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とみぎゆさんと禰豆子ちゃんがわちゃわちゃしてるのが好きです。甘露寺さんと禰豆子ちゃんのわちゃわちゃも好きなので、コマの端っこでわいわいしてるだけで嬉しい。









 宇髄と分かれた義勇は、その足で蝶屋敷へと向かった。怪我をしたわけではないから、玄関ではなく庭先から回り込むと、三人娘がわいわいとはしゃぎながら洗濯物を干していた。天気の良いぽかぽか陽気で、蝶屋敷の庭にはたくさんのシーツがはためいている。しまった、屋敷の布団を干して出ればよかった、と思ってしまった程だった。一人が義勇に気付くと、三人共が駆け寄ってきた。当初は義勇の近付きがたい雰囲気に遠巻きにしていただけだったが、流石に両の手では足りぬ程顔を合わせていれば、人懐こい娘達は慣れてしまったようで、こうして話しかけてくれる。
「綺麗な召し物ですね!」
「お似合いです!」
「素敵です!」
 年頃の娘らしい感想に、義勇も錆兎達が選んだからな、と思いながら、ありがとうと返す。義勇の周りをぴょんぴょんと跳ねる娘達に、義勇も代わる代わる頭を撫でながら、錆兎はいるか?と訊ねる。丁度今、しのぶ様とお話しなさっています!と一人が元気よく答えてくれた。なら少し待たせてもらおうか、と返せば、冨岡さん、怪我をなさってるんですか?と、袖に隠れていた手首の包帯を指摘された。痛みがないせいですっかり忘れていたが、くっきりと残ってしまっている痣隠しの為に巻いてあるのだ。まあ、少し、と言葉を濁せば、それはいけません!しのぶ様に伝えておきます!と一人がさっさと走って行ってしまった。いや、痣を消す塗り薬がもらえれば、胡蝶にわざわざ診てもらわずとも、と手を伸ばしたが、流石働き者だ、既に走り去った後だった。では、いつもの奥の部屋でお待ちください!と残りの二人にぐいぐいと押され、通い慣れた部屋へと押し込まれてしまった。

 部屋は女性隊士用に使われているもので、奥まった場所にあるが日当たりはよく、こちらにもぽかぽかとした日差しが注ぎ込んでいた。それでも、直接日があたると暑い程だったので、日陰になるところで柱にもたれ掛りながら、開け放した障子の先から庭を眺めていた。そう言えば昼は食べていなかったと思い出し、包んでもらった団子をゆっくりと食べた。小腹も満たされ、温かな日の光についつい気も緩む。宇髄に言われた通り、やはり疲れているのかもしれない。いつの間にか目蓋を閉じていた。

 とっとっとっ、と軽やかな足音に、義勇は意識を上昇させた。長年刀を振るっているのだ、気配には敏感になっていた。胡蝶や錆兎ではないし、蝶屋敷にいる娘達のものではない。入院患者もいる蝶屋敷だ、あの三人娘も気を遣ってか、早足の割に静かに歩くのだ。それに、明らかに体重の軽い者の足音だ。幼い者がこの屋敷に居ただろうか、と、ぼんやりと思っていると、すっと襖が空いた。禰豆子だった。十にも満たぬ小さな姿をしていた。襖の影からひょこっと顔を覗かせると躊躇いなく義勇に近寄り、そのまま義勇の膝にごろりと寝転がった。まるで流れるような一連の動きだった。は?と思わず禰豆子を見下ろしている義勇を、禰豆子はにこにこと見上げて、満足そうにむーむーと声を上げている。
「・・・眠いのか?」
「むー。」
「俺の膝は高いし硬い。枕を出してやるから、そっちで寝ろ。」
「むー!むー!」
 身体を持ち上げようとしたら、今度は頬を膨らませて、ぎゅうぎゅうと義勇の腰にしがみ付いた。まるでこれがいい!と言っているようで、義勇も抵抗することを諦めた。身体は小さいが力はやはり鬼のそれで、引き剥がせなくもないが、中々の労力が必要であったからだ。無意識にぽんぽんと禰豆子の肩をたたいていると、すぐに彼女は眠ってしまった。こうして、ゆっくりと禰豆子を見たのは、実は初めてのことだった。義勇は、禰豆子に対してまったくの嫌悪がないことに、自分でも驚いていた。確かに、禰豆子を庇ったのは自分だ。この鬼は何かが違うと漠然と思ったのも確かだ。だがそこには何の根拠もなく、義勇自身、いざ目の前にしたら違う印象を抱くかもしれない、という不安があった。ただ、そんなものは、杞憂でしかなかった。これは、ただの幼い子どもだ。鬼の気配はしても、鬼特有のぞっとするような臭いも空気もない。むしろ、こんなにもいとけない、純粋な存在だ。このまま寝かしていてもいいが、しばらくもしない内に胡蝶がやってくるだろう。ゆっくり眠っていられる状況ではなくなってしまう。さて、どうしようか、と悩んでいたはずが、禰豆子の体温が心地よく、義勇もついうとうとしてしまい、ついには本格的に寝入ってしまった。

