× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 TOZです。 7話目です。ようやくラストです。 宙ぶらりんになっているものもありますが、なんと言おうが最後です。 ようやっとザビミクになりました。 スレイはやっぱり出て来ません。 再び旅立つことが決まり、長期間留守になることも想定され、ザビーダとミクリオは屋敷へと戻っていた。旅支度と、屋敷周辺の結界を強化する為だ。食糧なども片付ける必要があった。一日もあれば十分だろうと、一日後ロゼたち女性陣とペンドラゴで合流することになっている。 ミクリオとザビーダはてきぱきとキッチンや自分たちの使っていた部屋を片付けたが、何分広い屋敷だ。あれはどうだった、こっちはどうなった、と屋敷中を走り回っていたら、いつの間にやら夜になっていた。残り物で作った夕食の席、ザビーダは珍しく口数が少なく、しんとした晩餐となってしまった。共に暮らして随分と経つが、彼が場を盛り上げないのも初めてのことであったし、機嫌が悪いのも実は初めてのことだった。彼がそう言ったわけではないが、なんとなく、そうなんとなく、あ、何かに腹を立てているんだな、とは思ったものの、その原因までは分からなかった。寝て起きてロゼたちと合流すれば自然上昇するだろうな、とミクリオはのん気なことを考えていた。もっと早くに問い詰めていたら、翌日の彼のコンディションも違ったものになっていただろう。 ここで眠るのもしばらくのお別れか、となんとなく感慨深げにベッドに腰掛ける。あとは眠るだけだ。明日からじっくり宿が取れるとも限らない、と早めの就寝につこうとしたミクリオの部屋の扉がゆっくりと開いた。相手は確認せずとも分かっている。ザビーダだ。 「何かあったのかい?明日から忙しくなりそうだし、君も早く寝たら、 「いつからあんなこと考えてた?」 ザビーダの声が尖っている。表情は、灯りを落としてしまった室内では読み取ることができなかった。エドナが聞いたら爆笑するだろうが、この屋敷では始終優しいザビーダであったせいで、一瞬、声の主が誰だか分からなくなる。初めて会った時に滲ませていた僅かな棘が、その声には含まれていた。ミクリオは動揺した。もしかしたら、誰かがザビーダにミクリオの気持ちを告げてしまったのかもしれない。男に想われても嬉しくもなんともねぇよ、むしろ迷惑っていうか、恩をあだで返されたっていうか。先程の声のトーンで、勝手にミクリオの脳内がザビーダの声を再生してしまう。別に、彼に好きになってもらわなくてもいい。少しずつ僕という存在を意識してもらえばいい。でも、でも、彼の態度はそれすら許してくれない。嫌われた、と思った。嫌われてしまったら、もうおしまいだ。 「…すまない」 「へぇ?謝る?謝っちゃう?後ろめたいって思ってる証拠だわな」 それは…!と、思わず俯けていた顔を持ち上げて、ザビーダを見上げた。が、ミクリオから見えたのは、怒りに燃えているザビーダの瞳だけだ。それもすぐさま見えなくなった。両腕を掴まれたかと思えば、押し付けるようにベッドに押し倒され、彼の口唇がミクリオのそれに合わさったからだ。ミクリオの抵抗など許さないとでも言うかのように、ザビーダの身体がのしかかってきた。キスをされている、という意識に繋がるまで、ミクリオは目を見開いて状況を把握しようとしていたが、近過ぎる距離は反対に視界を奪い、ザビーダの瞳の色である紅と肌の褐色がちらちらとモザイクかかったように映るばかりで、ミクリオの欲している情報を与えてはくれなかった。 ザビーダ、なにを、と言おうとして、開いた口の隙間から、ぬるりとしたものが差し入れられる。なにごとだ!と思いながらも、まるで生きているかのように己の口の中を暴れ回るそれがザビーダの舌であることにようよう思い至って、今度こそ情報量にパンクしそうになった。ちょっと待ってくれ、頼むから、ザビーダ…!、と発せられるはずの言葉は全てザビーダに吸い取られ、濡れた音に混ざって、ああだか、ううだか、鼻にかかるミクリオの声が漏れた。まずい、呼吸ができない…!と焦ったミクリオだったが、酸欠になる寸前で、ようやくザビーダはミクリオの口を解放してくれた。