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パラレルです。
みっちゃんと幸村の話。
多分、三成→幸村気味。ほのかに、ですけど。
長くなったので、数話に分けます。
一段落するかどうかは、私のやる気次第(駄目すぎる)









もう一度、部屋のナンバーを確認した三成は、呼び鈴を鳴らすべきかどうか逡巡し、人差し指を突き出した格好で動きを止めてしまった。指先が小刻みに震えているのは、何も緊張しているからではない。エレベータに慣れきったインテリ人間には、駆け上がってきた階段は少々酷であった。急な階段にはもちろん手摺が設置されていたが、潔癖症の気がある三成はそれに触れることが出来なかったのが、更に追い討ちをかけた。

(慣れぬことをしている。)

三成は呼吸を整えようと大きく息を吸い込みながら、そう心の中で呟いた。
こんなにも足腰に無理を強いたのは、高校以来だろうか。その頃から体育は休み気味だったように思う。そう言えば、中学の時のマラソンからこれまで、息が切れる程に走った記憶がない。


「あの、うちに何か御用ですか?」


余程目の前のことに集中していたのだろう。三成は背後の気配には全く気付かなかった。迂闊である。少なくとも、今の三成は己の盾になってくれる人間を連れていないのだから、己の身は己で守るしかないにも関わらず、である。
三成は唐突に声をかけられた動揺で、勢いよく後ろを振り返った。己の姿を省みる。上等のスーツは過度の運動のせいでよれているし、髪は乱れ放題。過度の疲労により、顔色は悪いだろうし、眉には皺が寄っているだろうし、目は血走っていることだろう。ああ全くもって、よいところがない。常日頃から目つきが悪い、愛想がない、と言われる三成だが、その時だって今よりはマシなはずだ。初対面の人間に、悪印象この上ない。

三成は勢いよく振り返ったものの、相手のあまりに緊張感のない姿に脱力をしてしまった。いかにも平和呆けしていそうなのんびりとした表情で、ラフなTシャツにジーパンという格好。手にぶら下がっているレジ袋からは、長ネギの頭が伸びている。三成が藁にも縋る思いでこの場に立っていることなど、目の前の男が知るわけもないのだから、彼の容姿に文句をつけるにはいかないのだが、それにしても、のん気な男だ。見知らぬ男が自宅前で唸っているにも関わらず、だ。図太いと言おうか危機管理がなっていないと言うべきか。

(我が国の平和呆け傾向にも困ったものだ。殺気立っているのは、政界のみと言ったところだろうな。)

値踏みをするようにじろじろと眺める三成の視線に、流石に居心地が悪くなったのだろう、善良な一般市民を体現したような男は、あの、と口ごもった。三成は視線をそのままに、追及の言葉を発した。

「お前はここの六号室の住人か?」
「あ、はい。」
「島左近という男を知らぬか?」
「知っていますけど、」
「知っているのか!」

思わず声が大きくなる。六号室の住人は、困ったように、ええ、まあ、と適当な相槌を打った。三成が問い詰めようと彼との距離を詰める。雰囲気がこじんまりと収まっているせいか、三成よりも上背があることに近寄らなければ気付かなかった。ぴんと伸ばされた背筋にスラリとした手足は、面識のあるどんなタレントよりも魅力だった。姿勢がきれいなのだ。

「左近に、ここの人間に頼れと言われてな。用意周到な男だが、今回ばかりはその余裕もなく、住所と部屋番号しか教えてもらえなかった。名前の確認のしようがないのだが、」
「きっとあなたが会いにきた人というのは、わたしの前に住んでいた人だと思うんですが、」

否定的な台詞に、三成はぽかんと目の前の男を見上げた。男は困ったように笑っている。三成の疲労はピークに達している。今だって、この場に座り込んでしまいたくて仕方がないのだ。それを、こうして会話に精を出しているというのに。ああ無駄足か、無駄足だろうか。勘弁してくれ、と声に出していなかっただろうか。そう考えることすら億劫である。


「島左近さんは有名人ですから、わたしでも知っていますよ。メディアでよく拝見します。特に、あなたと一緒のところを。あなたは石田三成さん、でしょう?」
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