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色々飛びます。冨岡さんの幸せな夢ってなんだろなーと考えてはみたんですけど、大体バッドエンドで終わるのしか想像できなくて、まだまだ修行が足りないなと思いました。








 眠っている乗客に伸びていた鬼の手を細切れにし、併せて車体にも細かく傷を刻んでいく。端の車両から順に斬撃を繰り出し、中央辺りで義勇は煉獄と合流した。
「冨岡!俺は後方四両を守る。君は残りの二両を守ってくれ、後の二両は黄色い少年と竈門妹が守る。竈門少年と猪頭少年には鬼の頚を探してもらう。」
「待て、それではお前への負担が大きい。」
「問題ない。君は黄色い少年らが守る車両にも気を配ってくれ。それで丁度良いだろう。もし竈門少年らでは手に負えぬようでは、俺も出張らねばならん。その時は頼む。」
 ではな!時間が惜しい!と煉獄は目にもとまらぬ速さで駆け出している。義勇はすっと息をつき、煉獄とは逆の方向へと走り出した。乗客がどれだけいるかは分からないが、彼ら全員を守り抜けるかは、義勇達にかかっているのだ。



 耳を劈く絶叫は、鬼の最期の断末魔だったようだ。ぐわんぐわんと車体が左右に激しく揺れる。それを修正するように、後方では大きな力がぶつかり合っている。煉獄だろう。威力の高い技をぶつけて、歪みを相殺しているのだ。強引な方法だが、今の義勇に出来ることは彼に合わせることだけだ。常に走り回り技を連続して出してはいるが、これぐらいで呼吸を乱しているようでは、鍛錬不足と錆兎に叱られてしまう、と、義勇は更に刀を持ち直した。

 何度目かの大きなうねりの後、列車は何両も脱線しながら停車した。まだ夜明けではない。横転の衝撃で、外に放り出された者がいないとも限らない。義勇はざっと周りを見、乗客に大きな怪我がないかを確認して、横向きになってしまった窓から飛び降りた。夜目の利く義勇が順に見て回れば、猪頭が車体に体当たりをしているところだった。元気が有り余っているのか、と一瞬呆れかけたが、よくよく目をこらせば、車体に足を挟んでしまった男がいた。伊之助と協力し車体に隙間を作り、這い出る手助けをした。決して軽い怪我ではないが、止血をして手当をすれば死ぬことはないだろう。義勇は手早く処置をしながら、
「お前は竈門達の様子を見て来い。煉獄と合流できたら、彼に指示を仰げ。」
 と、伊之助をその場から追い出した。横でそいつ大丈夫なのか?なあ?死ぬのか?死なねぇのか?とうろうろされて、流石の義勇も気が散ったからだ。
「痛いだろうが我慢しろ。気合いがあれば大概どうにかなる、気をしっかり持て。」
 錆兎が相手であれば、そうだな義勇!と同意してくれただろうが、残念ながら相手は一般人であり、よしんば鬼殺隊の隊士であっても、そりゃ無理ですよ、と弱音を吐きたくなるような助言を残した義勇は、他に被害がないかを確認する為に、その場から離れた。

 次に発見したのは、善逸と禰豆子だ。身体を横たえたまま動かない善逸の傍らに、禰豆子が座り込んでいた。周りには他にも人がおり、おろおろと二人の様子を見つめている。善逸は頭部から出血しているようだった。
「この子は私達を庇ってくれて、」
 と状況を説明しようとしてくれた女性に一つ頷き、善逸の怪我の具合を確かめる。頭部を打ったのであれば心配ではあるものの、幸い出血は少ない。丁度良い、と座ったまま二人の様子を覗き込んでいる禰豆子の膝を拝借し、善逸の頭をそこに乗せる。それでも意識が戻らない。とにかく出血を先にどうにかしようと、患部を手ぬぐい越しに上から押さえつける。
「頼めるか?このまま押さえていてくれ。」
 と、禰豆子に託そうとしたものの、鬼の力で押さえつけてはむしろ強すぎるか、と思い直した義勇は、禰豆子の手を引き寄せ、まず手ぬぐいの上に乗せる。その上に義勇は己の手を重ね、そっと力を込めた。
「力を込め過ぎるな。俺の加減が分かるか?同じように押さえていてくれ。」
 禰豆子は任せてくれ、と言いたげに、ふんふんと何度も頷いた。その頼もしい仕種に、つい義勇も表情が和らぐ。頼んだぞ、と禰豆子の頭を一撫でしたその瞬間、辺りに爆音が響いた。そして、それと共に漂ってきたのは、濃密な鬼の気配だった。