はあはあと荒い息を立て、むせないようにゆっくり息を吸い込む。己の口唇の濡れた感覚が気恥ずかしい。これは己のものだろうか、ザビーダのものだろうか。そう考えるだけで、頬がかっと赤くなるのを感じた。 「お前さんがスレイをどんだけ好きなのかは分かってる。だから、代わりでいいわ。俺をスレイだと思え。今だけ、お前の全部をくれ、ミクリオ」 両腕を掴まれたままで、今度はザビーダの頭がミクリオの首筋に降りてくる。先程まで己の腔内を暴れ回っていた舌が、ミクリオの鎖骨に触れ、口唇がそこを吸い上げる。ちくりとした痛みは一瞬で、じんじんと熱を持ったように熱かった。 何一つとして理解できなかったが、ザビーダが勘違いをしていることだけは分かった。そして、ザビーダがミクリオの好意を欠片も知らないことも、だ。声はまるで彼に吸い取られてしまったかのように、ひっ、だか、あっ、だか、ちっとも意味のないことを吐き出すばかりで、ミクリオの頭に浮かんでいる制止の言葉は一つとして形にならなかった。腕に力を込めてみたものの、痛い程強い力で拘束されている両腕は解けそうにない。どうしよう、どうしよう、どうすれば彼を止められるだろう、と切羽詰ったミクリオは、咄嗟にその呪文を口に出していた。 襲われているにも関わらず、 「あ、」 と、とんでもなく呆けた声が出てしまった。無意識に紡がれたお得意の水の天響術は攻撃力こそなかったが、的確にザビーダの頭に注がれた。はねた水滴がミクリオにもかかる。流石にザビーダも驚いたようで、腕の力が緩む。今しかない!とミクリオは渾身の力を振り絞って、彼の額めがけて己のそれをぶつけた。頭突きだ。サークレットを着けているから両方に多大なダメージを与えたが、予想できていた分ミクリオの方が回復が早かった。ザビーダが痛みで後方へとのけぞったのを見逃さず、今度は彼の上にミクリオがのしかかった。完璧に仰向けになっているザビーダの腹筋辺りに跨る。体格差があり過ぎるせいで上手を取ったとは言えないが、彼の予想できない動きを多少封じることは可能だろう。いってぇなあ、と額を押さえるザビーダに、後で回復術をかけておこう、と内心で謝りつつも、腹には怒りがふつふつと湧き上がっている。文句を言いたいのはこっちの方だ! 「君は急になんだ!何を考えてるのか全く分からない!スレイはここに居ないだろ!僕たち二人の問題に、なんでスレイが関係するんだ!」 「…お前がスレイに未練たらたらだからだろ」 未練ってなんだろうか。ロゼと言い、ライラと言い、ザビーダと言い!勝手に僕たちの関係を誤解しているのではないだろうか。あ、なんか腹立ってきたぞ、とミクリオが眦を釣り上げて、ザビーダを見下ろした。 「ロゼにしても、君にしても、僕とスレイがなんだって言うんだ!スレイは僕の幼馴染だ、親友だ、家族だ!それ以上でも以下でもないよ!」 「…お前はスレイを待つんだろ。お前が大事に思うのはスレイなんだろ」 「当然じゃないか、家族だからね」 「違うだろ、好きなんだろ。俺がお前にしたように、スレイにしてやりたいんだろ。別に隠すなよ、隠す必要ねぇだろ」 「それこそ違うよ、ザビーダ。僕とスレイは家族だ。家族を大事に思うのは当然だろ。ロゼは仲間の為に無茶をした、エドナはお兄さんの為に時間を止めた。アリーシャは亡き両親の為に必死にディフダを再興しようと頑張っているし、君だって同族だという理由だけで、デゼルの後を引き受けた。みんな、大事な人の為に命を懸けているよ。だから、僕は特別なことをしていないし、この感情は特異なものじゃない」 はあはあと、乱れた呼吸を整える。見っともなく興奮している自覚はあったが、それもこれも、彼が悪い。彼は、勝手にミクリオがスレイに懸想していると想像して、お優しいザビーダ先生はそれなら自分が代わりになってやるよ、と言い出したのだ。想いを寄せている相手に、そんなことを言われたら、目の前が真っ暗になるに決まっている。残念ながらミクリオは、絶望する前に怒りが先行してしまったが。負けず嫌いの性質が妙なところに作用してしまったようで、君の勝手な親切よりも自分の想いの方が強い、強いったら強い!と、彼が理解するまで喚きたかった。 