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うちの三成さんは、相当惚れっぽい様子です。
そんな話。
でもって、うちの幸村さんは、相当つれない様子です。
素っ気無いより性質が悪いと思います。

という↑の言い訳が通用する話になるはずが、そこまで行きませんでした。
五話ぐらい、になる、かも、です。








二度目の覚醒の時には、随分と気が楽になっていた。頭痛は控えめな自己主張に留まっていたし、身体も軽い。睡眠は何よりも重要だ、などとのん気に考えながら、見慣れぬ天井をぼんやりと眺めていた。しかし、部屋をぐるりと見回し、壁にかけられた飾り気のない時計の針の示す時間に、三成は病人ということも忘れて跳ね起きた。やはり、まだ頭痛はしつこく残っていたが、それどころではない。この部屋に寝かされた正確な時間は分からなかったが、少なくとも、家主に告げた一時間は当に過ぎてしまっている。急いでベッドから這い出し、部屋をぐるりと取り囲む本棚の前を通り過ぎ、乱暴にドアを開けた。怒鳴り込もうと大きく息を吸い込んだ三成だったが、その先の光景に勢いが削がれてしまった。源二郎と名乗った男(こうしてまじまじと眺めると、三成よりもいくらか年下に見えた)は、真っ白なTシャツにジーパンという、先程と大して様変わりしない格好のまま、濡れた髪から水滴をぽたぽたと滴らせていた。手には口につけようとしていたコップが握られており、のんびりとした声で、ああ石田さん、おはようございます、とのたまった。

「熱が下がったのでしたら、シャワーでもどうですか?わたしのでよければ、着替えも用意しますし。」

源二郎は三成の顔に浮かんでいた怒りに全く気付いていないようで、ああそれとも、先に水分補給ですか?とまだ口をつけていないコップを差し出した。三成は言葉を忘れて、とりあえずそのコップを乱暴に引っつかみ、一気に飲み干した。汗をかいたせいだろう、喉が渇いていたのだ。

「一時間で起こしてくれ、と言ったはずだ。」

落ち着け!と頭の中で何度も反芻しながら、三成は、彼にしては寛大な口調でそう問い詰めた。それでも、相当の威圧感なはずだ。しかし源二郎は、そうでしたか?これは失礼、ととぼけて見せた。貴様…!と思わず三成が掴みかかろうとした腕をひょいと避け(これは偶然だったのか、それとも故意であったのか、三成は判断つかなかった)、代わりに源二郎の手が三成の額に乗せられた。汗をかいてべたついている肌に触れられ、ひどく不快を感じるところであったが、それよりもまず、源二郎の冷たい指に意識を盗まれてしまった。おそらくは風呂上りであろう男の指は、熱でほてった三成の額には気持ちの良い程に冷えていた。末端冷え性なのだろうか、と三成が思わず心配してしまった程だ。

「まだ微熱がありますけど、これぐらいでした大丈夫でしょう。汗を流してきたらいかがですか?ああ、お風呂はそこのドアを出て突き当たりです。」

源二郎は三成の反対も聞かずに、さっさと三成が今まで眠っていた部屋へと消えていった。本棚に埋もれて確認できなかったが、そこには源二郎のタンスもあったのだ。おそらく三成の着替えを取りに行ったのだろう。過保護な奴だ、見ず知らずの人間に。三成はどうしようかと戸惑ったものの、やはり肌のねとりとした不快には逆らえず、ふらふらと風呂場へと足を向けたのだった。



三成がシャワーを終えリビングに戻ると、既に夕食の準備が整えられていた。ご飯に味噌汁、煮物に鮭の焼き魚、と至ってシンプルな日本食である。対して三成には、お粥が作られているようであった。漬物には梅干や野沢菜などが、三成が味に退屈せぬように既に準備されている。源二郎は椅子に腰掛ながら、三成を待っていたようだ。どうぞ、と本日三杯目の水を差し出され、最早条件反射のようにそれを飲み干した。

三成が不承不承の様子で粥を胃の中にかき込むのを、源二郎はのろのろと食事を進めながら眺めていた。
「源二郎。」
「はい?」
三成が半分ほどなくなった碗を置けば、源二郎も箸を止めた。
「何故お前は、俺にここまでしてくれるのだ。俺とお前は、全くの他人だぞ。」
源二郎は困ったように笑って、性分なんですよ、と食事を再開させた。
「わたし、お節介焼きなんです。」

それにしたって、この状態はいささか異常だ。他人との交流を激しく嫌う三成は、たとえ病人であっても見知らぬ人間を家に上げたりはできないし、その赤の他人の為に着替えを用意したり食事を準備したりなど、到底真似できることではない。

「それに、暇を持て余していたのは確かですから。」

言われて、今はまだ水曜日であることに気付いた。土曜でもなければ日曜でもないのだ。健全な一般市民は、大抵仕事に精を出しているはずだ。いや、確かに土日出勤の平日休暇という職も確かにあるだろうが。無職か、フリーターか、と三成も邪推したが、それにしては生活が良すぎやしないか。一人暮らしにしては、夕飯が豪華だ。

「お前、仕事はいいのか。」
「長期休暇中なんですよ。ここ二、三年、ずっと働き詰めでして。ようやくもらった休日なんですが、どうも働くことが身に染み付いてしまったようで、何をすればよいものかと思っていたところです。」
「それで、俺という暇潰しを見つけたのか。」
「そう捉えることも出来るでしょうね。」

三成が発した言葉であったのなら、それは大層不快で不愉快で、何て人を小馬鹿にした奴だ!と憤慨するところだろうが、源二郎の声はどこまでも穏やかであった。彼の纏う空気が、言葉の棘を緩和している。

のんびりとした食事を終え、三成は再びベッドへと戻った。幾分か余裕が生まれた三成は、部屋の様子を眺めた。居心地が良いと思ったのは、三成の自室と同じように本のにおいが部屋に充満していたせいだろうか。本棚には、日本語ばかりではなく、英語やフランス語、ドイツ語以外にも、ありとあらゆる言語の、おそらくは専門書だろうと思われるものが並んでいた。その中でも、特に医学書が多い。医者か看護士か。働き者で世話焼きと言うのだから、なる程その職にぴったりだ、などと勝手に結論を付けた。

この頃になると既に三成も諦めており、休日を過ごしていると思うことで、無理矢理己を納得させたのだった。
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