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鬼の出現は広範囲に渡っている。特に人の多い東京周辺に集中するが、人里離れた閉ざされた集落にももちろん存在し、むしろ人の行き来が少ない山奥の方が発見が遅れてしまうこともあった。義勇は、風柱・不死川実弥と共に、東京から遠く離れた地で目撃された、鬼の討伐に向かう途中であった。既に不死川は現地へと向かっており、義勇も彼に追いつかなければならない。柱が派遣されるのは、早急に対処しなければならない場合が多い。時には列車を利用することもあったが、義勇はこの乗り物があまり好きではない。ひどく揺れるのも苦手な要因だが、人が多すぎるし、人との距離が近すぎる。息苦しくて仕方がないのだ。任務を打診された際にこの憂鬱を想って、ため息をついてしまった程だ。時には詰め込めるだけ詰め込まれる列車内だが、今日はまだ空いており、座ることもできそうだ。座りっぱなしは座りっぱなしで苦手な義勇は、やはり再びため息をついた。 「冨岡ではないか!君も遣ってくれるとは、お館様も心配性だな!」 人の話し声でごった返している中でもよく通る声に、義勇は思わず視線を向けた。車内の喧騒の中でもいっそう目立つ集団だ。煉獄自身は気の好い青年なのだが、如何せん義勇にとっては存在が賑やすぎる。声も大きければ、動作も大きい。彼が隣りにいるだけで、自分も悪目立ちすることを知っている。一瞬躊躇ったものの、彼が義勇お得意の素知らぬふりで引き下がらないことを身をもって知っており、諦めてその集団へと近寄った。 「俺は不死川との任務で移動しているだけだ。」 「そうなのか。俺はてっきり、お館様が君を派遣してくださったのだと思ったぞ。詳細は不明だが、この列車内で行方不明者が多数出ているらしくてな、俺が呼ばれた。」 彼らは?と訊ねるように、炭治郎・善逸・伊之助を順に見やる。柱が派遣されるような危険な任務に、少しだけ階級の上がった新米達三人を連れているのは少々違和感があった。大雑把な印象を抱かれがちだが、煉獄は人をよく見ている。義勇の視線の意図を汲み取ったようで、俺も詳しくは聞いていない!柱と共に任務をこなすことで、経験を積ませようというお館様の御厚意であろう!と明朗な回答だ。そうか、と声に出すことなく頷き、まあ乗りかかった船だ、鬼が出た時は助力はするが、と、自分の中で返答をしつつ、なんとはなしに炭治郎へと視線を向ければ、炭治郎は「失礼しますッッ!」と煉獄に負けぬ大音声で叫びながら、勢いよく立ち上がった。 「竈門少年、そろそろ出発するぞ。危ないから座っていなさい。」 「はい!いえ、あの、そうしたいのは山々なんですけど、錆兎から、冨岡さん接近禁止令が出ていますので!」 五間以上近付いてはいけないんですけど、もうこの距離は駄目だと思うので!と言って、今にも飛び出して行きそうな炭治郎の腕を、煉獄ががしりと引き止める。そんなことになっているとは知らない義勇は、何故錆兎がそんなことを?と首を傾げるが、柱合会議かひと月以上経過していたが、実は錆兎とは顔を合わせていない。錆兎に問い詰められても言葉にできる自信もなく、多忙を理由に錆兎を避け続けていたからだ。 「うむ、それは錆兎からの言い付けられたのだな。お館様ではなく?」 「はい、柱命令だと言われました。」 「ならば、俺が同席する場では無視すればいい。」 「は?」 「錆兎が柱権限で君にそう命令したのであれば、俺も同様に柱権限を行使しよう。この場では気にするな!なに、何か言われた場合は、俺の名を出せばいい。柱に上下はないからな、俺が錆兎の命令を聞く必要はない!」 だから遠慮なく座りなさい。ほら、冨岡も。と、義勇には、煉獄と炭治郎に向かい合う、前の座席を指し示す。進行方向に背を向ける位置だから嫌だな、とちらりと思ったものの、綺羅綺羅とした目を向けてくる炭治郎に負け、義勇は彼らと向かい合う形で座席に着いた。 「冨岡さん、あの、ありがとうございます!俺達の為に、命まで賭けてくださって…!本当に、本当に、なんて言ったらいいのか分からないんですけど、お礼を言いたいってずっと思ってたんです!!それなのに、いざ目の前にすると、言葉が出てこなくって、ほんとうに、すみません、」 「竈門。」 はい、と炭治郎が返事をすると同時に、ずずっと鼻をすする。