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お題

『孤独な王様へ』


 お ・・・ お前の苦しみはお前だけの


 うちの双忍はこんな感じ。CPではありません。CP臭がするけど。
バイオレンスが好きです。
バイオレンスが好きですが、痛すぎるのは苦手なので、中途半端なDVです。
基本、一方的な暴力なので、SMじゃなくってDVです(言葉遊び) 
兵助が異様に出張ってますが、あくまで双忍についてですので。
兵助のポジションが昔から全然修正できてない。うう難しいぞ…!あと長い。無駄に長い。

今更ですが、一人称について(暫定)
 竹谷・・・俺
 雷蔵・・・僕
 兵助・・・俺
 三郎・・・私

あ、三郎の二人称ですが、対雷蔵の時だけ ” きみ ” になります。






お前の苦しみはお前だけの



 パン!と空気を貫くような高らかな音が響き渡った。擬音にしてしまえば、それはたったそれだけの音の響きでしかないが、兵助の頬はその音の余韻が引き起こした沈黙でびりびりと引き攣っていた。その音源は、どうやら曲がり角の向こう側から聞こえたようだ。兵助が感じた沈黙は一瞬のことだったようで、耳をすまさずとも誰かが一方的に喚きたてる声が聞こえた。いいや、誰か、などと他人行儀なことは言うまい。あれは、雷蔵だ。いいや三郎かもしれない。あまり雷蔵の顔をしている時はやりたがらないが、彼は雷蔵の声の真似だって大層うまいのだ。
 ひょいと曲がり角から顔を覗かせる。そこには、同じ顔をした二人と竹谷が居た。一方は興奮で頬を紅潮させながら感情に任せて大声で叫んでいる。もう一方はと言うと、頬を赤くしながらも無表情を貼り付けて、目をそらすことなくもう一人を見つめている。竹谷だけ兵助の存在に気付いたようで、困ったようなしかめっ面を送られた。三人は実習の帰りなのだろう、ところどころ忍び装束が汚れていた。火薬のにおいに紛れて、鉄が腐ったようなにおいが鼻を刺激する。微量の血は、誰かが負傷したのではなく、不注意で浴びてしまったものだろう。

「何か言ったらどうなんだ三郎!!」

 三郎、が、きっと平手を打たれ、その上、癇癪を買っている方なのだろう。頬を痛々しく腫れ上がらせておきながらも、そんなことはおくびにも顔に出さず、平静を顔に貼り付けている方だ。兵助の心はざわざわと揺れた。雷蔵が感情的になる様を見るのは、あまりに久しい。三郎は何をしてしまったのだろう。あの雷蔵をここまで怒らせて。ああ違うか。雷蔵をここまで怒らせことができるのは三郎だけしか存在しないわけで、そしてそんな怒りを爆発させてしまう原因は、彼ら自身のとても重大でくだらない約束事を破ってしまったからに違いない。彼らは互いに依存し合いながら、雁字搦めの約束事で縛られていた。彼らが同じ顔で居ながら全く別の個体のまま、決して交じり合わないのは、ある一線を必死になって守っているからだ。

 何も言い返さない冷静そのものの三郎の目に更に苛立ちが募ったのだろうか、雷蔵はキッと三郎を睨みつけて、もう一度手を振り上げた。しかしそれが三郎に届く前に、竹谷が後ろから羽交い絞めにして、何とか彼の衝動をねじ伏せた。竹谷が今度ははっきりと兵助を見た。

「兵助!その馬鹿をとりあえず連れて行ってくれ!」

 この二人の間に入るのもいかがなものか、と思った兵助だが、これ以上雷蔵が暴れる様を見ているのは、非常に気分が良くなかった。あの雷蔵が目を釣り上げている様も、その姿を平然と見る三郎も、見ていられなかったのだ。兵助は竹谷に言われるまま、無抵抗の三郎の手を引いてその場をそそくさと退場した。雷蔵が背後で喚いている。違う。あれは懺悔だ。お前は馬鹿だ大馬鹿者だ三郎!三郎 三郎。僕は時々、無性にお前が憎くてたまらないよ、たまらないよ三郎。ああ ああ 三郎 三郎、この大馬鹿者。
 兵助は必死に平静を装いながら、背中にあたる雷蔵の声を何とかやり過ごすしかないのだった。