「僕は君が好きだ」 「は?」 「本当は言うつもりなんてなかったし、ゆっくり意識してもらうよう努力するつもりだったのに。君は馬鹿なことをするし、馬鹿なことを言うし、もう言うしかないじゃないか」 自慢じゃないが、ミクリオは自分が短気だという自覚がある。どうしたら分かってくれるだろうか、遠回しに言っても、またスレイがどうのと言われるのではないだろうか。どんなに言葉を選んでも、結局その言葉に行き着くのならば、もういいんじゃないだろうか。スレイは何もミクリオに相談してくれなかった。彼は、一人で何もかもを決めた、決めてしまった。確かに、スレイは自分に一番に打ち明けてくれたが、それだって報告でしかない。俺はマオテラスの器として眠りにつくから。もう決めたから。だから、悪いな。 今思えば、なに馬鹿なこと言ってるんだい、君が背負う必要は全くないんだぞ、と頭の一つでも叩いて、精一杯反対してやればよかったのだろうか。お互い言いたいことを言い合って、それで少しでも納得してから別れられれば、ミクリオだって何年も塞ぎ込むことはなかったかもしれない。後悔と言うわけではないのだ。ただ、本当に自分とスレイはちゃんとお互いにお互いの言葉を尽くしただろうか、お互いに我儘を言っただろうか。これしか方法がないんだ、だから、これ以外の答えはないんだ。スレイは困ったように笑っていた。ミクリオはそんなスレイの表情をただ見ていることしかできなかった。多分、お互いに諦めてしまったのだろう。だってどんなに言葉を紡いでも、どんなにミクリオが反論しても、結論は変わらない、掴むことを余儀なくされた結末は変わらない。 でも、ザビーダとの関係は違う。もうどうにもならないと、抵抗すること自体を諦めることはしたくなかった。だって、彼はここに居る。スレイのように、文句をぶつけようにも自分の前から姿を消してしまったわけではない。 「君が女性を好きなことを分かっている。僕はれっきとした男だし、正直、君に女性扱いされたいわけじゃない。君が戸惑うことは分かっているし、最悪、距離を置かれることだって十分想像の範囲内だ。でも、そういうリスクを承知の上で、言うよ。だって、好きな人に誤解されていることは、僕には我慢ならない」 好きだ、ともう一度繰り返して、ザビーダを見下ろした。僅かにカーテンの隙間から漏れる月明かりが、徐々に目を慣れさせていく。それでも、やっぱり表情は読み取ることができる程の光源ではない。相手の出方を待つか、いっそ部屋から出て行った方がいいだろうか、とぐるぐる考えていると、だらりと投げ出されていたザビーダの腕が持ち上がり、ミクリオの腰に添えられた。ザビーダが上半身を起こす。腹筋辺りに座っていたから、ずるずるとザビーダの身体を滑り、太腿に再び座り込む形で落ち着いた。彼なりにずり落ちないよう支えてくれたようだ。 ザビーダの、スレイよりも分厚くて骨張った指が、ミクリオの額にかかった前髪をゆっくりと掻き上げる。後ろに撫で付ける、くすぐったくなる程優しい手つきに、ついつい笑ってしまった。お返しとばかりに、手探りでザビーダの額に触れる。思い切りぶつけたせいで、心なしか腫れている気がする。とりあえずとレリーフヒールをかけようとした口を、再び封じられた。先程の無理矢理のキスと違い、お互いの口唇の形を確かめるような、柔らかいものだった。 「後悔しないか?」 「何に?」 「もう都合の良い世話焼き兄貴には戻ってやれねぇぞ。言っとくが、俺様はお前が思ってる以上に、悪い大人だぜ?」 「知ってるよ」 どうだか、と、苦笑交じりに吐き出された言葉に、知ってるよ、ともう一度繰り返そうとしたのだが、それよりも先に、再び背中からベッドに押し倒された。 「なに?」 「なにって訊いちゃう辺り、まだまだミク坊から卒業出来そうにねぇなあ」 にやりと笑ったことだけは気配で感じ取ることができた。なんだか丸く納めようとしているのは分かったが、いや、ちょっと待てよ、と今までのやり取りを思い返す。 「ザビーダ、」 「なんだ、今更怖気づいたのか」 「まだ、君の気持ちを聞いてない」 は、と頭上で声が漏れた。多大に呆れた色を含んだそれに、ミクリオがむっと眉を寄せる。 