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ば さ ら です。

政宗と幸村の入学式。

設定だけで中々先に進めない。。。










「「あ」」
と、声を上げたのは、二人同時だった。幸村は「お久しぶりです」と笑みを浮かべて、政宗はそれに素っ気なく「ああ」と答えた。

明日から通うことになる高校の校門で、二人は再会した。


***


幸村は六歳から十二歳までの小学生の時期を、政宗の家で世話になっている。早くに母親を亡くし、多忙な父は幸村の世話どころではなかったからだ。ただ、確かに親馬鹿であった幸村の父は、時間を見つけては幸村に会いに来たものだから、幸村も父が大好きだった。今も多忙であることには違いないが、才蔵のほかにも幸村の世話をする人間が増えたこともあり、幸村も広い屋敷で暮らしている。
その頃から、政宗と幸村が仲が良かった。世間を斜に捉えているきらいのある政宗と、幼少の頃から真面目だった幸村は大人の目からは正反対に見えて、これは喧嘩が絶えぬのではないか、と思わせたが、馬が合ったのか相性がよかったのか、二人はすぐに仲良くなった。いじめっ子体質の政宗もはじめは幸村に対して横暴な口を聞いていたが、決して気弱ではない、むしろ負けん気が人一倍強い幸村は、彼の暴言に屈しなかった。同世代に対して常に上の立場に立たねば落ち着かぬ政宗だったが、唯一幸村にだけは対等だった。時にはつかみ合いの喧嘩もしていたせいか、幸村という存在を認めたのかもしれない。

予断だが、その頃の政宗は、既にかつての己の記憶が断片ながら蘇っており、時折、遠い目をして空を眺めていた。示し合わせたわけでもないのに、同じ屋敷内でも同じ場所を好んだ二人は、よく同じ場所にいた。政宗も徐々に、知らない間に隣りにいる幸村が、『あの』真田幸村なのだということを受け入れつつあった。たとえ、彼が何も覚えていなくても、だ。

広い屋敷は、子どもにとっては格好の遊び場だった。幸村の遊び相手が政宗ならば、世話係は才蔵と小十郎だった。一緒にいることが多かった二人だから、それぞれの世話係が自然一緒にいることになった。十代の頃から既に強面だった小十郎を最初は怖がっていた幸村だったが、乱暴な口調の中に優しさを見つけると、才蔵が妬く程に懐いた。戦国の世では考えられぬ程、彼らの関係は良好でありまともであり、温かかった。

そんな関係だったが、幸村が中学に上がると共に居候生活は終わりを告げた。一人で留守番をさせておいても不安になる年齢でもないし、屋敷にも人が増えたからだ。二人は別々の中学に通った。当時はそれほど携帯電話が流通もしておらず、自然連絡手段は絶たれた。互いの家の電話番号ぐらいは知っていたが、特に用もなかったから交流は一切なかった。ただ、長い間一緒にあった気の合う友人を二人はしっかり覚えていて、時々は、どうしているかなあ程度には思い出していたようだった。

三年のブランクのある二人だが、顔を合わせてしまえばどうということはなかったようで、世話係の二人を放ったまま、肩を並べて談笑している。小学生の時は同じぐらいだった背だが、今では政宗の方が大きい。頭一個分とは言わないが、五㎝ほどは差があるようだった。幸村は中学でもこれといって著しく背が伸びなかった。昔から、成長期は少し人より遅かった。

才蔵はそんな二人をあたたかく見つめながら(あくまで表面は無表情だったけれど)、ごそごそと鞄を探った。小十郎が何事かと視線を向けたが、才蔵が取り出したものにぎょっと目を見開いていた。才蔵はそんな小十郎の反応には取り合わず、短く「幸村様」と名を呼んだ。条件反射のように、政宗と喋りながらも振り返った幸村に向かって、才蔵はパシャリと一回、カメラのシャッターを切った。幸村がパチパチと瞬きを繰り返す横で、あからさまに嫌そうに政宗が顔を歪めた。その様をレンズ越しに見ながら、もう一度、今度は連写でその姿をフィルムに納める。

「幸村様、折角ですので校門で撮りましょう」

レンズから顔を上げた才蔵は無感情に言い放つ。幸村が困ったように笑う。隣りでは政宗が騒いでいる。無許可で写真を撮られたことに憤っているようだ。小十郎はやれやれと肩を竦めて、癇癪を起こす主を宥める為に、政宗の名を呼ぶのだった。


