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続きです。
多分、三話でまとまるはず。
長くて四話かな。うん。
内容は雰囲気で読んで下さい。色んなところが適当だぜ!(調べろよ)









三成がゆっくりと瞼を開けた瞬間に目に飛び込んできたものは、灰色の空でもなければ見慣れた自室の天井でもなかった。白を貴重とした三成の部屋では決してお目にかかれない木目の天井に、ひっそりと心の中で緊張感が走った。

(俺は何をしているのだ。確か、ああそうだ、俺は左近に教えられるままに、)

段々と覚醒した意識に、こうしてはいられないと勢いよく上半身を起こしてみたものの、瞬間頭に痛みが走った。徹夜明けのあの痛みと似ているが、痛みの強さは桁違いである。関節もぎしぎしと痛んだ。一瞬、筋肉痛だろうか、とも思ったが、身体のだるさがそれでは説明ができない。発熱をしているらしかった。

「お目覚めでしたか。すいません、勝手に家の中に運んじゃって。」

見知らぬ男が、お盆を支えながら部屋へと入ってきた。盆に乗せられているコップの氷が、カランと音を立てたのを耳ざとく聞きつけ、途端に喉の渇きを覚えた。同じように乗っているペットボトルには、いかにも冷えたてです!と言いたげに水滴が付着していた。
男はわざわざ三成の前でキャップを開け、とくとくとコップの中に注ぎ、どうぞ、とやけに丁寧な動作でそれを差し出した。三成は疑う余裕すらなく、そのコップを引っつかみ、一気に飲み干した。氷だけが残されたコップに、すかさず男の酌で水が満たされる。もう一口、と口に運ぼうとした三成だが、水分が行き渡った脳が唐突に活性化し、いやいやこんなことをしている場合ではない!と現実を思い出した。見知らぬ男のベッドで寛いでいられるほど、己の身に降りかかっている事態は軽くはない。

「お前は誰だ。」

剣呑という言葉すら生温いだろう三成の視線を受けても、男は困ったように、見方によってははにかんだようにも見える笑みを浮かべている。ひどく肝が据わっているのか、鈍いのか。判断がつかない。俺がこわくはないのだろうか、と疑問に思うものの、それを口に出すことはしなかった。

「名を名乗ればよろしいですか?政界のお偉い様が、一般市民の名など知ったところで、何の参考にもならないと思いますが。」

何を隠そう、三成はこの国を支える役人の一人である。それも、次期大臣を期待される程の著名人だ。今回は地方の視察へと出向いた際に、反石田勢力の暴動が起こり、その混乱のせいで三成は見知らぬ男を訪ねねばならなくなったのだ。正確に言えば、世を騒がせたと難癖をつけた、徳川一派の人間が、三成の政界追放を言い渡したせいだ。今頃左近や兼続が対応しているだろう。三成もできることなら、その輪の中に加わりたい。

三成も、男の言葉に、それはそうだ、と頷いた。熱で浮かされた頭でも、それなりの思考は出来るらしい。

「お前は、左近が言っていた人間ではないのだな?」
「大変申し訳ありませんが、そうなります。」
「そうか…。」

がっかりと肩を落とした三成は、大きく溜め息を吐き出した。無駄足だ、困ったことに、ああ本当に困ったことに無駄足だった。俺はこれからどうしたらいいんだ、早く左近たちと合流せねばならぬと言うのに。
考えれば考えるほど、ここに長居をしてはならぬ、という思いが強まる。三成が単独で行動していることを知っている反三成派の者たちが、こぞって暗躍することだろう。危険極まりない。だがそれは同時に、隠れ蓑を持たぬ三成にも言えることだ。単身で街中を歩いてみろ、どのような目に遭うか分かったものではない。

「邪魔をしたな。」
「出て行かれるのですか?」
「お前に世話になる謂れはない。他人を巻き込むつもりもない。」
「せめて、熱が下がるまで養生されてはどうでしょうか?」
「一般市民に迷惑をかけるわけには、

いかん、とは続けなかった。唐突に訪れた頭痛のせいで、頭を抱えてやり過ごさなければならなかったからだ。今もズキズキと痛むが、それでも何とか顔を上げれば、それみたことか、とでも言いたげな男の顔が目に入った。

「今はとりあえず寝て下さい。一眠りしてからでも良いではありませんか?」

男はベッドサイドにペットボトルを置き、起き上がる時に無意識に跳ね除けてしまった布団をかけ直してくれた。男のくせに、妙に甲斐甲斐しい奴である。

「分かった分かった。とりあえず、一時間したら起こしてくれ。」

はい承知しました、と男はさっさと踵を返した。三成の睡眠の邪魔になると思ったのだろう。三成は呼び止めようとしたのだが、彼の名前を知らぬことに気付いた。はぐらかされたまま、彼の名乗りを訊くタイミングを逸してしまったのだ。

「、待て。」

ドアノブが回る金属音がしたが、男は手をかけたままの体勢で振り返った。人の良さそうな笑みは、きっと三成の眉間に居座ったままの皺と同じようなものなのだろうな、と三成は思った。顔の筋肉に染み付いてしまっているに違いない。

「お前の名を聞いていない。」

男は唐突な言葉に、驚いたように目を見開いていたが、三成の言葉の意味を素早く理解したのか、今度はその黒々とした目をすっと細めて、三成を見つめた。まるで、愛しい過去を思い返すような、そんな仕種のように三成の目には映った。穏やかな表情だが、どこか儚げでもあり、三成はがらにもなく悲しくなってしまった。この男には、平和呆けした笑みが似合うな、と心の中で呟く。


「武藤源二郎です。源二郎とお呼び下さい。」

では、お休みなさい。源二郎はそう言い、極力音を立てぬように、静かに扉を閉めたのだった。





***
色々設定があるので、こういう名乗りになってます。時代がわっかんねぇのは、私も同じです(おま、) うちの三成さんは、色々と迂闊過ぎです。無防備過ぎる。少しは幸村を見習うべきだと思いました。
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