無意識に涙ぐんでいたようだ。義勇は相変わらずの無表情だったが、炭治郎の言葉に僅かに考える素振りを見せた。彼女はちらりと煉獄を見たが、彼は彼で義勇の言葉を待っているようだった。 「俺はお前に礼をされるようなことをしていないが?」 場の空気が止まる、というのは、こういうことを言うのでは、と炭治郎が思ってしまったのも無理はないだろう。炭治郎は咄嗟に義勇の言葉が理解できなかった。それは自分だけなのか?と思い、煉獄を見、伊之助を見――たが彼はあまり参考にならないな、と、気を取り直して善逸を見た。彼の表情は分かりやすい。感情がそのまま表情と直結している。特に、今のような状況の場合は。 「よもや、よもやだな!」 そう煉獄が先んじたものの、その声にかぶさるように、善逸の暴風のような声が続いた。 「え、なに言ってんのこの人!俺の勘違い?!別人?!禰豆子ちゃんが、万一、万が一よ、いや、そんな日は一生やって来ないんですけどね!万が一にでも人を襲っちゃった時は、切腹するんでしょ、腹切るんでしょ。腹切るってことは、死んじゃうってことで、この人は命を禰豆子ちゃんに預けてるようなもんなんだよね、え、違う、違うの?だから水柱がすっげぇ怒ってたじゃん!だから怖い脅ししてったんじゃなかったっけ?!違うの?この人じゃないの?水柱、めっちゃ怒ってたじゃん!!実はみんな揃って俺達をだましてたってわけ?!」 いつも思うが、これだけ長い言葉を叫ぶように喋って、一度も噛まない辺りすごいなあ、と炭治郎は思う。が、それを言ったところで、そこじゃないんだよぉ炭治郎!と言われるだけなので、炭治郎はその感想については口を噤む、が、 「善逸、落ち着け。少なくとも、俺とお前の認識は一致しているぞ。更に言うなら、錆兎が圧をかけたのは俺で、お前じゃない。だから大丈夫だ!」 「あああ”あ”あ”、何が大丈夫じゃないのか、さっぱり分からない!分からないよもう!正直、俺はあの場にいるだけで、ちびるんじゃないかってぐらい怖かったんだぞ!なんで水柱も、俺らがいるとこであんな話するんだよ!怖いじゃん、めっちゃ柱怖いじゃん!」 いや、それは俺も分からないけれども、と善逸を宥めつつ、今日の伊之助は静かだなと思いふと視線を向ければ、伊之助はじろじろと不躾な視線を義勇に向けていた。炭治郎は猪頭に慣れつつあったが、二人がお互いをゆっくりと認めたのはこれが初めてだろう。伊之助の話を聞く限り、物凄く強い半々羽織が鬼を斬った、と言っていたので、那田蜘蛛山で伊之助を助けたのは義勇だとは思うのだが、互いに名を名乗り合う時間はなかったようだ。残念ながら、あの場で義勇が名を告げたところで、伊之助が正確に覚えてくれたかは分からないが。 「なんでお前、雌のくせして、そんなに強ぇえんだ?」 ああ、そんな失礼な口を利いてくれるな、彼女は俺と禰豆子の恩人なんだ、と発言を遮るよりも早く、再び善逸が口を開いた。女性至上主義なところは閉口するが、決して女性を貶めないところは単純にすごいと思う炭治郎だ。 「ばっか、お前、馬鹿!女性になんて口利いてんだよ!しかもこんな美人に!罰当たりも甚だしい!こんな美人、滅多にいないんだぞ!この世の宝に、俺達みたいなちんちくりんが話しかけていいと思ってんのか!はあ、怖い!お前も怖いが、あの柱も怖い!お前、あの場にいて何にも思わなかったわけ?!鈍感か、気配に聡いくせして、超鈍感なわけ!?お前は命が惜しくないのかよ!同期だからって、お前の無礼に揃いも揃って折檻されたらどうすんだ!謝れ、謝れよ!この人にはもちろん、恐怖を与えた俺にも、誠心誠意、地面に額擦りつけて火傷しながら謝れ!いや俺にはいい、お前にそんなことされたら、それこそ恐怖で心臓が止まってしまう。とにかく謝れ!」 「うるせぇ!」 割と容赦なく、伊之助が善逸の頭に拳を落とす。痛ッ、痛いよ~これ絶対割れてる、割れて血が水芸みたいに吹き出てる、まだ鬼も出てないのになんで負傷してるんだよ~、そう言って泣くものだから、炭治郎も身を乗り出して、大丈夫だぞ善逸!たんこぶくらいにはなったかもしれないが、割れてもいなければ出血もしていない!と励ます。あ~もう、そういうことじゃないんだよ~、と更にベソベソ情けなく泣くので、見っともない真似をさらすな!と一喝しつつ、自分達だけではないことを思い出し、ハッと彼らを振り返る。