× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 正直な話、ここまで細かく冨岡さんの心理描写を考えるつもりなかったんだけどなあ。 書き始めちゃったから、どうしても完結させたいんですよねぇ。ホントは好きなシーンを好きなように書くだけのつもりだったんですけどねぇ。 前回の煉獄さんとの話が30,000字オーバーしてるんですけど、多分、この話、こっから長い、です。 自分なりに終わらせ方も見えて来た気がするんで、のんびり書きます。 宇髄達が上弦の鬼・陸を倒してから数日が経っていた。義勇は怒涛の十日連続任務を終え、久しぶりに水柱邸で休息を取った。随分と日が昇ってから起き出し、昨夜の残り物をつまんで朝食にした。軽い運動と水浴びを済ませ、面倒だが手首に包帯を巻きつける。今日は珍しく約束があるのだ。しかも相手からの面倒な注文に、仕方がないがあれに袖を通すか、と、箪笥の奥に仕舞い込んでいた訪問着を引っ張り出していた。丁度帰って来た真菰が、開けっ放しにしていた義勇の部屋へと顔を覗かせる。 「ただいま~。あれ、初めてのことじゃない?それ着てくの?」 真菰に、おかえり、と返しながら、ああ、と短く頷く。義勇が広げている訪問着は、真菰と揃で仕立てたものだ。真菰は薄浅葱色の、青天の空のような爽やかな色合いだが、義勇のものは青藍色の深い落ち着いた色だ。藤の花の意匠が散りばめられており、若い女性が着るには少々地味だが、真菰自身は華やかさがあるし、義勇は目立たなくていい、と気に入っている。ちなみに、この着物の代金を支払ったのは錆兎で、何故か真菰が、錆兎の柱就任祝いに買って!とねだったものだ。普通は逆では?と今でも思うのだが、錆兎は二つ返事で頷いてしまったし、真菰も錆兎が断るなど欠片も思っていなかったようだ。あれよあれよと話しは進み、いつの間にか真菰と揃の訪問着が出来上がっていた、というのが、義勇の記憶だ。しかし、仕立ててもらったからと言って出番はなく、虫干しはしているが外に着て行くのはこれが初めてのことだ。 真菰に着付けを手伝ってもらい、髪は真菰から借りた簪で結い上げた。桃色の蜻蛉玉は真菰には似合うだろうが、自分には可愛過ぎやしないだろうかと真菰に訴えてみたものの、大丈夫大丈夫、真菰姉さんを信じなさい、とさっと義勇の髪をまとめてしまった。それを解くのも申し訳ない気がして、まあ自分では見えないからいいか、と開き直った。真菰が嬉しそうに、似合ってるよ、と笑っているのでよしとしよう。 「それにしても、どういう風の吹き回し?錆兎と出掛けるだけなのに、こんなに張り切っちゃって。」 義勇は首を傾げる。錆兎と出掛ける予定などないし、そもそも、錆兎も今日は休みなのだろうか。真菰も義勇の反応に、あれ?と思ったようで、今日は誰と出掛けるの?と最初に訊ねるべきだったろう言葉をかけられた。 「宇髄だ。」 へぇ、先日引退した元音柱様ですか、へぇふうん、と真菰は含みのある息を吐いた。義勇は己の言葉が足りなかったのだろう、と思い、鎹鴉が運んできた文を見せた。 端的に言ってしまえば、少し話がしたいから、茶でも共にどうだ、という誘いなのだが、隊服は着るな、少しはめかし込んで来い、と追伸にしたためられていた。彼の性格を知っていれば軽口の一つだと思われるそれを、義勇は真正面から受け止めたようだ。真菰は指摘しようか迷ったものの、初めて着付けた着物は、錆兎と共に決めただけあって、とてもよく似合っている。こんなにも綺麗に着飾ったのに、誰にも見せないなんて勿体ない!と真菰はそのまま義勇を送り出した。少しばかり錆兎に悪いと思ったので、用事が終わったら錆兎と一緒に夕餉でも食べてきたらいいよ、あたし、今日は任務入ってるし、と蝶屋敷に居ることを教えれば、ああそうする、と素直に頷いた。錆兎がこの格好にどんな反応をするか、出来ればその場に立ち会いたかったが、それは流石に無理そうだった。 