 気まずい沈黙を引き摺って、とりあえず兵助の部屋まで辿り着いた。三郎はぼんやりとしたまま、兵助に促されて部屋へと入り、兵助と適当な距離を空けて座った。手を伸ばしても相手には届かないが、表情を読むには丁度良い距離だ。
 さて、どんな言葉をかければよいか。兵助は三郎の顔をちらりと窺った。雷蔵に打たれた頬は真っ赤に腫れ上がっている。とりあえず冷やしてはどうだろうか。しかし、こんな状態のヤツに声をかけていいものか。あの雷蔵に、手をあげられて、こいつは相当まいっているのではないだろうか。

「とんだ貧乏くじだな兵助。」

 前言撤回。三郎は、兵助が思う限り、常と変わらぬ調子でそう言い、にやにやといやらしい笑みを浮かべた、浮かべたのだ。あの雷蔵の顔を見たか、あの雷蔵の声を聞いたか。先刻お前は寝ていたのかと、彼に問い詰めたい衝動を何とか押さえつけて、兵助も三郎の調子に合わせた。彼の表情は雷蔵が決して持たぬものだ。顔ばかりは雷蔵のものだが、その表情は確かに三郎だった。

「お前と関わって、いいくじが引けた試しがない。」
「確かにそうだな。私なんぞを押し付けられて、お前も気の毒になぁ。」
「そういう茶々はいらないよ。それより、顔、冷やさなくていいのか?すんごい腫れてきてるぞ。」
 言いながら己の左頬を差すと、「いいのいいの」 と三郎がひらひらと手を振った。
「思ったんだけど、なんで変装なのに腫れんの?」
「それはこれが私の素顔だから。」
「は?」
「実は私と雷蔵は生き別れの兄弟なのだ!」
「……マジ?」
「だったらいいのになぁ。」
 思わず身を乗り出してしまったから、がくりと力が抜けた。三郎はまた一つ悪戯が成功した、といかにも楽しげに笑みを貼り付けている。雷蔵はあんなも怒っていたというのに、不謹慎なヤツだ。この場に雷蔵が居たら、怒り狂っていたに違いない。お前の為だからこそ、彼はあんな顔をして三郎を諭そうとしていたのではないか。

 三郎がごくごく自然な動作で視線を畳へと落とした。兵助は目の行き場を失って、汚れた彼の制服をじろじろと眺めている。
「なぁ、」
「ん?」
「喧嘩の原因、訊いてもいいか?」
 三郎はにやりと笑って、
「ひどく単純で、それ故、根が深い問題だよ。」
 と、全く要領の得ぬ台詞を吐き出した。次に零れたため息で、ようやく三郎が肩の力を抜いたのだと気付いた。彼の横顔から一瞬だけ感情が漏れた。安堵と諦観が入り混じった、兵助の胸をいつもぎゅうぎゅうと締め付ける顔だ。腫れ上がった左頬は、いよいよひどい赤色に染まってきて、あまりにも痛々しく映った。それとも、これも彼の変装だろうか。

「雷蔵jが斬るべく相手を、私が気絶させてしまった。それとも、雷蔵が十分に対応できる敵を、私の独断で戦闘不能にしてしまった、と言った方がより正確かな。いや、殺しはしていないぞ。確かに出血に驚いて気を失ったようだが、私とてむやみやたらと命を奪うような きちがい じゃない。くたばってしまわぬように、ちゃんと加減をしたよ。」

