忍者ブログ
[24] [23] [22] [21] [20] [19] [18] [17] [16] [15] [14]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

お題

『孤独な王様へ』


 
こ ・・・ こどもは隠
れるのがうまい


 久々鉢が書きたいのに、どうしてもコンビ色が強くなってしまう。いや、うちの五年生はそんな感じの曖昧な雰囲気だからいいんですけどね。これが久々鉢や!って言えるのがないんで、布教は非常に困難を極めてます。うぉ、難しい!!!





こどもは隠れるのがうまい



 鉢屋三郎という男はとにかく掴みどころのない奴だ。兵助は時々、三郎の言葉の裏側を読みあぐねて何も言えなくなってしまう。雷蔵の顔をしているのに、雷蔵が決して持っていない表情で、どこか物寂しく笑っている時、まるで剣の切っ先のような鋭い視線で兵助を見つめる時。それらはたった一瞬の、あまりにも刹那の感情の吐露でしかなく、錯覚と呼んでしまえる程の些細な変化である。
 そんな局面に立ち会ってしまい口ごもった兵助を、三郎は 諦めるように、安堵するように、すぐにからからと笑い飛ばしてしまう。その一瞬の空白が、兵助の胸をぎゅうぎゅうと締めつけ、息苦しさに喘いでいるのだと三郎は知っているだろうに。兵助が何を思い何を感じたか、内心を覗き見でもしているかのように、それはそれは見事に写し取っているだろう。けれども反面、兵助は彼の心が分からない。何を考えているのか、分からない。兵助のその反応に、歓喜しているのか憤っているのか、悲しんでいるのか嘆いているのか、それすら分からない。分かることと言えば、兵助がしじまを貫いている間は、彼が兵助との近すぎず、遠すぎないこの距離を許容しているということだけだ。

 さて、その三郎なのだが、時々誰にも行方を告げずに姿をくらます時がある。おそらくは学園の敷地内にいるだろうが、気配を全く感じさせないのだ。そういう時は放っておくに限る。というより、放っておくしかないのだ。何せ見つけることができない。探し回って無駄な疲労を蓄積するより、適当に時間を潰していれば、夕飯時ぐらいには素知らぬ顔で雷蔵の隣りで定食を頬張っているのが彼である。

 しかし、今回は少し事情が違った。
 辺りはじわじわと夜の空気が漂い始めている。陽が落ちれば暗闇が広がるのも早い。余所見をしている間に、一気に夜へと変化を遂げるだろう。そうなれば、彼を探すには更に困難を極める。ちなみに今日は、雷蔵は遠くへのお使いに出掛けており、戻るのは早くても朝方だろう。彼の姿が未だ見当たらないのなら、朝餉の時間まで放っておけばよい、と兵助は思うのだが、級友の竹谷はそうではないらしい。どうやら出された課題で分からないところを教えてもらう予定だったらしく、こうして彼を探しているのも竹谷に泣き付かれたからだ。こちらの言い分としては、提出期限ギリギリまで放置している方が悪いと言いたいのだが、それを告げたところで、分かってるんだ!骨身に染みて分かってるんだ!と言いながらも、頼むよ兵助…!と拝み倒すばかりで、ちっとも進歩しない。この辺りのずぼらなところは雷蔵も同じだ。その点、いつもふらふらと遊んでばかりの三郎は、いつの間にやら課題を終えていることが多い。

 はぁとため息をついて、兵助は辺りの様子を伺った。丁度夕飯時だ。昼間は下級生で賑わしい庭先も、人影一つない。そもそも、この学園は敷地が広すぎるのだ。全てを探すにしたって、二人だけでは手に余る。兵助は徹夜覚悟で竹谷と分担した方角へと進むのだった。

 硝煙倉に用具倉庫。火縄銃や手裏剣の訓練場に教室。望みをかけて長屋にも回ったが、彼の気配はなかった。あと残されているのは、埋め火の訓練場やら、六年の七松小平太や四年の綾部喜八郎が作成した、塹壕・蛸壺の危険地帯のみだ。流石に夜に足を踏み入れるのは遠慮したい場所だが、文句を言ってはいられない。何せ、そういった場所の方が、あのひねくれ者の三郎のこと、可能性が高いからだ。どうにか今日中に見つかりますように、と天高く上った月に祈りながら、歩を進めるのだった。



 結論から言うと、何とか兵助は三郎の姿を発見した。発見したというよりも、彼は気配を消すことなく、薄暗い中にこもって月を鑑賞していることに気付いた、と言った方が正しいのではないだろうか。三郎は綾部が制作した蛸壺の中に居たのだ。

「ふむ兵助が釣れたか。ハチだとばかり思ってたのだが。」
「なに、はっちゃんの方がよかった?」
 三郎は、「さぁな。」と相槌を打ち、雷蔵では絶対にしないだろう、意地の悪い笑みを浮かべながら、蛸壺の中から這い出た。土で制服がところどころ汚れている。
「何でまたこんなとこ居るわけ?」
「さびしかったのさ。」
 身体についた土をはたきながら、三郎はさらりと言ってのけた。さびしさの持つ痛みを全く感じさせぬ、普段と変わらぬ声だった。それでも兵助は、彼の言葉が持つさびしさの苦しみを感じた。さびしい さびしい この男は、さびしいと言いながら一人きりの殻に閉じこもって、さびしいと言いながら誰かの介入を拒んでいる。兵助は、この場に己の登場は望まれていないのだと、顔が合った一瞬の表情で覚った。構って欲しいと言いながら、差し伸べる一つ一つの手に未だ警戒して噛み付く、かなしい目だった。

「兵助。」
 三郎がくるりと身体の向きを変えて、兵助に顔を向けた。思わず心臓がはねる。何を言われるだろう、何を言うつもりだろう。彼の爆弾発言に身を強張らせる。
「帰ろうか。ハチも探してやらないと。まったく、いい加減、私ぐらい簡単に捕まえられるようになれよ。」
 
 それは兵助が身構えていた 何か ではなかったが、きっと三郎は、兵助の緊張を覚って、言葉を誤魔化したのだろう。そう言うお前こそ、捕まえさせてくれないじゃないか。そう言ってしまいたかったが、残念ながら兵助には、三郎に対する過信も自惚れもなかったから、その言葉はずぶずぶと兵助の中に沈んでいった。





***
もう少しだけ三郎の認識に対して猫かぶりでいたかったけど、無理でした。兵助が、竹谷出てくる前の兵助になってしまった…(意味はニュアンスで受け取ってください)

PR


忍者ブログ [PR]
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30