手紙に指定されていた店は、巷でも人気のカフェだった。宇髄らしいハイカラな選択だ。義勇は約束の刻限より少し早めに店に到着したのだが、既に宇髄は来ており、店の奥へと通された。宇髄も今日は、派手な化粧をしていない。既に鬼殺隊を辞しているので、服装も隊服ではなく着流しだ。俺は化粧のない方が良いと思うが個人の勝手だしな、と心の中では割と失礼なことを連発している義勇は、彼の顔を見るなりそう思った。 「すまない、待たせたな。」 「いや、早いくらいだからな気にすんな。」 そう言って、宇髄はじっくりと上から下まで、まるで見定めるように義勇を見下ろした。義勇はその視線には応えず、宇髄の向かいに座った。 「サイダーでも飲むか?それとも珈琲?」 「どちらも苦手だ。」 「そういうところは、見た目まんまだな。」 宇髄は人当たりの良い笑顔でぽんぽんと注文を済ませているが、対応した給仕は果たしてちゃんと宇髄の注文を聞いていただろうか。義勇が心配になる程、給仕の女性はのぼせ上がった表情をしていたからだ。この男に見つめられれば、女は皆ああなるのだろうか、と宇髄の顔を見たものの、よく分からなかった。 「正直、冗談で書いたんだが、なんだ似合ってるじゃねぇか。色は地味だけどな。」 「錆兎と真菰が選んだものだ。似合っていないと言われていたら、俺はお前を殴っていただろうな。」 「お前なー、そういうところに周りは騙されてたんだぞ。」 既に隊の中でも、義勇が女性である、という情報は回っていた。というよりも、煉獄の求婚話から芋づる式に広まっているだけなのだが。 結局宇髄が頼んだのはお茶だったようで、団子と共に二人分の湯呑みが置かれた。あんな骨抜き状態でも仕事はこなせるのだなあ、と義勇がいらぬ関心をしているところで、義勇相手に間をはかる必要はないと思ったのだろうか、宇髄はすぐさま本題を口にした。 「冨岡、お前、柱になれ。」 「無理だ。」 「無理じゃねぇだろ。とっくに条件は満たしてんだ、むしろ断れると思ってんのか?折角柱の座が一つ空いたんだぞ、涙流しながら喜んで、ありがとう宇髄さんって俺に感謝するのが普通じゃね?」 言いながら、ほとんど一口で団子を平らげて、ずずっと茶を啜る。 「つぅか、お前んとこまで話は下りてなかっただろうがな、柱が欠ける度、お前の名前が挙がってたんだぜ。甘露寺や時透よりも先に、お前が柱になってた可能性だってあった。」 「・・・俺は柱に相応しくない。そもそも、俺には切腹の約がある。そんな人間を柱に据えられるものか。」 「竈門禰豆子の話か?あいつは、なんだろうなあ、大丈夫だろ。これじゃあ、柱合会議のお前そのものだが、あいつは人を襲わない。今回の任務で、よぅく分かった。あの娘はすごいわ。俺がこうして生きてんのも、禰豆子のおかげだ。雛鶴も炭治郎に命を救われた。柱として情けねぇ限りだが、今となっちゃあ竈門兄妹が俺の命の恩人だな。」 そうか、あの二人は立派に己の責務を果たしているのだな。ならば次会った時は何か差し入れでもするか、何にしようか、と考え込み始めたのを、宇髄が、おい勝手に呆けんなよ、と留める。 「どんな因果があるか分んねぇもんだけどよ、お前があの兄妹を助けたのが、巡り巡って色んな奴を救ってんだ。なあ、これってお前の手柄でもあるんじゃねぇか?」 「・・・炭治郎が実力をつけてきたのは、やつの努力の賜物だ。禰豆子も、自身の強靭な精神力で耐えているに過ぎない。俺は、結局何もしていない。」 そうだ。肝心なところでは師に頼り、お館様に任せてしまった。本来、炭治郎は義勇を恨んでもいいはずだ。むしろそちらの方が、人の感情として正しいと思う。義勇がもう少し早くに着いていれば、もしかしたら炭治郎の家族は死なずに済んだかもしれない、禰豆子が鬼になることはなかったかもしれない。救うことも出来なかったくせに義勇がその場に居合わせてしまったせいで、炭治郎は鬼殺の道に引きずり込まれてしまったのだ。