 平たく言ってしまえば、きっとこれが彼らの喧嘩の原因なのだろう。ただここで問題なのは、雷蔵がどのポイントに怒りを感じているのか、三郎はちゃんと分かっていることだ。分かっているからこそ、彼の怒りを享受している。理不尽だ、ひどいヤツだ!と三郎が感情的にならないのは、そういう理由なのではなかろうか。分かっている 分かっている 分かっているのに理解できるのに、どうして。
 三郎の葛藤など、兵助には見えぬ。それでも、苦しい苦しいと呻いている様だけは、兵助からはよくよく見えた。呻いている嘆いている。雁字搦めなのだ、彼らは。

「反省はしてるんだ、これでも。明らかに過干渉だった、あさはか だった、ごうまん だった。」

 三郎は言葉を絞り出すだけ出しておいて、顔を手の平で覆ってしまった。そうされてしまっては、兵助からは三郎の表情が読むことができない。
 兵助はもう一度、三郎が吐き出した言葉を頭の中で繰り返す。 ” ごうまん ” という言葉が、やけに舌足らずに聞こえた。それは、自分たちが聞き慣れていないせいだろうか、理解の範疇にないからだろうか、それとも、兵助には別の言葉に聞こえたからだろうか。心を伴わない言葉は、どうしても浮いてしまうものだ。
 ごうまん ごうまん もしくは、甘え、もしくは期待。もしくは、もしくは、依存、か。
 どれをとっても不穏な響きだ。兵助は頭の中に入っているありったけの言葉の箪笥の、上から下から全ての引き出しを引っ繰り返して、正しいものはないものかと躍起になって探している。苦しい苦しい。お前たちの胸を圧迫する重みが、俺にもうつってしまったじゃないか。先程の自分はどうやって普通に呼吸をしていたのか、もう思い出せない。助けてくれ!と喚いたところで、兵助以上に切実に助けを必要としている存在が二つもあるものだから、兵助は軽はずみにその言葉を吐き出せなかった。


「優しい優しい兵助さん、お一つお頼み申します。」

 三郎は流行り歌に乗せるような調子で、そう声を発した。声がくぐもっているのは、まだ顔を手で隠しているからだ。ふざけた声音の中に、どこか切実さがあった。それともそれは兵助の錯覚で、そう兵助が勘違いしたいだけなのかもしれない。

「背中をちょいと貸してはくれまいか。」

 思わず顔を上げて三郎を見る。けれどやっぱり三郎は、顔を隠したまま、身体だけを兵助に向けているだけだった。兵助に顔を見られたくはないのだろう。鉢屋三郎ともあろう者が、感情一つコントロールできぬのか。表情一つ繕えぬのか。その想像は兵助の心を何故か安心させた。

 兵助は言葉を返す代わりに、くるりと身体を反転させて、三郎に背を向けて座り直した。さて、己の背中に何を吐露するつもりなのか、と身構えてみたが、一向に三郎からの動きはなかった。なんだ、己の視線に困っていたのか、と吐息と共に肩の力を抜けば、背中に熱が触れた。どうやら三郎の背が、貸し出した背中に張り付いているようだ。奇妙な背中合わせの体勢のまま、三郎は再び声を発した。心から絞り出したような、ひどく感情的な声だった。

「かなしくはない、かなしくはないんだ。ただ少し、ほんのすこーしだけ、苦しくて 淋しいんだ。」


 触れた背中が、三郎の声を受けて震える。兵助はそっと目を閉じた。

(そうか、俺はお前の片恋が、見ていて苦しくて苦しくてたまらないよ。)
 もしお前が俺の心を読むことが出来て、お前は自分自身の想いを恋ではないと言うのであれば、どうしてお前は雷蔵ばかりをそうも追い求めるのか、彼の存在ばかりを乞うのか、俺に分かる言葉で説明してくれよ。


「淋しいだけなんだ。」

 三郎の心の呟きは、空気を振動させて、すぐに霧散してしまった。







***
タイトルは例によってヨエコさんの 『 あわれ 蚊 恋 』 から。マイナーばっかりゴリ押しします。

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