最早オリジナルと言っても過言ではない伊達さんと幸村さんの話。
現代です、多分。
最近の傾向としまして、殺伐としてます。
仲の良くて悪い武蔵と幸村になってると思うので、サンクチュアリ!という方は続かないで下さい。
斜め下を常に突っ走りたいと思います。
沈黙に、時折書類の束をめくる、紙同士が擦れる音だけが響く。幸村は深くソファに腰掛けながら、その音を断続的に生み出し続けている男の指先をぼんやりと眺めていた。片方の眸を眼帯で覆っている男は、幸村の視線に気付いはいるだろうが、特に思うことがないのだろう、こちらを気にした様子はなかった。紙が散乱したデスクの上に足を投げ出し、つまらなさそうに文面を追っている。短く息を吐き出し、微妙な均衡を保っている書類の山に、今まで手にしていた紙束を放り投げた。崩れるだろうなあと予想された山は、案外に地盤がしっかりしていたようで、不安定に左右に揺れはしたが崩壊はしなかった。
「誰かと組むつもりはないか?」
今まで音しか認識していなかった中、唐突に沈黙に響いた音を言葉として捉えることに、随分と時間がかかってしまった。幸村はデスクに鎮座している山から視線を外すことはなかった。傍目からは、彼の意識がどちらに向いているのか判断が難しい。
「武蔵とのコンビは我ながらうまくいったと思ったのだがな。」
「ええ、彼とわたしは、大変うまく互いを補い合っていました。少なくともわたしは、彼の腕を信頼していました。」
地震がおさまった山から、幸村はようやく視線をそらした。雇い主でもあり、数少ない幸村の理解者でもある男を、幸村はひやりと眺めた。政宗は書類を読んでいた体勢のまま、椅子のローラーを僅かにずらして幸村の方へ身体を向けた。
「けれど、やはりわたしには単独行動が性に合っているのだと思いました。あんなにもぴったりと合った人であっても、」
「武蔵も同じ様なことを言いおる。まったく、何がそんなに気に入らぬのじゃ。得物はこのご時勢に、古めかしいものを好む二人よ。力量もそう大差はない。人見知りの度合いは、ふむ、武蔵の方が上であろうかの。」
ふふ、と幸村は笑みをこぼした。何点か、訂正をさせて頂きますが?と幸村が政宗の眸を覗き込めば、勝手にせい、と政宗はそっぽを向いた。紙山の中に手を差し入れ、中腹の地面を抉り取る。今度こそ山は崩れ、デスクの上からばさばさと書類が落下した。
「確かにわたしと武蔵は刀を好みましたが、わたしはただ、銃が手に馴染まぬからです。刀の方が幾分も即物的なのですよ。それに武蔵は二刀にこだわっていましたから、わたしの無頓着な刀の扱いには相当ストレスを感じていたのではないでしょうか?一度、あまりに二刀流に執着する彼をからかってみましたら、ひどく激昂されましてね。殺されるかと思いました。」
政宗は幸村の言葉など聞こえていないような素振りで、書類をやはりつまらなさそうに眺めている。幸村の言葉は、いつだって遠回しだ。だが、その回りくどい中にこそ、彼の本音が潜んでいるのだと政宗は知っている。彼の感情を読み取るならば、言葉で紛らわすよりも、彼のこぼした音の方が何倍も饒舌だ。
「あと、力量は間違いなく武蔵の方が上でしょう。抜刀の技術もスピードも、刀を扱うことに限らず、身体能力ではわたしは彼に遠く及ばない。」
「それでも、そなたらは対等であったはずだ。」
「ええ。わたしでも、彼よりも優れているところがあったからです。彼よりも卑怯であったからこそ、わたしは彼との差を埋めることができたのです。」
武蔵もまた、幸村とは違った理由で、変わった逃亡者であった。己の性分に忠実であったからこそ、二人はこの世界に身を置くことになったのだが、幸村からしてみれば、武蔵という男は、ひどく禁欲的な理由でこの世界へと足を踏み出してしまったように見えた。人を殺したくはないと当然のことのように言った彼。けれども剣を極めたいのだとつめたい眸を幸村に向けた彼。彼は幸村のように狡猾でもなければ、貪欲でもなかった。顔を合わせたその時に、二人は互いの身を焼く炎の温度の差に気付いていた。ああ、彼のようにはなれない。彼は己が真っ先に否定した、過去の自分なのだ、と。
「こと、己の身の置き場については、プライドが高かったんです。わたしも、彼も。だからこそ、譲れなかった。共に過ごす時間が長くなれば長くなる程、譲れないものが増えていきました。わたしは、それが耐えられなかった。プライドだけは高かったんです、己が譲歩する、なんて考えはさらさらありませんでしたね。」
いつの間にか政宗の前にまで移動していた幸村は、ひょいと政宗の手に握られていた書類を奪い取ると、崩れてしまった山の上に重ねた。幸村が移動した時についたのだろう、床に散乱した書類には、くっきりと靴跡がついていた。適度に散らかった部屋を好む政宗だが、はっきりと付いてしまった汚れには流石に不快を示した。眉に皺が寄っている。幸村はそんな政宗の様子など気にならないようで、それ以来、他人との折り合いを考えるのが億劫になってしまいまして、と笑みを作った。
「信頼関係ではなかったのか。」
「わたしの一方的な、ですよ。あなたとの関係と同じです。わたしが彼の剣の腕を一方的に信頼していたように、あなたの仕事の能力を一方的に信頼しているのです。」
政宗はそこでようやく深く溜め息をついた。言葉遊びをする相手には申し分ないが、捻くれた物言いをする彼とまっとうに向き合おうとすると、どうしても気疲れしてしまう。
「で、組んでみる気はないか?」
「あの、わたしの話聞いてました?」
「そろそろ、わしも働こうと思うての。」
「政宗さんが出張るんですか?それは正直、ご遠慮願いたいものです。」
冗談ではなく、本気でそう言っているらしい幸村に、少なからず意地になってしまう政宗。政宗もまた、自負の強い男なのだ。
「わしは有能じゃぞ。」
「知ってますよ。わたしのすることがなくなるんじゃないかって思いますから。」
「何が気に入らぬのだ。」
「だって、わたし、盾にされそうじゃないですか。」
常に腰にある銃の重さを思い出した政宗は、幸村の言葉を瞬時に否定できなかった。代わりに、よいわ、孫市を引っ張って来るとしよう。あやつに書類整理は向いておらん、と矛先を変えるのだった。
***
設定とか色々カオス。何か、傭兵的な?幸村さんが優等生じゃなくってすいません。みんな、何かしら疲れてる。
続きは書くか分かりません。
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