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大戦後の枢軸の話、です。
前からもやもやしてたので、いっそのこと書いちゃえば!と(…)

題材はヘタリアですが、あくまでそれをネタにした妄想なので、
そういう区別がつく方のみ、お進みください。

枢軸は仲良しだけど、大戦後なので、まあ色々雰囲気は薄暗いです。









 真っ白な壁に覆われた部屋は、二人の目を焼いた。蛍光灯の白い光を乱反射させたように、その室内は異様に白が強調されていた。過ぎた清潔感は、二人の心に言いようのない不安を抱かせた。二人が病室の入り口に呆けたように立っていると、この部屋の住人である 彼 が、困ったように笑った。包帯で顔のほとんどを覆われ、彼の表情を窺うことが出来るのは、僅かに露出した右眼と口許のみだ。それでも二人は、彼がどのように笑ったのかが分かった。彼らの生を思えば、共に過ごした時間はそう長くはないが、彼が持っている表情を思い出せるぐらいには、時間を重ねていた。

 あんなに煩かった蝉の鳴き声も、この病室には届かない。代わりに、彼に繋がっているたくさんのチューブ、そしてその先にある、ドイツですら知らない機械が発する唸り声が、二人の鼓膜を嫌でも振動させた。まるで、彼の命を吸っているような。その錯覚は案外におそろしいものであった。生い茂る電線の、赤や青は血管のようでもあった。


「に、ほん、」

 たまらずに、イタリアが声を上げて日本へと駆け寄った。いつもなら、その首根っこを掴まえて、彼の暴走を止めなければならないドイツは、一歩出遅れてしまった。

「にほん、にほん、にほん!」

 そう何度も繰り返しながら日本の枕元に寄り、彼の身体全身に絡みついている、赤や青や黄色や紫、悪趣味なコントラストを発する血管をむずり、と掴んだ。イタリアがこれから起こすであろう暴挙を瞬時に覚ったドイツは、慌ててイタリアを羽交い絞めにして、極力日本に振動を与えぬように、丁寧な動作でイタリアを引き剥がした。

「駄目だイタリア!」
「でも!」

「いけませんよ、イタリアくん。」

 日本の掠れた声に、イタリアは暴れるのを止めた。というよりは、彼の声で力が抜けてしまったようだった。それはドイツも同じだ。

「折角アメリカさんが整えてくださった機械が壊れてしまいます。一度外してしまいますと、設定から何から、また大変なのだそうですよ。」

 ぐしゃりとイタリアは顔を歪め、わんわんと声を上げて泣いた。彼は何を思いながら、かの国の名前を呼んだのだろう。その内心を思えば、ドイツとて目頭が熱くなった。哀れとは言うまい。だがあまりにも痛ましい。日本はそんな二人の想いに気付いていないのか、気付いていないフリをしているのか、おやおや困りましたねぇ、と、ほとんど視力を失った片目をスッと細めて、泣かないでください、とイタリアの頭を優しい手付きで撫でた。イタリアは泣き止むどころか更に激しく泣き出してしまった。

「ごめ、ごめんね、にほん、ごめんね、」

 泣きながら、そう謝るのだ。けれども日本は、

「わたしは大丈夫ですよ。まだ包帯が巻かれたままですが、本当は傷跡なんて、ほとんど残っていないんですよ。」

 そう言って、笑った。いっそドイツは、この包帯を剥ぎ取って、彼の傷の具合をこの目で確かめたかったが、彼の言葉を裏切るような気がして出来なかった。その包帯の下の火傷の跡を、直視することがこわいのだ。


「どこの国のお方でしたかねぇ、歳でしょうか、記憶が曖昧でいけません。以前、わたしのことを、負け方を知らない、と仰った方がいらしたのです。なるほど、その通り。ですからわたしは、この通り無様に生にしがみ付いているんです。」
「日本、」
「ですが、それも仕方のないことなんですよ。わたしの国では、いえ、国民の皆さんにとっては、とうに昔の出来事、忘れ去られていることでしょう。わたしの国では、負け戦となってしまった時、討ち死にしてでも一矢報いるか、自刃するかのどちらかしかありませんでしたから。生き延びる為の負け方を、わたしは知らないんです。」


 扉をノックする音は、面会の終了の合図だ。ドイツはイタリアを立ち上がらせ、その涙を乱暴に拭った。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を見て、ドイツはイタリアの感情の素直さが少しだけ羨ましくなった。そして、その涙の意味を正確に理解していながら、そのことには触れぬ日本の慎ましやかがもどかしかった。

「騒がしくしてすまなかったな。」
「いえ、久しぶりにお二人の顔を拝見できて、嬉しかったです。」
「日本、」

 ドイツが口ごもれば、その思いなどお見通しですよ、とでも言いた気に、日本はまた笑った。彼が、彼独自の美学を貫き通そうとしている事実が歯痒い。

「ドイツさん、わたしのところの文化では、『水に流す』という言葉があります。ですから、だいじょうぶ、なんですよ。」

 彼の言葉の意味を探れば探るほど、ドイツの胸はじくじくと痛んだ。彼が微笑しながら、自分たちの背を見送っているだろう現実に目を背けて、ドイツはその部屋を後にしたのだった。







***
病室のイメージは、京極さんの『魍魎の~』です。色々フィーリングでお願いします(…)
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