 廊下から聞こえる話し声に、義勇は再び瞼を開けた。差し込む日の角度から、眠っていた時間は僅かであったようだが、心なし気分がすっきりしていた。視線を落とせば、禰豆子は相変わらず寝心地の悪い義勇の膝で眠っている。廊下の話し声はいよいよ大きくなってくる。長い豊かな黒髪が絡まぬように梳きながら、「禰豆子、禰豆子、」と呼びかけたが、彼女はぴくりとも反応しない。流石にたたき起こすのは可哀想だな、と逡巡しているところで、話し声が到着した。錆兎が胡蝶を伴って、ようやく現れたのだ。
「義勇、待たせたな、」
 部屋の中の状況を把握するなり、錆兎は固まった。その肩口からひょっこり顔を覗かせた胡蝶が、あらあら、いつの間に仲良くなったんですか?と笑っている。
「よっぽど眠かったらしい。俺を見るなりこの様だ。どうにかしてくれ。」
「どうして冨岡さんはそんなに無愛想なのに、小さな子に好かれるんでしょうね?」
 そう言いながら、炭治郎君を呼んできますから、もう少し待ってください、と軽やかに駆けて行った。
「錆兎、どうかしたのか?」
 と、訊ねたのは、部屋に入ることもせず、戸口で固まっているのを不審に思ったからだ。まさか、禰豆子がいるから入れない、なんてことを言うわけではないだろう。
「それが、竈門禰豆子か?」
「ああ、可愛らしいものだろう。」
 ふふ、と笑うと、ようやく錆兎も部屋へと入り、義勇の近くに腰を下ろした。
「俺が見た時は、もう少し大きかった気がするが。」
「大きさは変えられるらしい。もし、」
 もし、姉さんに子どもが生まれていたら、これくらいの歳だったかもしれないな。今まで一度も思ったことはなかったのに、ふと過った思考に、義勇は口を閉ざした。まだ、駄目だ。前を向けなくなってしまう、進めなくなってしまう。いつまで経っても、姉との思い出は悲しみ一色だ。楽しい思い出だって、あたたかい思い出だってたくさんあったのに、あったからこそ、その後の絶望が深い。苦しい苦しい、息が出来なくなってしまう。
 さっと顔を伏せた義勇の心を察してくれたのか、錆兎は噤んだ先の言葉を催促することなく、
「その着物、着てるところを初めて見た気がする。」
 と、話題を変えてくれた。ああそう言えば、そうだった、錆兎に買ってもらった着物を着ているのだった。
「そうだな、ちゃんと着たのは今日が始めてだ。」
「簪は真菰のものか?」
「ああ、俺には少し可愛すぎると思う。真菰が嬉しそうにしていたから、まあいいかと思って、」
「似合ってるよ。着物も簪も。流石俺と真菰の見立てだ。実は色地を選ぶ時、真菰と言い合いになってな。今回ばかりは俺の意見を押し通したが、うん、やっぱりこっちで良かった。」
 錆兎がさも誇らしげに笑っている。それだけで義勇も嬉しくなって、表情を和らげる。錆兎は珍しく露わになっている義勇の項をじっと見つめている。結構動き回ったから、ほつれているか?と聞けば、いや、と首を振られた。なら、どうした?と首を傾げれば、錆兎がそっと手を持ち上げた。もう少しで義勇に触れる、その瞬間、

「すいません!!禰豆子がここに居ると聞きまして!ご迷惑をおかけしました!!」

 炭治郎が勢いよく廊下を走り、やって来た。錆兎はびっくりして手を引っ込めてしまった。何がしたかったんだろうな、と思った義勇だが、彼女の中の後で聞けばいいか、は、すぐに忘れてしまうので、結局この時の疑問を口にすることはなかった。