 息を詰めて、義勇は二人の間合いに躊躇いなく飛び込んだ。本来、義勇独自の技である凪は、自分から向かっていくものではない。だが、そうでもしなければ間に合わない。煉獄の放つ技と技との間の僅かな隙に、上弦の鬼・猗窩座の腕が迫る。いや、正確にはその腕から放たれた衝撃波だ。義勇の凪は、間合いに入る悉くを砕くような、万能なものではない。ただ、間合いに入った術を無力化するだけだ。だから、直接の打撃には無意味であるし、拳を防ぐこともできない。身体の至近距離から放たれる衝撃波は、いくら柱であろうとも人である、容易に身体に穴が空くだろう。拳は、まあ仕方がない、案外どうにでもなってしまうものだ。

 おそらく義勇以外、咄嗟に何が起こったのか分からなかったはずだ。義勇は煉獄と猗窩座の間に割り込み、猗窩座の術を凪で無力化した。勢いよく突き出された拳は、なんとか柄で受け止めた。術は凪の前に四散したが、重い拳の勢いは消すことが出来ない。不安定な体勢であり、無理な呼吸の使い方をしてしまったせいで、身体の踏ん張りがきかなかった。煉獄の胸に背を預けた形で、煉獄もろとも後退させられてしまった。吹き飛ばされなかったのは、咄嗟に煉獄が義勇の腹に腕を回して離れないようにしたからだろう。鬼の力に圧されはしたものの、煉獄の身体に穴は空いていないし、被害と言えば、鬼の力を思い切り受け止めた手が少しじんじんと痛む程度だ。
「すまん。助かった。」
「怪我は?」
 そう訊ねながら、一度二度、と咳き込む。僅かばかり肺が痛んだが、些事である。煉獄は軽く背をさすってくれたが、あまり効果はないだろう。
「肋が数本折れているな。細かい傷は分からん!」
「まだやれるか?」
「無論だ!」
 夜明けにはまだ早い。頸を落とすしかない。先に煉獄が飛び出し、一瞬の内に詰められていた猗窩座との距離に、一閃を浴びせかける。もちろん、当たるとは思っていない。二手三手と技を変え、苛烈に攻めかかる。その激しさと力強さは、これぞ炎の呼吸を極めた者の風格だ。このような緊迫した場でなければ、義勇も観客の一人になっていたかったが、あまりに相手が悪かった。猗窩座は余裕すら見せながら煉獄の剣戟をくぐり抜け、迎撃の構えのまま機を窺っていた義勇へと距離を詰め、ずいと顔を覗き込んできた。思わず顔を顰めてしまったのは、仕方のないことだろう。
「初めて見る技だな。まさか水の柱にも出くわそうとは!」
「俺は柱ではない。」
 威嚇の一刀。分かってはいたがひらりと躱され、内心腹が立たぬわけではない。流流舞いで相手との間合いをはかる。最後の一歩で相手の懐に飛び込む技が本来だが、すっと身を引き、身体をかがめて足払いを掛けた。避けられるのは想定内だ。その一瞬にも満たぬ空白に、煉獄から放たれる技が、ごうごうと相手へ襲い掛かる。
「悪くない連携だ。互いによく練られている。よくそこまで上り詰めたものだ。」
「それならば、一太刀でも浴びてくれればよいものを。」
 猗窩座の軽口に、煉獄も忌々しいと吐き捨てる。戦いの最中、器用なものだな、と義勇は思いながらも、目は猗窩座の動きを逐一漏らさず捉えている。速い。せめて腕の一本でもなくなれば楽になるのだが、上弦の鬼の回復速度では、仮に切断に成功したところで、またすぐに生えてきてしまう。
「少し、攻め手を変えるか。」
「分かった。」
 特に打ち合わせをしたわけではなかったが、まあ煉獄であれば問題ないだろう、と一人結論を出し、互いに技と技の間を埋めるように間断なく刀を振っている最中、義勇は煉獄の背に手を置き、軽々とその肩に飛び乗った。
「煉獄、踏ん張れ。よくよく狙って、合わせろ。」
 ぐっと足に力を込め、勢いよく飛び上がる。義勇の目方は決して重くはないが、呼吸を使った義勇の踏み台にさせられ、ぐぐと煉獄の足先も地面に沈む。上空へと舞った義勇に煉獄も意図を察して、義勇を追って飛び上がろうとしている猗窩座に向かって、手数の多い盛炎のうねりを放つ。全力でなかったせいで威力は落ちるが、気をそらすには十分だ。義勇が落下速度を利用して水車の構えをとる。義勇の狙いは腕である、それならばと煉獄は足へと地を這うような斬撃を食らわせた。激しい水流と火柱が混ざり合ってうねり合って、猗窩座の身体に襲い掛かったような幻が見えた。

 手応えは、確かにあった。だが、薄皮一枚に傷をつけたような、そんな感触でしかなかった。義勇は後ろへと飛びのく。煉獄も同様の動きをしていることだろう。
「怪我の加減はどうだ。」
「お前と同じだ。肋が折れてはいるだろうが、痛い箇所が多すぎて分からん。」
「はは、君はまったく、強がらんな!」