師を紹介する以外にも、道はあったろうに。それなのに、炭治郎は優しいから、鬼を恨むことはしても、義勇に怒りをぶつけたことはない。彼の希望に満ちた真っ直ぐな視線を向けられると、時々、不甲斐なくて堪らない気持ちになる。 とっくに冷めている茶を一口含んだ。団子を食べる気にはなれず、こういう店は包んでもらうことは出来るのだろうか、と思いながら団子を見つめた。とても宇髄を見上げることは出来なかった。 「お前さぁ、なんでそんな難解な着地決めるわけ?そりゃあ錆兎も心配になるわ。炭治郎にとってお前は命の恩人なんだろ。なんでそこが分かんねぇの?だから、お前見つけると、尻尾振って近寄って来るんだろ。錆兎の七面倒臭い命令であんま出来ねぇみたいだけど。人の好意をちゃんと見てやれよ、流石に炭治郎が可哀想だわ。」 まあ、そういうのは錆兎辺りに任せるか。いっそ炭治郎がやらかすかもしれねぇしな。宇髄は一人ごちて、 「とりあえず伝えたからな。お前も分かってると思うが、俺の独断でこんなこと言い出したと思うなよ。当然、お館様のご意向だ。」 と、最後に釘を刺した。義勇はその名を聞いて、余計に項垂れた。どうやったら通じるのだろう、どう言ったら分かってもらえるのだろう。己は本当に、柱になれるような存在ではないのだ。 「まあこれからもちょいちょい、顔を合わせることがあるだろうな。俺はこれから、隠の諜報要員の指導を打診されてる。もちろん受けるつもりだ。元忍びってのを買われたんだとは思うけどよ、こういう風に役立つってこともあるんだよなあ。」 ホントこの世は何があるか分かんねぇぜ、と言いながら、ぐいと義勇の顎に手を置き、強引に上を向けさせた。顔が近い。確かに顔は整っている。錆兎はどちらかと言えば男らしい精悍なものだが、化粧を落とした宇髄は当世風の優男で、その長身も相まって銀幕スターのようだ。 「・・・なんだ。」 「見事に表情筋死んでんなぁと思って。整ってんのに勿体ねぇ。こんないい男がこんな近くにいて、何とも思わねぇの?」 「顔と声がいい、とは思っていた。」 「他には?」 他、ほか、義勇は頭の中で繰り返しながら言葉を探すが、宇髄のようにぽんぽんと言葉が出て来るわけもなく、義勇は首を傾げた。はあ、とため息を吐いた宇髄は、義勇に添えていた手を引いた。 「この際だから聞くが、錆兎とはどういう関係なんだ?」 「どういう?」 同門の兄妹弟子だ。それは宇髄も知っているだろうに。あー分かってねぇなあと、宇髄の一人言に義勇も僅かに眉を寄せる。 「なんでさっさと恋仲なり、婚姻だったり結ばねぇんだって言ってんだよ。お互いがお互いしか見えてねぇくせに。」 そんなことはない。義勇は今以外の存在に目を向けるだけの余裕がないだけであるし、錆兎は、きっとそんな義勇に手いっぱいなだけなのだ。見えていないのではなく、見たくとも見られないのだ。それを自覚する度、こうして誰かに指摘される度、義勇は己の不甲斐なさに押し潰されそうになる。それでも、錆兎が隣りにいなくては、己は駄目なのだ。 「・・・これ以上、錆兎を雁字搦めにしたくない。俺が一緒になっては、いよいよ錆兎の逃げ場がなくなってしまう。」 「逃げ場ってなあ。もうちょい楽しく考えていいんじゃね?」 宇髄はそう言うが、義勇にとって祝言は、縁起の良い言葉ではない。将来真菰が嫁ぐ時も、祝言の前日は眠れぬ夜を過ごすことになるだろう。 「俺からして見れば、錆兎は喜んでお前の為に雁字搦めになってるけどなぁ。いつもはお前ら、無駄に以心伝心なのに、どうしてそういう大事な部分がすれ違ってるわけ?」 すれ違って、いるのだろうか。お互いに理解し合っていると思っていたのに、宇髄の指摘に、途端自信がなくなった。言われてしまえばその通りだ。義勇が一方的に信じているだけで、錆兎がそれに付き合っているだけかもしれないのだ。どうして俺と錆兎は、別の人間なのだろうか。 黙ってしまった義勇に、宇髄も何度目か分からないため息をついた。