろうとも思ったが、彼との別れを少しだけ先送りにしたくて、彼の好意に甘えた。

自家用車を持たない源二郎である。タクシーを使うことにした。要人である三成は、簡単な変装に、と帽子を被っている。目深に被っているおかげで、その顔は覗き込まない限り見えることはない。
タクシーから降りる。目的地は、もう目と鼻の先だ。待ち合わせ場所には人だかりが出来ていた。その大半が報道関係者だが、中には野次馬も混じっている。折角の石田三成復帰の大舞台、これも好感度アップに利用してやろう、という左近の魂胆であるらしかった。
源二郎は、あまりの人の多さに気後れしたようで、ではわたしはこの辺りで、と既に腰が引けていた。人ごみが嫌いらしい。その気持ちが分からないでもない三成だが、さっさと源二郎に帰られても困ってしまう。まだ伝えたいことを伝えていない。三成は咄嗟に、今にも逃げ出しそうな源二郎の腕を掴んだ。

「源二郎、俺の傍で働く気はないか。」
唐突な言葉に、源二郎も目を見開いていた。源二郎は、自身がどれだけ三成に気に入られているのか、気付いていない様子であった。
「ありがたいお誘いですが、わたしは今の職が気に入っておりますから。」
「給料なら、」
そう言いかけて、三成は口を噤んだ。この男が、金だの地位だの名誉だの。そういった小さいことを気にするとは思えなかったからだ。
「俺はお前が、人の目にも付かぬところで埋もれていることが惜しい。お前はもっと世に出るべきだ。」
「そう言えば、三成さんのマニフェストにも含まれていましたね。職業の自由、でしたっけ。身分や生まれに関係なく、その人のなりたい職業になれる。政治家の息子が政治家になる必要はなく、また、中流階級、その下の労働者であっても政治家になれる。」
源二郎は三成の言葉には答えず、つらつらと言葉を重ねた。
「大変に魅力的な政策だと思います。わたしは、それが現実になるよう、三成さんを応援していますよ。」
にこりと微笑まれたが、実際、三成の想いを切って捨てたのだ。三成はどうにか源二郎を繋ぎとめておきたくて、背広の内ポケットを探った。皺々の紙切れと、ボールペンが三成の指先を掠めた。三成は大急ぎでその紙に数字を書き殴り、乱暴に源二郎へと渡した。俺のケータイだ、気が変わったらかけて来い!源二郎がその場の勢いに流されて受け取るのを確認した三成は、お前には世話になった、ありがとう、と語尾を弱めながら踵を返し、帽子を取って歩き出した。三成はそうして、本来己が身を置くべき場所へと戻って行ったのだった。
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