「わぁ禰豆子がとんだご無礼を!!禰豆子!兄ちゃんが羨ましかったのは分かるが、びっくりするからやめてくれ!」
 と、禰豆子を引き剥がそうと部屋に入ろうとしたのだが、ぴたりと足を止めた。どうした?と錆兎が訊ねれば、五間内に入ってしまいますがいいですか!と元気の良い伺いだった。錆兎もその命令は半ば忘れていたので一瞬呆けてしまったが、炭治郎が真面目な顔で錆兎の返事を待っているので、錆兎も大仰に「今だけいいぞ。」と頷いた。では失礼します!と元気よく頭を下げて、慣れた様子で禰豆子を抱きかかえた。
「うわぁ、冨岡さん、今日は一段と綺麗ですね!」
 さらりと褒めていくのだから、炭治郎の人当たりの良さが如実に現れていた。
「錆兎と真菰が選んでくれたからな。」
「冨岡さんが美人だから似合うんですよ。」
「俺は美人ではない。錆兎と真菰が苦心して、俺に似合うものを仕立ててくれただけだ。」
 え!と炭治郎が錆兎を見た。錆兎も流石に苦い顔をしていて、まあそれ以上言っても無駄だ、と首を振っている。錆兎が言いたかった言葉をさらりと言ってしまった炭治郎に、錆兎も僅かに悔しい思いをしたが、いや、それよりも、先ほど炭治郎は何と言ったのだったかな。
「なあ炭治郎、さっき、妹がお前を羨ましがったと言ったが、あれはどういうことだろうな?」
「ごめん錆兎!先日、冨岡さんの膝をちょっとお借りしたんだ。錆兎には真っ先に断りを入れるべきだったのに、すまない!」
 そう言って、禰豆子を抱えているにも関わらず深く頭を下げるものだから、流石の禰豆子も目を覚まし、炭治郎に抗議の声を上げている。ごめん禰豆子、と謝りながら、あやすように背をさする。すみません!禰豆子がぐずっているので、ここで失礼します!と、今度は軽く頭を下げて、再びたったか駆けて行った。

「いやぁ、若さってすごいですね、炭治郎君一人来ただけで、すごく賑やかでした。」
 おそらく炭治郎と共に戻って来たのだろうに、口を挟まず傍観していた胡蝶が、ようやく口を開いた。
「それはそうと、冨岡さん、珍しいお姿ですね。とてもよくお似合いですよ。」
「ああ、錆兎と真菰が、」
「それは先程聞いたので結構です。それで、どうしましたか?なほが、あなたが怪我をしていたと言っていましたが、その手首の包帯ですか?」
「痛みはないのだが、圧迫された痕が残っている。早く治す塗り薬などはないだろうか。」
 胡蝶は義勇の正面に座り、いいですか冨岡さん、と諭すような口調で、
「薬を処方するにしても、診察しないと正しい薬は出せないんですよ。痛みはないと言いましたが、痕が残る程の圧迫なら、骨や筋を傷付けている可能性もあります。ちゃんとお医者様に診てもらいましたか?診てもらっていないんでしょう?自己診断はやめてくださいといつも言っていますよね?というわけで、患部を見るので、この包帯は外しますね。」
 まるで雨のように言葉が降り注いだ。義勇の返事の隙を与えないのは、胡蝶が割と本気で怒っている時の癖だ。別に胡蝶に見られることはいいのだが、困ったことに、この場には錆兎もいる。あまり良い顔をしないだろうな、とちらりと錆兎を見てしまったのを、錆兎だけではなく胡蝶にもばれてしまった。胡蝶は、はい取りますねー、とさっさと義勇の手を掴み、遠慮の欠片もなくいとも簡単に包帯を外してしまった。咄嗟に目をそらした。いや、本当に、見た目だけで、痛みとかはないのだ、