「さあさ、幸村様。お願いします」
「しかし才蔵、流石にこれは恥ずかしい」
たかが高校の入学式だ。幸村たちはこの春から入学したが、元々この高校は小学校からのエスカレーター制で、生徒の大半は通い慣れた学校に登校している。保護者同伴の生徒はまず目立っていたし、記念にと写真を撮る姿もほとんど見られない。更には保護者としては二人共歳若く、容姿も優れているせいで悪目立ちしていた。
「立派にご入学されたのです。何を恥ずかしがる必要がありますか。本日、来ることが叶わなかった昌幸様に、是非とも幸村様の勇姿を見せて差し上げたいのです」
それを言われてしまうと、幸村も弱い。何かと写真を撮りたがる才蔵だが、彼がカメラ小僧の真似事をしているのは、決して個人的趣味からではない(もちろん、一通りの資格は持っているが。屋敷の防犯カメラは彼がセッティングしている)。幸村の父の為、そして幸村を慕って集まった屋敷の者たちと幸村の成長を共有できるように、だ。もちろん、才蔵の定期入れには幸村のベストショットが大事に仕舞いこまれているが、ほとんどの者が同じようにしているから、誰も奇特には思わない。

「なら、政宗!政宗も一緒ならいいぞ!」

幸村の発言に、二人のやり取りをにやにやと眺めていた政宗が、さも不機嫌そうに顔を顰めた。ああん、何で俺が、と政宗が反対するよりも先に、幸村が政宗の腕にしがみつく。

「俺は嫌だ!一人で突っ立ってろよ。俺を巻き込むんじゃねえ!」

そう言って幸村を振りほどこうとするが、強情で細身なくせに力だけは有り余っている幸村は、中々はがれない。こうなると政宗もムキになって、離せよ馬鹿、と乱暴に幸村の肩を押すが幸村も頑として動かない。

「政宗!」
「いやだ!」
「俺を見捨てるのか!」
「ああ見捨てる、見捨ててやる!恥をかくのはお前一人で十分だ!」

傍観者に徹している小十郎は、何を大袈裟な、とこっそり溜め息をつく。久しぶりに再会して、政宗もテンションが上がっているようだ。いつもならば冷たく突き放してしまうくせに、懐かしさと同時に過去の自分も一緒によみがえってきたのか、政宗の表情は歳相応を通り越して子どもっぽい。家では抑制されることの多い政宗だ、幸村とのじゃれあいがどこか微笑ましく映った。世話係ではなく、むしろ保護者として政宗を見守っている小十郎をよそに、二人の攻防は続く。

「ひどいぞ政宗!久しぶりに会ったのだ、少しは妥協しろ!」
「お前こそ、ちっとは譲れよ!」
「むっ、俺はいつだってお前に譲歩してきただろう!」
「どこがだ!どんだけ俺がお前に遠慮してきたと思ってんだ!」

激しいやり取りの最中、幸村が首をかしげる。本当に、そういう認識をしていなかったのだと、政宗は思い知らされた。

「本当に、駄目か?」

政宗は、結局、幸村に弱い。真っ直ぐに政宗の目を覗き込み、政宗に問い掛けるこの仕草のせいで、政宗は結局幸村にノーと言えないのだ。今日も過去のいつかと同じように、僅かに視線を外しながら「しょ、しょうがねぇな、幸村は」と一緒に校門に並ぶ羽目になっていた。

政宗は幸村に弱い。もちろん、小十郎だって知っている。むしろ、小十郎しか知らない、という方が正しい。決して真田幸村とは薄い縁ではなかったし、共に酒を飲む回数だって少なくはなかった。けれど、目の前にいる幸村は、小十郎たちが知る真田幸村とは全くの別の存在のようだった。あの男は、こういう風に笑うのだと知った。怒る時は、泣く時は、悲しむ時は喜ぶ時は。小十郎たちは幸村の表情を知らな過ぎた。未だにそれは慣れることはなく、何とはなく目をそらしてしまう。

「小十郎さん」
二人にカメラを向けたまま、才蔵は珍しく口を開いた。手にしているカメラは一眼レフで、そういう職業の人間でしか持たないような重厚なものだ。決して、家族写真の一枚を撮るべき安価なものではない。ただ、幸村馬鹿っぷりは昔からだったので、そこそこに免疫はあった。霧隠才蔵は、小十郎が幸村と再会したその時、既に彼の側にあって彼を見守っていた。細身の身体は自然と常に真田幸村の側にあった忍びを連想させたが、彼は『そう』ではなかった。霧隠才蔵は常に無表情であまり感情を表に出さない。今も抑揚の少ない声だった。確かに、才蔵は『彼』ではない。飄々としていたあの忍びとは似ても似つかない。
「焼き増ししますから、そんなに怒らないでください」
小十郎も才蔵の位置にいたい、ということを感じ取ったのだろうか。写真を拒絶するようになって久しい政宗だ、手元にあるアルバムには中学の時の集合写真があるだけで(それだって小十郎が頼み込んでようやく手に入れたものだ)最近のものはない。小十郎は感情を隠して、「それは、助かる」と相槌を打つのだった。




***
長くなった!
幸村は政宗を呼び捨てにしてます。小十郎のことは小十郎さんって呼びます。

あ、ダテサナじゃないです。政宗と幸村はダチです。

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