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パラレルの、多分一話目になると思います。
書きたいところから書いてるので、ホントばらばらですね。
もっと量が増えたら、ちゃんと繋げたいなあと思ってます。うん、思ってはいるんです。

そろそろタイトルを決めたいなあ、と思って、候補を何個か。
 ・遭難
 ・茶番劇
 ・ブラックアウト(みっちゃんの話で使っちゃいましたが)
その内に決定する、はず。









真昼にも関わらず、路地裏は薄暗く、じっとりとした湿気すら感じさせた。道の端々にはごみが散乱し、決してこの場所が法に照らされた清潔な世界ではないことを匂わせた。その中に、スーツを一縷の隙もなく着込んだ男の存在は、明らかに異質であった。おろし立てのスーツは、皺一つない。彼が浮浪者の類ではないことは、その一つをとっても分かることだ。
男は迷いのない足取りで歩を進め、路地の突き当たり、ひっそりと佇んでいるバーの前で足を止めた。殴り書きをしたような店の名前の下に、同じ筆跡で営業時間が雑に書かれている。昼真っ只中の現在、見事に営業時間から外れていた。しかし男は、大きく主張するその文字群を眺めておきながら、自動ドアではない手動の扉の前に立ち、コンコンとノックをした。木製のドアは、男が想像していたより大きな音を返した。
返事がない。男は尚もノックを続ける。コンコン コンコン と何度続いただろうか。男は、これは己の義務だとでも感じてるのか、一定のリズムで飽きることなくその動作を続けている。
コンコン コンコン コンコン コンコン
男は突然にその動きを止めた。一歩下がり間合いを空けるのと、扉が内側から開かれるのとは同時であった。

「あーもう煩い!書いてあるでしょ!こっちは今、貴重な睡眠をむさぼって―――

姿を現したのは、男より幾分か若い女であった。睡眠を摂っていたのは真実のようで、髪はぼさぼさ、服は皺だらけ。寝起きで機嫌が悪いのか、目には剣呑な色すら浮かんでいた。のだが、己の睡眠を邪魔した男の存在を認識した途端、その目は真ん丸に見開かれた。見かねた男が、そんなに驚くことでもないだろう、と己の無礼の非を認めるでもなく、そう笑った。女はろくに言葉が紡げず、え、は、なんで?と繰り返していたが、次の瞬間には観念したのか、とりあえず入って。話はそれから。と男の手を引っ張り、店の中へ連れ込んだのだった。




「で?どうして幸村様がこんなところに居るわけ?」
「それよりも、そなた、眠らなくていいのか?」
訊いてるのはあたしでしょ!それにそんなの吹っ飛んじゃいましたよ!とくのいちは、バン!とテーブルを叩いた。久しぶりに会った幸村の重要度の順位付けは、相変わらずどこかズレていた。
「金持ちのボンボンが来る場所じゃないですよ、ここは。」
くのいちの口調は、自然厳しくなる。目の前にいる幸村という男は名家の次男であったし、世の中のはぐれ者と呼ばれても仕方のないくのいちとは、生きる世界すら違う存在なのだ。確かに、以前は彼の背中を守り、常に彼と共にあったくのいちではあるが、今と昔とでは事情が違いすぎるのだ。名門の学校を出、大学に進み、エリート道一直線。決められた進路を滞りなく進むことこそ、幸村の唯一の使命と言ってもよい。それほどまでに、くのいちとは違うのだ。
しかし当の幸村は、スーツの上着を椅子の背にかけながら、出てきた、と何でもないことのようにのたまった。
「出てきた、ってどういうことですか。」
「家出、出奔、失踪。この場合、どれが正しいだろうか。」
「馬ッ鹿じゃないですか!」
もう一度、けれども先程とは比べ物にならない程強く、テーブルをドン!と殴った。幸村が、壊れるぞ、と忠告したが、そんなもの!とくのいちは相手にしなかった。

「そなたならば、分かるだろう。わたしは、あの世界では生きられぬのだ。」
綺麗で秩序ある、清潔な、無法地帯の存在すら知らぬ、そのような世界では。
確かに、くのいちの知る幸村には、そのような真っ白な世界は苦しいだろう。けれど、彼はあちら側に馴染まなければならない存在なのだ。秩序すらなく、人の命すら軽い、こちら側が、幸村は恋しいのだ。くのいちは、彼のその想いが苦しいほどによく分かった。だってあの人の、手と言わず身体と言わず、既に血の一滴、髪の毛の先にまで、こちら側のシミがべたりとへばりついて取れやしない。

くのいちは、真っ直ぐに見つめてくる幸村の目に、あ~と気のない声を吐き出した。あたしは昔から、彼にはとことん甘いんだ。甘やかしてこの絆を育ててしまったんだ。そう思うと、この言葉は至極当然のように感じられた。降参とでも言いたげに、くのいちは両手を上げた。
「はいはい、幸村様には負けましたよ。どうせ何も考えずに出てきちゃったんでしょ?あたしがぜ~んぶ世話してあげますから。」
幸村の手持ちの荷物には、生活必需品と呼ばれるべきものが何一つ存在していないことを思い出し、ついくのいちの言葉に苦笑したのだった。





***
ショック!『こべりつく』って方言だったの?あと、『こびりつく』の方が割かしメジャー。こんなところでもマイナー嗜好とかいらんわ!

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