煉獄はうむうむ、と頷きながら、元気があって良い!と笑っていたが、義勇は中々分かりにくいが、目を見開いてぽかんとしていた。おそらく彼女の人付き合いの中に、伊之助のような口を利く人もいなければ、善逸のように一人で喋り倒す人もいなかったのだろう。思わず、 「す、すみません、騒がしくって!」 と、ぺこりと頭を下げるが、静かな空気を好みそうな義勇は、意外にも嫌がる素振りを見せず、 「いや、」 と、首を横に振って、ふっと伊之助へと視線を向けた。 「嘴平。」 そう静かに名を呼んだだけだったが、ぎゃあぎゃあ騒いでいた二人が、ぴたりと動きを止めた。お館様とはまた違った抑止力が、彼女の声にはあった。彼女の静謐な空気が、すっと心に零れ落ちて、清清しい気持ちになるのだ。 「ああ、俺は嘴平伊之助だ!」 「・・・知っている。」 だから名を呼んだだろう、とは決して言わなかったが、眉間に寄せた皺が何か言いたげに見えて、炭治郎は続きを促すように伊之助を落ち着け!と押さえ付けた。 「俺が強いと思うのは、お前の世界が狭いからだ。俺は弱い。俺よりも強い奴などごまんといる。錆兎は俺よりもうんと強い。」 そんな馬鹿な、と思わず煉獄を見れば、これが冨岡の困ったところだ、と言われてしまった。彼女に助けられた時の記憶は鮮明にある。自分では手も足も出なかった相手をあっと言う間に倒してしまったその強さは、炭治郎の目標の一つにもなったのだ。 「なら、俺と手合せしろ!俺様の踏み台になれ!」 「嫌だ。」 「手合せしろ!俺に倒されろ!」 「俺と手合せしたところで、得るものなど何もない。」 一刀両断とはこのことか。どこから否定していいのか分からない言葉の応酬に、炭治郎が一人あわあわしていると、義勇が今度は善逸へと視線を向けた。 「我妻。」 ふぁい!と、返事にすらなっていない、ふわふわとした善逸の声にも、義勇は動揺一つ見せなかった。善逸は女性に見つめられて、明らかに舞い上がっている。確かに、義勇の瞳に見つめられると、その眸があまりに澄んでいるせいか緊張してしまう。じっと見つめられると、その眸に映っているのは自分だけなのだと、妙に意識させてしまう何かがあった。 「俺は美人ではないし、錆兎は怖くない。」 は?と思わずといった様子で善逸から吐き出された声だったが、義勇は話は終わった、と視線を外した。丁度列車が動き出そうとしていた。少年達の頭を混乱させた義勇は、いつもの無表情で窓の外へと目を向けている。この中では一番彼女と付き合いが長いであろう煉獄に助けを求めて視線を向ければ、これが冨岡の難儀なところだ!慣れろ!と笑うばかりであった。 --------- はあ、なっがい。こんだけ長いのに、まだ始まってすらいないんですよ。こわい。 以下、自分用のメモです。考えたことをつらつらっと。 鬼殺隊本部と、お館様のお屋敷って別物って考え方でいいんですよね。お屋敷と刀鍛冶の里が隠されてるのって、柱も例外なくなんでしょうかね。里くらいは柱は知っててもいいかも。刀の手入れはしょっちゅうだろうし、柱の人を背負う隠の人が可哀想過ぎる。不死川さんとか背負うの超こわいじゃん。 あと、柱のお屋敷って本部を中心に東京周辺にあって、互いに行き来するのは結構簡単だと思ってるんですけど、夢見すぎかなあ。柱の担当地区って、どういう風に分担されてんでしょうね。そもそも鬼の出没範囲って全国で合ってんの?東京周辺だけ?キャラの出身地見ると、東京しかないんだけど。もしかして、北海道とか沖縄には鬼いないの?いないこじつけ理由が思い浮かばないけど、いたらいたで移動が超大変すね。大正時代なら尚更。そうなったら、地方ごとに拠点置いて、支部みたいにそこに詰めっぱなし、の方が効率いいと思うんだけど、任務終わる度に報告に戻ってるみたいなんで、どーなんかな。考えたら負けなのかな。人口に対しての鬼の比率とか出してほしい。 短編集で吸血鬼に触れてたんで、吸血鬼は海越えれないっていう迷信設定を採用すると、海外流出は防げるんですけどね。鬼は無惨様の力ののれん分けだと思ってるんで、無惨様がいる場所から離れすぎると消滅する、とかどうかな。どうだろ。この辺り、本誌で言及されてんのかなああああ。 PR |
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