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日本とスペインの話です。西日です。でも薄暗いです。
都合上、戦国時代っぽい???な歴史背景ですけど、そこは適当です。
事実関係はありません、多分、おそらく。
誰もが知ってる単語がちらほら出てくるかもしれませんが、雰囲気だけ頂戴しただけで実際は無関係です。


>誰が得するんですか?


>これが俺得ってやつなんだろ?


というわけで、スペインとにぽんが居るだけで満足だ!っていう方は続きをどうぞ。










建ったばかりの建物は、本来ならば藺草と新しい木のにおいの充満する、心休まる空間であるはずだと日本は思う。けれども、目の前に聳え立つ、この箱は何だ。華美な装飾で彩られた表面は、周りの風景に馴染まない。ここは間違いなく日本の国であるのに、異国で一人佇んでいるような孤独があった。こんなもの、日本は作りたくもないし、欲しくもないし、眼にも入れたくもない。必要ないのだ。異国の文化にある、鮮やかさと紙一重の過剰な色彩が日本は好きになれなかった。神を祀るのであれば、寺院や神社のように、ひっそりとした壮言さがあれば良いではないか。

それでも、深呼吸をして、そっと扉に手を添えた。力をこめて、ぐぃと扉を押せば、重厚な音と共に隙間が空いた。日本は身体を縮こませて、その僅かな隙間に身体を滑り込ませる。背後でぱたん、と扉が閉じる音が聞こえた。光の差さない室内は、それでも中の灯りが煌々とともっていて明るかった。こういう人工的すぎる灯りは日本には不慣れだった。眼が痛い。

「いすぱにあ さん、いすぱにあ さん」

日本は入り口から動かずに、そっと彼の人の名を呼んだ。彼は日本に馴染まないこの空間がひどく落ち着くのか、連なった椅子に腰掛け、机に頭を伏せた状態のまま、ん~日本なんのよぅ~?とごそごそと身体を揺らしている。日本はそっと彼の背中から視線を外して、正面に御座す彼が崇める神を見上げた。底冷えするような寒気が、日本を襲った。彼の愛する神は、確かに優しかったかもしれないが、それと同時に暴君であり侵略者だった。

「お連れの人が呼んでいました。湊にいらっしゃいますから、行って差し上げてはどうですか」

そやな~と間延びした声で伸びをしながら、スペインはむくりと起き上がって、日本と同じように正面に飾られている主の姿を仰ぎ見た。しかしすぐに視線を外して立ち上がり、日本の脇を通り過ぎていく。至近距離で目が合う。あの色のついた眼球に、日本は慣れることができない。人ではない、何か得体の知れない生き物が、興味津々に日本の様子を伺っている。日本はさり気なさを装って、そっと顔を俯けた。スペインの視線が、風が吹くたびに露になるうなじに集まっているのは感じ取っていたが、日本は気付いていない振りをした。目を閉じれば、数日前の彼の言葉が思い起こされて、いよいよ申し訳ない気分になった。

『日本のことは好きや。でもなぁ、あかん、あかんのや。だって日本は男の子やろ?あかん、そらあかんわ。日本が女の子やったらよかったのに。それとも、日本、実は女の子や!っていう嬉しい暴露ってあらへんの?』

日本は不毛な愛が好きだった。不釣合いな恋、成就しない想い、そういった倒錯的な非現実な恋愛が好きだった。彼の言葉は日本の思いを塞き止めることは出来なかったが、日本にこれ以上のない絶望を与えていった。それでも日本は、彼の中に尊い信仰を見出すことはなかった。信仰とは、一体なんぞや?

「早く、」
「ん?」
「早く、行って差し上げてはどうでしょう。この炎天下の中、待っている方が少々気の毒です」

絞り出すように、けれども平素と変わらぬ愛想のなさでそう吐き出した日本に、そやな、日本は優しいな、とスペインは相槌を打って、日本の頭をくしゃりと一撫でしたスペインは、さっさとこの建物から出て行ってしまった。残された日本もまた、場の居た堪れなさに、追い出されるようにしてこの箱から逃げたのだった。




***



数日後のことだ。時の天下人の元に派遣している日本の手の者が、血相を変えて日本の元へ戻ってきた。嫌な予感、というものを感じ取った日本だったが、落ち着きなさい、とその者をたしなめた。表面上は冷静な顔をしていたが、その報告に内心穏やかではなかった。日本はすぐに支度をして、スペインの元へ急いだ。

「いすぱにあ さん」

馬を走らせたせいだろう、息ばかりでなく、髪も着物の裾も乱れている。けれども日本はそれらを整えるより先に、彼を問い詰めなくてはならなかった。何故だか、裏切られた、という思いはなかった。ああやっぱり、と無意識に心の中で呟いていた。そうなることが、日本には分かっていたのかもしれない。彼はとても温厚で優しくて太陽のような笑顔の持ち主で、人懐っこく日本日本と駆け寄ってきてはくれるけれど、彼は欧州の覇者でもあるからだ。王者はいつだって、自分勝手で我儘で理不尽だ。日本はそれを十分に知っていた。それは我々の天下人がそうであるように、彼の主様もそうであったからだ。温情の下には、独裁者の残酷な顔が隣り合わせに存在していた。彼らは無体を働くことにあまりに鈍感で、憎たらしいほどの愛嬌があった。

「わたしの民を、誘拐したというのは本当ですか」
国に連れ去り、奴隷として働かせているとは、人身売買の餌食にされているとは、本当に まこと ですか。
まるで縋るように、日本は彼にその問いをぶつけた。スペインはいつもの笑みに、軽い困惑を滲ませていた。困ったなぁ、連れとはぐれてしもうてん、と初めて日本と出会った時と全く同じ表情をしていた。彼にとってこの事件は、事件でも特別でも別段特筆することでもないのだ。
「ごめんな日本。でも分かたって?日本人って、めっちゃ人気なんやで。働きもんやし、物珍しいしなぁ」
堪忍な、そない怒らんといたって?と手を合わせるスペインは、待ち合わせに遅れてごめんと言っているような薄っぺらさだった。嗚呼、と日本は内心慟哭する。日本も彼が好きだった。けれども、スペインのその想いが信仰に勝ることがないと同様に、日本もまた、自国の愛以上に彼への想いが燃え上がることはなかった。日本が彼に告げる言葉は既に一つしかなかった。


「これより我々は鎖国します。天下様の御命令です。早々に、我らの国から立ち去ってください、いすぱにあ さん」


そう告げた日本に対してもスペインは、分かったわぁ、親分は聞き分けのいい子やからね、日本好きやったで~、と笑顔で手を振って船へと帰って行くのだった。







***
色んな方面に向かって、ごめんなさい(デジャヴ)
わたしはスペインさんを誤解していると思います。甘い西日も好きだよ!(…)

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