「それに、君の不機嫌だった理由も分からないから、できれば説明して欲しいんだけど」 「察しろよ、それぐらい。綺麗な顔してるくせに、ホント、情緒面が育っちゃいない」 悪かったね、とむくれるミクリオの耳元にザビーダの吐息がかかる。正直くすぐったくて仕方がなかったが、彼をはねのけてしまったら、もう彼の本音が聞けなくなるような気がして、ミクリオはじっと我慢した。 「…お前がスレイのことばっか考えてるからだよ。俺と一緒に暮らしながら、――俺様、結構サービス精神満載だったろ?――だから、勝手にお前は俺との暮らしが居心地が良いって思ってんだと勘違いしてたんだろうなぁ。俺は結構満喫してた分、お前は俺と暮らしながら、スレイが早く目覚める方法ばっかずぅっと考えてたのかって思ったら、まあ、切れちまったわ」 「スレイが早く目覚めるのと、ザビーダとの暮らしに不満があるのとが、どうして一緒になるんだよ」 「俺様としては、どうしてイコールで考えられねぇのかが分かんねぇんだけど」 「だって、スレイが目覚めたとしても、ザビーダが好きな気持ちは変わらないよ」 「……」 ザビーダの、言葉にならない声だけが漏れた。条件反射のように口を開いたものの、咄嗟に言葉が見つからなかったようだ。ロゼが言っていたのはこういうことなのかもしれない。ミクリオにとって、ザビーダとスレイを想うことは全く違う感情なのだが、ザビーダには同じに見えるのだろうか。それとも、大事な人は一人でなくてはいけない決まりでもあるのだろうか。 「ミク坊って、結構俺様のこと、本気で好きなのね…」 「あ、君、馬鹿にしてるだろ」 「してない、してない。どこまで進んでいいもんかねーとか、考えてるだけだから」 「?別に、君の好きなようにしたらいいのに」 はあああ、と重い重い溜め息が漏れた。人生経験の差は仕方がないとしても、ザビーダとミクリオの価値観は結構かけ離れているようだ。 「知りもしねぇくせに、ぽんぽん適当なこと言うなよ。悪い大人は、それに簡単に付け込んじまうぜ?」 「ザビーダだったらいいよ」 「だから、そういう軽はずみなことをだな、」 「だから、ザビーダだからいいんだってば」 それより、そろそろ寝てもいいかい?明日から野宿だって在り得るだろうし、と、ザビーダの身体を押す。どいてくれ、と訴えたつもりだったのだが、ザビーダは頑として動かなかった。ミクリオの額を撫で、頬を辿り、首筋を指が伝う。くすぐったいと思うのが半分、むず痒い感覚がじわりと生まれた。もどかしい、と思ったが、一体何がもどかしいのかが分からなかった。 「なに?」 「ここまで期待させといて、はいお休み、は、もう無しだぜ?」 「君は僕をどうしたいんだ」 「お前の愛に応えてやんねぇとな。愛し合おうぜ、ミクリオ」 ほとんど目立たない喉仏を撫でられながら、太ももにザビーダの足の温度を感じる。 「ちょ、ちょっと待ってくれ!」 「もう無理、もう聞いてやんね。俺は散々忠告したからな」 「だって、その、急すぎる!」 「そうでもねぇよ。同棲期間は長いだろ」 「同居だ、同居!想いが通じ合ったのはついさっきだ!」 「そろそろ腹括れって。心配すんな、一回目は情熱的に、二回目は蕩けるくらいに優しく、が、俺様の信条だからな」 大人の階段、三段跳びで駆け上がらせてやるぜ?と、耳元で囁かれ、くすぐったさと気恥ずかしさの洪水に、ミクリオから抵抗する力が抜ける。それを見逃すザビーダではなく、その後はただただザビーダに翻弄されるミクリオだった。 *** はいっ、ここで終わりです。 これ以上続きません。 とりあえずザビミク書きたいな、で始めたので、これ以上ややこしい設定作ると、 ああだこうだ練らなきゃならないし、とんでもねー長編になるので(ごにょごにょ) 目覚めたスレイと一悶着あるかないかは、まあ微妙なところ。 案外あっさり受け入れて、じゃあミクリオのことよろしく!かもしれません。 その辺りは妄想で補完してください。 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました! 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