「素晴らしい、素晴らしいぞ二人とも!水の柱よ、名を名乗れ。お前の名は何だ!!覚えておきたい!!」
「俺は柱ではない。そもそも鬼に名乗る名を持っていない。」


 どれ程そうして打ち合っていただろうか。持久戦では、どうしても不利になるのは人だ。初めは避けられていた猗窩座の技に、掠るようになっていた。それとは逆に、こちらの技には疲労が出てくる。技に精彩を欠いては、鬼の頚を斬るのは困難だ。血を吐くような鍛錬をこなしてきた二人が、限界を感じる程に打ち合った時間は、決して短くはなかった。それが意味するところは、一つ、夜明けだ。山際から、僅かに、本当に僅かな光ではあるものの、陽光が差し始める。最初にそれに気付いたのは、猗窩座の方だった。次が最後だ、この一撃で、鬼の頚を斬る。この上弦の鬼は、ここで頚を斬らねばならない。
 先に動いたのは猗窩座だ。こちらに背を向けることなく、後退を始める。だが、それを許す筈もなかった。煉獄の不知火が鬼の足を鈍らせる。その間に水面切りで相手の動きを完全に縫い止めた。しかし、義勇にも疲労の色が濃い。振り切った筈の切っ先は、猗窩座の脇から胸に食い込んだまま制止した。猗窩座が筋肉で義勇の刀を受け止めているのだ。義勇は血管が浮き上がる程の力で引き抜こうとしたが、びくともしない。鬼との純粋な力比べでは、どうしても劣ってしまう。冨岡!どけ!巻き込むぞ!と叫ぶ煉獄の声がすぐ後ろで聞こえる。刀を手放すなど、師の教えに反する。いや、このまま鬼を繋ぎ止めていた方が、むしろ好都合ではないか。よぎった思考に、すっと頭が冷えた。頭の中に鏡のような水面が広がって、感情が言葉が音が、ゆっくりと落ちて行く。恐怖は、なかった。これが最上だ。そう決断するのに時間はいらなかった。そのままいけ、煉獄、と心の中で呟く。義勇の表情が変わったことに気付いた猗窩座が、義勇の手から刀を放させようと、腹に拳を叩き込む。折れた肋に響いて痛みが身体中に広がったが、耐えられぬ程ではない。耐えられぬ痛みなど、生きている限り存在しない。義勇は更に強く刀を握り締めた。ここで義勇の刀が振り抜ければ、これ幸いと義勇は返す刀で頚を斬る。それが分かった上での反応だろう。背後では煉獄の奥義が迫っている。己の水の呼吸もそうだが、そこに炎はないのに、事実熱く感じるのだから不思議なものだ。やれ、煉獄、と刹那勝利を夢見た、その瞬間だった。

 ぱきり、とこの場には似つかわしくない、乾いた音が響いた。それは己の内から発した音であったようだが、何が起こったのか、義勇には分からなかった。ただ、意思とは無関係に手からするりと刀が抜けた。何故、と瞬きにも満たぬ間の反射で腕に力を込めたが、痛みが走るばかりで指先に力が届くことはなかった。視線を下に向ける。己の手首がぷらぷらと揺れていた。鬼、しかも上弦の鬼との力の攻防で、義勇の手首はとっくに限界を迎えていたのだ。
 猗窩座はその隙に駆け出していた。義勇にとどめを刺すことよりも、逃亡を優先させたからだ。待て、逃げるな、

「冨岡さん!!」

 炭治郎の声だ。なんだ。今はそれ所ではない。鬼は遠くへと駆けて行くというのに。まだ追える、まだ追い付ける、刀をとれ、まだ終わっていない、終わらせない、逃がしてたまるものか。落ちていく刀に手を伸ばそうとしたが、指先が刀に届くことはなかった。伊之助、間に合ってくれ!と叫ぶ炭治郎の声に重なるように、ぐい、と勢いよく腕を掴まれた。抵抗する間もなく抱えられ、そのままぐるぐると視界が二転三転した。今の今まで義勇がいた場所を地面ごとえぐり取りながら、煉獄が駆けて行く。彼の最終奥義・煉獄だ。義勇に襲いかかるまさに間一髪であった。だが残念ながら猗窩座には僅かに届かなかった。確かに彼の一撃は猗窩座の背を捉えたが、頚を刈り取ることは叶わなかったのだ。次の動作へと移るその一瞬で、鬼は更に遠くへと離れていた。もう手は届かないだろう。煉獄も力尽き、膝をつく。それでも、最後まで諦めなかったのは炭治郎だった。抜き身の刀を鬼の背に向かって勢いよく投げつける。それは矢のように猗窩座の背に刺さったが、もちろん致命傷には至らない。上弦の鬼は、そうして見えなくなった。あたたかな陽の光が差し込み、長い夜が明けたのだった。





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戦闘シーン苦手なんですけどね。技の解釈はファンブックとにらめっこしつつ、ほぼ妄想です。
このペースで行ったら、煉獄さんのターン、軽く3本くらいになるんですけど。こわい。
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