 場の空気が凍った。それは、そうだろう。俺も真菰にこんな痕があったら、そうなると思う、と少しばかり現実逃避をした。義勇の手首には、くっきりと人の指の痕が―――明らかに強い力で握り締められた痕が残っていた。
「これは、鬼ですか?見たところ、人の手形に見えるのですが?」
「・・・人だ。」
「相手は誰ですか。」
 胡蝶の口調が厳しくなる。鬼殺をしていると、巻き込まれてしまった人に逆恨みされることもある。一般人によるものだったら、まだ分かる。だが、そうでないのであれば。胡蝶が暗に言わんとしていることを察して、義勇はさっと目を伏せた。
「相手については、既に解決済みだ。言う必要性を感じない。」
「それこそどうでもいいことです。相手は隊士ですね?沈黙は肯定ですよ?分かってますか、冨岡さん。」
 あくまで黙秘は許されないらしい。既に忘れてしまっているが、相手の名前さえ出さなければ、どうとでも誤魔化せるだろうと、おずおずと口を開いた。
「確かに、隊士だ。別に、大したことではない。少し、強引に掴まれて、」
「いいですか、冨岡さん。握った痕が残る程の強さを、少し、とは言わないんですよ。」
「義勇。」
 二人のやり取りを黙って聞いていた錆兎が、義勇の名を呼んだ。それだけで、びくっと義勇の肩が跳ねた。声だけは冷静そうに聞こえたが、むしろ怒りを押し殺して冷静そうに聞こえるだけで、錆兎が怒っている声音であった。義勇は錆兎を見ることも出来ず、顔を伏せたまま、うん、と小さく声を返した。
「相手は男だな。お前、まさか乱暴されそうになったんじゃないよな?」
 え、と思わず顔を上げてしまった。一見無表情に見える義勇だが、その無表情から感情を読み取ることにかけては、錆兎の上に立つ者はいない。今も、どうして分かったんだろう、と思ってしまったせいで、表面だけに浮かべていた錆兎の笑みがなくなった。義勇と異なり、感情豊かな錆兎の顔から表情がなくなるだけで、凄味が増すのだ。ぴりぴりとした錆兎の威圧感に、義勇も慌てて拙いながらも言葉を繋いだ。
「べつに、何かされたわけじゃない。その、隊服とシャツの釦は全滅したが、本当にそれだけで、特に何かあったわけじゃない。俺もびっくりしてしまって、ちゃんと仕返しした、むしろやり過ぎてしまったくらいだ。」
「でも冨岡さん、今回は大事に至らなくとも、誰かが同じような被害を受ける可能性もあるんですよ?こういう話は、ちゃんとお館様に報告して処罰を受けなければ、他に示しがつきません。」
 分かっては、いるのだけれど。どう見ても、胡蝶が思うような男ではなく、真面目そうな青年だったのだ。名前はもう覚えていないけれど。あの手紙にも誠意を感じたし、色々なものが重なってしまっただけで、多分、あの男はもう大丈夫だと思う、とうまく説明出来ればいいのだけれど、それを言うには、あの手紙のことも言わなければいけないだろう。あんな恥ずかしい手紙を、説明出来ようはずがない。思い出しただけで、あの時の羞恥が再燃してくるような気がして、義勇は深く顔を伏せた。
 義勇の様子に胡蝶はため息をついて、
「もしかして、伊黒さんと救援に向かったあの隊士ですか?ぼっこぼこにされていたあの隊士ですか?」
 と、まだ答えやすいものへと誘導してくれた。
「相手が分かるのか、しのぶ。後で教えてくれ。」
「錆兎、本当に、もう終わったことなんだ。」
 そう言って錆兎が今にも暴走しそうになっているのを引き止めて、
「そうだ、胡蝶。その、お前が言うようにぼこぼこにしたのは俺だ。明らかにやり過ぎた。伊黒が止めなければ、危うく殴り殺すところだった。だから現在、隊律違反としてお館様の沙汰を待っている。」
 と、正直に全てを話した。自分のことながら、あの時の自分はちょっとばかし怒り過ぎではないだろうか、と思わずにはいられない。別に突然抱き着かれたわけでも、胸や尻を揉まれたわけでもないのだし。段々と冷静になってきた義勇は、いつもの表情で二人を見返した。苦虫を噛み潰したような表情だった。胡蝶は特に珍しいことではないが、錆兎がそれを隠そうともしないのは、あまりないことだった。
「はぁ?なんであなたが咎められるんですか?被害者ですよ、被害者。あなた、本当に分かってるんですか?」
 いや、伊黒も言っていたが、その、明らかに過剰だったと思う、と声を発しようとしたところへ、胡蝶と錆兎の鎹鴉が飛んで来て一鳴きした。

『至急、本部ニ集合セヨ!至急!至急!元音柱・宇髄天元、冨岡義勇ハ同行スベシ!』





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