義勇の伏せた睫毛が、室内の薄い明かりに照らされて、顔に陰翳を作っている。胡蝶や甘露寺のような、場を華やかにする美人ではないが、このひっそり佇む様子が、妙に雰囲気があるのだ。この姿をごくごく近くで見ている錆兎は、一体どう感じているのやら。 「お前さぁ、そのうち錆兎に手ぇ出されるんじゃないか?」 少なくとも、宇髄ならそうする。同居していて、自分を無条件に信じ込んでいる女が、こんな手の届く範囲に居れば。しかも、美人だ。おそらく、なんて言葉が必要ないくらい、錆兎の好みド真ん中の女だ。男らしくない!と言う言葉に、据え膳も避け続ければ相手にも無礼だぞ、と言いたくなる。 少しは意識してやればいい、と思っての言葉だったが、やはり宇髄の理解の範囲の外にいるらしい。義勇は表情を変えずに、 「錆兎にされて嫌なことなんて、何ひとつない。」 そう告げた。これはこれで手が出しずらいのか?それとも、勝手に邪推してるだけで、錆兎は本当の本当に、義勇のことをなんとも思っていないのか?そんな疑問さえ抱かせてしまう調子だった。意識しているのかしていないのか、それすら分からない。宇髄もついつい呆れ調子に言い返してしまった。 「それ意味分かって言ってんの?錆兎も一人の男なんだぞ。もし錆兎に、子作りしましょって言われたら、それに応えられんのか?」 「今子どもが出来ては困る。腹を膨らませては流石に鬼も斬れんだろう。」 その過程はどうなんだよ、あーズレてんなあ、と宇髄も頭を抱えた。柱を引退したんだし、少しはお節介焼いてやるか、と思っていた筈なのに、ちっともうまくいかない。錆兎頑張れよ、と陰ながら無責任に声援を送りつつ、宇髄は腰を上げた。 「そろそろ出るか。自覚ないんだろうが、あんま顔色良くねぇぞ。寝不足か?」 「連続任務明けだ。仕方がないだろう。」 「錆兎もそうだけどよ、自分でうまいこと休み入れろよ。特にお前は女なんだから、錆兎に合わせてたら今に身体壊すぞ。」 「・・・俺の身体はそんな軟弱じゃない。」 「鍛え方云々じゃなくって、男女差を言ってんだよ。いいから宇髄さんの助言は聞いとけ。」 そう言ってさっさと会計を済ませ、義勇が困っていた団子も、いつの間にか持たされていた。これが蝶屋敷の娘達が言っていた、できる男というやつか!と一人心の中で感動し、そのまま店先で分かれようとしたのだが、丁度、義勇に向かって鎹鴉が飛んで来た。見覚えのない鴉だ。誰の鴉か分からないが、義勇へと差し出した手紙を受け取らない限り立ち去ろうとせず、義勇も首を傾げながら手紙を手に取った。 「知り合いか?」 「いや、覚えがないと、」 思う、と言いながら、ばさりと手紙を広げた。宛先は己で間違いない。が、差出人の名前にまったく心当たりがない。下の階級の者と合同任務はあるものの、一人一人を認識していない義勇は、隊士の中でも名前まで覚えている者は、ごくごく少数だ。どこかの任務で一緒になったのだろうと思いながら読み進めて行くと、次第に顔が曇って行った。これは先日義勇がやらかしてしまった隊士からのものだ。あの、伊黒との任務の、アレだ。 手紙には先日の侘びから始まり、義勇がうまく説明したと思ったのだろう、上から何の咎めのないことへの感謝、それから、それから、 じわじわと頬に熱が上がって行く。これは、羞恥だ。とにかく恥ずかしい、恥ずかしいと叫び出したくなるのを必死に耐えた結果、逃げ場を失った熱が、首筋を伝って頬や耳たぶを赤く染めている。明らかに様子を変えた義勇に、宇髄もどうした?と問いかける。義勇は熱のはけ口が分からず、小さく口唇を震わせた。 おい、と宇髄が声をかければ、ああ宇髄いたのか、と目許を染めながら、宇髄を見上げている。この鉄面皮を赤面させるとは、一体どこの誰からの文だ、と視線を落とす。人の手紙を盗み見るなどという非常識は、好奇心の前では無意味だ。まあ義勇も、むしろ読んでくれ、とでも言いたげに広げているので、構わないのだろう。 