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お題

『孤独な王様へ』


 さ ・・・ 裁きの君



 一個前の『お前の苦しみはお前だけの』の続きです。
こいつぁひどい話だ!










裁きの君



 雷蔵は三郎の姿を見つけるなり駆け出した。竹谷が引きとめようと手を伸ばしたようだが、それよりも早く雷蔵の足が動いてしまったようだ。僅かな距離にも関わらず、雷蔵は息を切らせて三郎の前に立った。三郎の隣りに佇んでいた兵助はどうしていいのか分からず、三郎・雷蔵・竹谷を代わる代わる眺めていたが、へらりと雷蔵が笑みを浮かべれば、兵助はそれだけで納得したようだ。口出しをしてこなかった。

「ああ ごめんよ、ごめん。本当に悪いことをしてしまった。こんなに腫れて、痛いだろうに。どうして冷やさなかったんだい?いや、ごめんね、これは責任転嫁と言うものだ。引っ叩いたのは僕だもの、ごめんね、ごめんね。」
 雷蔵は早口でそうまくし立て、三郎の赤く腫れ上がっている左頬に手を伸ばした。熱を持ってしまっている、早く井戸に連れて行かないと。まったくまったく、この男は自分のこととなると、無頓着過ぎやしないだろうか。いや、それを知った上で、僕は彼の頬に、誰もが修羅場を想像するようなもみじを残したのだ。だって、それほどにひどい、ひどいことを彼は仕出かしてしまったのだ。自覚をしてくれ、と言っているわけじゃない。彼は十分に自覚をしているだろうから。では、何だ。己のこの酷い仕打ちは何だ。

「雷蔵、」
「あ、まだ、お前は着替えてないじゃないか。僕も軽く水浴びしただけだから、一緒に風呂へ行こうか。」

 雷蔵は彼の呼びかけには応えず、ほら、と三郎の手を引いた。思考にストップをかけた三郎の声を、必死になって意識の外へと追いやる。


「雷蔵、私は後悔などしていないよ。」


 思わず足が止まってしまった。この男はずるいのだ。いつだって悪役は自分、なじられるべきは自分と、雷蔵の位置を上へ上へと置いてしまっている。いつ誰がそんな仕打ちを望んだと言うのだろう。


「私は後悔などできないよ。きっと、同じようなことがあれば、私はまた繰り返す。そうしてきみの矜持を傷付けてでも、自己満足の為に、」

「三郎、僕はお前に守って程、弱くもなければ意気地なしでもないよ。それに、お前に守ってもらって喜べるような薄っぺらな人間でもないんだ。」


 「三郎、」と振り返れば、彼もまた、雷蔵の名を呼んだところだった。声が重なる。視線が合わさる。さっさと心を読んでしまえ。そうすれば、こんな恥さらしのような会話を切り上げてしまえるのに。残念ながら、雷蔵はもちろん三郎すらも、そんな便利な能力を持ち合わせていなかった。お前は天才なのだろう、それぐらいの特殊能力持っていないだなんて。いつも理不尽を責めるのは雷蔵だ。三郎は人の限界をよく知っていた。人の限界を勝手に見切っては絶望したり歓喜したり、忙しい男なのだ。


「知っている、知っているとも、雷蔵のことだもの。きみの努力の全てを見てきた私だもの。」


 ぎゅうと繋がっている右手を握り締める。三郎はされるがまま、力を込めることもしなければ、逃げ出そうともがきもしなかった。彼はいつも、雷蔵からもたらされる ” 何か ” を受け入れてばかりだ。拒絶という言葉を知らないのだろうか。拒絶という言葉が示す意味を知らないのかもしれない。それでお前は幸福だろう、僕はこんなにも苦しいのに!けれども同様に、彼が苦しい苦しいと呻いていることも知っている。それなのに、お互い、どうすればその苦しみから逃れられるのか、全く見当もつかないのだ。


 三郎は空いている方の手を顔に持っていき、そっと片目を覆った。顔を伏せてしまう。

「嗚呼でも、無理、無理なんだ。分かってくれとは言わないし、言えない。きみに何かを押し付けたくはない。だから雷蔵、一つだけ、たった一つだけ、お願いだ。」

 言わせまいと、雷蔵は三郎の肩をぐいと抱き寄せた。手を後頭部に回して、己の肩に顔を押し付けたが、彼の言葉を封じることは出来なかった。むしろくぐもった声が直接身体響き渡るような錯覚に、雷蔵は必死になって声を飲み込まなければならなかった。泣いてしまえばいいのか。彼の代わりに泣いて泣いて、彼の涙を飲み込んで飲み干して、奪い取ってしまえばいいのか。


「あきらめておくれよ、私は雷蔵の一番をあきらめるから、だから雷蔵も、私の一番が きみ であることを、あきらめておくれよ。未来永劫、私の一番は雷蔵、きみ以外に考えられない。」






***
ひどい話だ!この会話の数分後には、二人仲良くお風呂に連れ立ってるんでしょうね。もちろん、竹谷も一緒です。兵助もくっ付いてきました。割とこんな噛み合わない会話ばっかしてるので、外野二人も慣れっこ。真綿で首を絞め合ってるようにしか見えない二人だ。でも結構そんなイメージです、二人は。
Q.救いは必要ですか? 
A.必要ありません。

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