真っ先に目に飛び込んで来た言葉に、つい吹き出しそうになってしまった。これは、恋文だ――。 手紙には、いかに義勇が美しいか、自分の目に好ましく映るのか、それがいやに丁寧に綴られていた。いつも涼やかな目許、それを縁取る豊かな睫毛、すっと通った鼻筋、小さな形の良い口唇、それが相応しい場所に、これ以上ないほどぴたりとはまり形作っている。豊かな黒髪は時に艶を失っているが、手入れすら惜しい程己を鍛え上げようとする真っ直ぐな姿勢は、高潔で眩しい。その横顔、名を呼ばれ視線を向ける、目を伏せる、そんな些細な仕草、あなたの全てにわたしは魅了されてたまりません。あなたの纏う空気も、まるで真水のように清廉で儚く、いつまでもいつまでも、お傍で眺めていたい。初めてあなたの姿を拝見した時、わたしはあまりの美しさに息を呑みました。この世のものではないように、思いました。そしてこの世に存在し、あまつさえわたしの目の前に存在していることに、感謝しました。わたしはあなたに惚れています。けれど、想いを告げるつもりはありませんでした。本当に、信じて頂けないかもしれませんが、あなたを遠くから見つめているだけで、それだけでわたしは満足していたのです。では何故、このような告白をするのか、あなたは不思議に思うかもしれません。きっかけは先日の任務です。あのような醜態をさらし、今更あなたに合わせる顔を持つような恥さらしではありませんが、一つだけ誤解を解いておきたいからです。わたしは、それだけは耐えられない。あの時、わたしは血鬼術にかけられ、欲に翻弄され、あのような凶行に及びました。けれども誰でもよかったわけではないのです、あなただからこそ、わたしはあなたに触れたかった。押し留めていた一欠片の情欲が、血鬼術によって露呈してしまったのです。どんなに美しい可愛らしい女性が目の前にいても、あのようなことにはなりませんでした。あなただからこそ、あなただからこそ、わたしはあなたに触れたのです。あなたにしてみれば、手前勝手な言い分だとお思いでしょう。わたしはあなたと一緒になることを夢見ることはしません。ですが、わたしの想いを勘違いされているのは、わたしには我慢がならないのです。 そうして、長々と失礼しました、武運長久をお祈りします、と綴られていた。 なんとも、まあ、熱烈な恋文だ。ところどころ気になる部分はあるが。宇髄の率直な感想はそうだった。だがこれは、あくまで宇髄の感想であって、義勇は、 「これは、間違いだ。俺を誰かと勘違いしているに決まっている。」 と、ばっさり一刀、切り捨てた。宇髄が、は?お前馬鹿なの?むしろ相手が可哀想すぎんだけど、ホントなんなの?と手紙の主の代わりにわあわあ騒ぎ立てた。けれども、良くも悪くも慣れてしまっている義勇は、右から左へと受け流す。あの手紙の主には、一体自分はどのように見えているんだ、明らかに俺ではない、と義勇の思考が至って、ストンと本当にストンとしか言うようがない程唐突に、落とし所を見つけた。義勇は僥倖を得たと思ったが、手紙の男からしてみれば、本当に何故そんなところに、むしろ落とし穴があるんですか!と叫んでも足りない程だったろう。ただ、整理をつけた義勇の表情の移り変わりは早かった。先程の熱はどこへ行ったのか、既にいつもの表情に戻っていた。まだ宇髄が叫んでいたが、俺はこれで失礼する、とさっさと踵を返した。蝶屋敷へと向かわねばならないからだ。 ----------------------- 個人的に、くっつまでの、周りを巻き込んでのわちゃわちゃが一番楽しいと思ってるので、まだまだこんなもだもだが続きます。 冨岡さんは錆兎の格好良さを一ミリも疑っていませんが、書いてて段々、あれ?わたしのせいでカッコ悪いことになってない・・・?ってなります。すまん。 PR |
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